表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄譚  作者: 鈴木 雫
54/85

第五十四話


(間話―兄弟喧嘩②)

・ギル視点


「脱獄してみない?」

「「うん!!」」


 兄弟揃って同じ答えを即答した。

 おそらく、弟も悩まなかったのだろう。

 この人にメロメロなだけかもしれない。


「じゃあ、頑張ってね。」

「え?」


 手元にあった鍵で檻を開けてくれる。


「ある程度は案内できるけど、外までは連れていけないから頑張って欲しい。」

「え…」


 冗談じゃない。

 王宮の地理なんて知るわけがない。

 この状態でほっとかれたら、すぐにでも捕まってしまう。

 脱獄なんて知られたら、明日を待たずにその場で処刑されるだろう。


「外まで来てくれないの?」

「そんな可愛い声出されても、難しいね。私はそんなに自由を許されていないから。」

「え~…」

「すぐに会えるように頑張るから。ほら、行くよ。」

「う、うん」

「行くぞ。ジル。」

「ほら、お兄ちゃんみたいに気合入れて。」

「うん…」


 ジルはお姉さんと手を繋ぎながら、歩いていく。

 看守は居ない。どこへ行ったのだろうか。

 空洞のような場所へと案内された。

 空洞の前には人が入れないように格子がはまっている。

 お姉さんは簡単にそれを取り外すと、そこへと俺たちを乗せる。


「ここからは二人仲良くね。」

「お姉さんは?」

「私は、後処理があるから。」

「でも…」

「ジル。くどいぞ。」

「うぅ…」


 ジルの泣きそうな顔に苛立ちを感じる。

 その空洞は風が吹いているように感じた。

 外へとつながっているみたいだ。

 あまり居心地の良い空間とは言えそうもない。

 まず、匂いが酷い。あと、単純に汚い。

 ここを進むのは抵抗があるが、進むしかない。


「ほら、行くぞ。」

「…うん。」


 ジルを無理やり引っ張って歩かせる。

 ジルはお姉さんが見えなくなるまで視線を離すことはなかった。


 しばらく歩いた。

 大人では通れそうもない狭い通路を四つん這いになり進んでいく。

 全身が泥だらけだ。泥もどんどん湿っている。

 外が近いのだろうか。

 明るくなってきた。外だ。

 ペースを上げて明るい方へと歩いていく。


「ま、待ってよ、お兄ちゃん!」

「静かにしろ。外に人が居たらどうすんだ!」

「お兄ちゃんだって、うるさいじゃん。」

「あ!?大体!いつまでめそめそしてんだよ!」

「泣いてないもん…」

「ちっ」


 兄弟仲は最悪である。

 それもそうだ。牢屋の中ではろくに話していなかったし。


「外だ。」


 明かりが差し込めるその場所は、どこかの森の中のようだ。

 周囲に人は視認できない。

 脱獄に成功したということで良いのだろうか。

 出口は狭く、子供でも厳しい。

 無理やり体をねじ込んで外へと出る。

 静かな森の中。誰かが歩けば音が響くであろうくらいの静けさ。

 どこかも分からないが、ここなら数日潜伏しても問題ないだろう。


「ほら、ジル。来いよ。」

「俺…行かない。」

「は?」

「お姉さんが来るまで行かない。」

「お前…」

「お兄ちゃんと二人なんて嫌だ!!」


 ジルは泣きながらそう訴えた。

 弟の嗚咽だけが森に響く。

 動物の泣き声よりも鮮明に、確かに、鮮やかに奏でられる。


「大人が来たらどうすんだよ!」

「うわぁぁん!!」

「静かにしろ!」


 ジルは泣き止むことなく叫び続ける。

 これでは誰かに気づかれるかもしれない。

 すぐにでも止めなければいけない。


「どうしたんだい?」

「!?」


 後ろから人間の声がする。

 ジルの泣き声の中でもはっきりと聞くことができた。

 男性の声だ。そして、大人。


「子供がこんなところでどうしたの?」

「い、いえ、べつに…」


 振り返ることなく応対する。

 冷や汗が止まらない。もし、兵士ならここで首を刎ねられるだろう。


「そこに誰かいるのかい?」


 声色から優しい人物であると想定できるが、そんなことがどうでもよくなるくらい心臓がうるさい。

 恐怖で声が出せない。

 肩に手を置かれた。


「どうしたんだい?」

「っ!?」

「そんなに怯えて、大丈夫?」

「な、なんでも、ないです…」

「震えているけど?」

「少し、寒くて…」

「この気温で?」

「え、ええ。」

「まあ、良いか。その穴に誰か落ちてしまったのかい?」

「お、弟が…」

「そっか。助けるのを手伝うよ。」


 そういうと、その男は穴に手を入れジルを引き上げた。

 さすがは大人の力だ。ジルくらいの小柄な少年は簡単に持ち上がるらしい。


「二人ともかなり汚れているね。」

「お、俺たち、帰るので。」


 ジルは声を出すことなく、涙を流し続けている。

 ジルの頭を撫でようとした男が視界に入った。

 剣を持っており、軽装な鎧を身にまとっている。

 聞かなくても分かった。兵士だ。

 どこからなんの目的でここに来たかは知らないが、あまり長居しない方が得策に思える。


「ほら、ジル、お礼を言って帰るぞ。」


 無理やり平静を装い、行く当てのない帰路につこうとする。


「待ちなよ。」

「な、なんですか?」

「ここらで脱獄した少年を探していてね。見なかったかい?」


 体中から汗が噴き出る。

 震えが酷くなり、目の前が歪むようだ。

 必死に平常心を心がけるが、向こうも異変に気が付いたみたいだ。


「どうしたんだい?そんなに震えて。」

「い、いやぁ…」

「そういえば妙だね。こんなところに遊びに来るなんて。」

「な、なにがです?」

「ここは、王宮に近いから侵入できないはずだけど。」

「!?」

「しかも、君たちは脱獄衆と特徴が一致しすぎているね。妙だね。」


 男は何か確信をついたような笑みを浮かべた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ