第五十六話
・ジル視点
「レンジ!!!」
やばい!目を離すんじゃなかった!
廊下に誰も見えなかったから帰ってきたら全身から血を吹き出したレンジが倒れていた。
血の池の真ん中で寝ているレンジ。その周辺に腹でもかっぴらいたのではないかと思うくらいに飛び散った臓器。
見れば誰でも判断できる。『魔法』のリバウンドだ。
ギルの負傷をなるべく治して、馬車に戻ると思ってた。
でも、そうではなくて完治しようと思ったんだ。レンジは。なんで自分がこうなってまで『魔法』を使ったのか知らないが、おそらくだが理解していなかったのだろう。
フィリスに昔聞いたことがある。
『魔法』初心者はどこが自分の限界か理解できずに魔力を使い過ぎてしまうと。その結果、知らず知らずの内に死に引き寄せられると。
まずい。先ほどのギルよりも重症だ。死んでいてもおかしくないくらいに。
ギルは傷が完全に完治したのか、目を覚ました。
状況は理解できていなさそうだ。レンジを助ける方法を見つけなくては。
「あれ…俺、傷が…?」
「ギル!!レンジが!!」
「?」
「レンジを治さなきゃ!!」
「分かった。」
おそらく状況は理解できていないだろう。
でも、それでも、俺の言葉を信じてくれる。
「そうだな…。あれをやろう。」
「同意見だ。」
「当たり前だろ。兄弟なんだから。」
「うん。」
「行くぞ。」
「うん。」
「「『共鳴』」」
俺たちは『魔法』が碌に使えない。それはこの『共鳴』のデメリットだとフィリスは言っていた。
兄弟間で言葉やジェスチャーを使わずに意思疎通ができる。だから、戦闘中何も言わなくても連携できる。
そして、最大の特徴は兄弟以外も使用できる点だ。しかし、そんなに便利な品物じゃない。
共有できるのは、傷だけだ。『回復』や『治癒魔法』とは違って傷を治すのではなく、傷を分割することで難を乗り切る。
そして、厄介な点がまだある。兄弟が両方意識を保っていないといけない点。兄弟が至近距離に居なくてはいけない点。傷を第三者と共有した時に制約を3人で共有しなくてはいけない点。
最後が最も厄介で使い勝手が悪いところだ。制約。3人で共通の禁止事項を作らなくてはいけない。これは勝手に作られる。これを破ることはできない。
俺たちは『共鳴』を使っているから、2人だけの制約がある。それは『剣以外の武器を使うことができなくなる。』というもの。
俺たちはこの制約を結んでいるから、二人とも剣しか使わない。でもそれは、そんなに大した制約には思えなかった。だって、そもそも剣以外は使えないからだ。
今回はどんな制約が結ばれるか分からない。成功後は3人とも頭の中にこれをしてはいけないと刻まれる。
簡単な物であることを願う。
・レンジ視点
「は!?」
あれ?ギルの体を治していたはずなのに、寝転がっているのは俺だった。
でも、ギルは普通に座っているし成功したのか?疲れて眠ってしまったのかな?
体を起こす。
「痛った!?」
なんだ!?攻撃でもされたのか!?全身が痛い。
しかも、なんだ!?この血の量は!?死人でも居たんじゃないかと思うくらいの血液の量。しかも、中心に居るのは俺だ。
俺は、ていうか、なにがあったんだ?
「「レンジ!!」」
「うわぁ!」
起き上がったばかりの俺にジルとギルが泣きながら飛びついてくる。二人とも、血を流しながら。
もはや、涙か血か分からない液体が飛んでくる。
「どうした!?」
「良かった~!!」
「レンジ!ありがとう!!」
「は?」
全然状況が分からない。
「何があったの?」
「ありがとう!ありがとな!!レンジ!!」
「よかった!よかったよ!!レンジ!!」
「え?は?」
二人が泣き止むまでしばらく待った。
二人は俺の服がべとべとになるまで涙を流し続けた。
泣き止んだ頃に話を始めた。
「何があった?」
「そんなより」
「馬車に戻ろう。」
「え?あ、ああ。そうだね。」
さすがに翼は出ないだろうと思ったら、普通に出たし飛べた。
そのまま窓から出て、空を飛び馬車の方へと戻った。
馬車に戻るとオルメンドがみんなの治療をしていた。『魔法』ではなく、普通に。
現状、フィリスは再起不能に近い。両腕を失い、目覚めるか分からない。
ガルフォードとイザルナは回復次第動けそうだ。
到着して、傷を応急処置してもらった後にジルとギルから話を聞いた。
『回復』は成功したらしい。でも、調子に乗った俺がやりすぎたらしい。その結果『共鳴』で制約を結ぶことになった。
その内容は『無機物を持てなくなる。』だ。
戦闘面だけでなく、生活面でもかなりの痛手だ。
俺のせいでこうなってしまって申し訳なく思う。
もはや、2人は再起不能と言っても過言じゃない。
俺には爪があるから、武器を持たなくても戦えるが、二人は違う。ここで、3人脱落はかなり痛い事実だろう。
イザルナが起き次第、次の動きを決めなくてはいけない。
しかし、今は少し眠ろう。かなり疲れている。傷もそこそこあるし、これ以上体に無理をさせるわけにはいかない。




