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英雄譚  作者: 鈴木 雫
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第五十八話


(間話―天才な凡人)

・フィリス視点


 自分は賢いと思う。

 なぜなら、家族で唯一『魔法』を使うことができた。それも、独学で。

 最初は無自覚だった。

 机の上の物を取ろうとした時に手を伸ばしたら、引き寄せられるように物が近づいてきた。

 それから、何度か試している内に両親に発見され天才と呼ばれるようになった。

 すぐに、両親は『魔法』を使える人に話を聞きに行った。

 私の産まれた村では魔法師が少なかったから、新たな魔法師の誕生にお祭り騒ぎだった。

 そんなことをされたら、勘違いしてしまう。自分は選ばれたんだと。自分こそが天賦の才を持って生まれてきたのだと。

 大人になって、村を出た。

 村が嫌いだったわけじゃない。

 もっと自分の知見を広げたかった。

 自分の才能に酔いしれていた私は、『魔法』の研究に時間を費やした。

 誰にも会うことなく、『魔法』にだけ没頭した。

 楽しかった。自分が選ばれた者であるという誇りを胸にやりたいことを延々とできることを。

 気分転換に街へ出たことがあった。何か欲しい物があったわけではないし、何か目的があったわけでもない。

 なんとなくだ。なんとなく、出て行ってみたかった。

 そこで目にしたのは、自分が想像もしていなかった世界だ。

 街ゆく人全員が『魔法』を使い、生活をしていた。自分の村ではありえなかったことである。

 住んでいる誰もが当然の顔で『魔法』を使っていた。

 ならば、ここに居る全員が選ばれたのだろうか?

 違う。『魔法』が使えることに、特別感なんてなかったのだ。自分が産まれた場所では特別だっただけで、大多数はそうは思っていなかった。

 でも、当時の私はこれを受け入れられなかった。

 特別だと信じていた自分の才能。真似することなどできないと信じていた技術。疑うことを知らなかった若人の知識。

 自分のすべてが、目の前の光景を否定した。

 家にはすぐに帰った。逃げるように走った。不思議に思う誰かを無視して。


 その日以来、『魔法』が嫌いになった。

 嫌いは言い過ぎたかもしれない。でも、似たような感情。

 あれだけ好きだった『魔法』の研究もしなくなり、自堕落な生活が続いた。

 実家に帰るのが恥ずかしかった。実は、あなたの娘は特別でも何でもありませんと言っているようなものだと感じた。

 だから、手紙等も一切出さずに一人で自分を慰めた。


 ある日の夕方。一人の男が家を訪問してきた。

 名前はガルフォードというらしい。


「なんの用だい?」

「力を貸して欲しい。」

「は?」


 意味が分からない。

 なんで、自分なんかに助けを求めるんだ?


「なんの話?」

「優れた魔法師がここに居ると聞いて訪ねてきた。君だろ?」

「人違いだね。私は優れていない。」

「でも、魔法師なんだな。」

「一応ね。でも、そこらへんに居る子に声を掛けた方が良いと思うよ。」

「なぜだ?」

「私は、何も特別じゃないからさ。」

「自己評価が低いんだな。」

「正確に自分を理解しているだけだよ。」


 ガルフォードは困った顔で、こちらを見る。

 失望したのだろうか?落胆したのだろうか?幻滅したのだろうか?

 何も持ち合わせていない自分には関係ない。


「君、名前は?」

「フィリス。」

「良い名前じゃないか。さぁ、行くぞ。」

「は?」


 いきなり手を掴まれ、引っ張られる。


「な、なにを!」

「行くぞ。フィリス。」

「は、離せ!」

「なんだ?」

「なんだ?じゃないよ!何してるのさ!!」

「ダメか…」

「何がしたいんだ…」


 意味が分からない。

 やっていることは蛮族と何も変わらない。

 正体不明のこの男は盗賊か詐欺師の二択まで分かってきた。


「あ、そうだ!」


 何かをひらめいたらしい。


「君、可愛いね。」


 だめだ、こいつ。


「その青い髪色、透き通るような肌、抱き着きたくなるようなフォルム、未来を見通す目!完璧だ!」

「はぁ…」

「よし、行くぞ。」


 なんの説明にもなっていない。

 手を掴まれる前に扉を閉める。


「おい!仲間に向かって何をする!」

「なんなのこいつ…」


 突然訪ねてきた不審者はそのまま朝になるまで何かをしゃべっていた。


 次の日の昼前。

 ようやく、静かになったので扉を開けてみる。

 家の目の前で眠っているガルフォードの顔があった。


「はぁ…」


 まだ朝方は寒いため、丸まって寝ている。

 何がしたいのか全く分からない。


「ねぇ、ねぇ!」

「ん?」


 目を擦りながら起き上がった。


「何がしたいの?」

「おはよう。フィリス。」

「あんたは、何がしたいの?」

「仲間にならないか?」

「説明になってないんだけど。」

「良いじゃないか。すまない。朝食をくれないか?」

「…良いけど」

「助かる。中に入ってもいいか?」


 どうしよう…。

 盗賊とかだったら、何か盗られるかもしれない。

 犯罪者とかなら、共謀したと思われるかもしれない。

 でも、この人がやたらと可哀そうに思えてきた。

 怪しいけど、入れてあげるか…。


「良いけど…何もしないでよ。」

「当たり前だ。仲間に変なことはしない。誓おう。」


 この人の中で、私はどんな立場に居るのだろうか。


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