第五十話
・ジル視点
久しぶりの王宮。でも、中身はほぼ覚えていない。
居た期間が短かったというのもあるけど。
ガルフォードと別れて、すぐのこと。迷子になった。
いや、迷ったわけではない。こっちに行ったらいいとギルが言い出したからついて行ったら、分からなくなっただけだ。
俺は迷ってない。ギルが迷ったんだ。
道案内担当はギルだ。だから、俺は迷ってない。今決めたことだが…。
その時、ギルも全く同じことを考えていた。
姫様のことを探したいが、心当たりがない。
ガルフォードにはこっちを探してこいと言われたが、俺は全然道を覚えてない。
ギルが覚えていると思ったから返事をしただけだ。
どこのドアを開ければどこに続いているのか見当もつかない。
どうやって探せばいいのだろう。
少し、走り回ると大きな扉を見つけた。そこを開けると書庫のようだ。
一人の暗い青髪の男が本を読んでいた。そういえば、王宮で初めて人を見る。
しゃべりかけるか、迷う。ギルと顔を見合わせてどうするか考える。
「ちょっと待って。」
男はこちらに話しかけているみたいだ。
本にまだ集中している。こちらには見向きもしない。
ここには用がないし、扉を開けて帰ろうとする。
「待ちなよ。もう少しで終わるからさ。」
「別に」
「お前に」
「「用はないぞ。」」
「良いからさ。座って待っていてよ。もうちょっとで終わるからさ。」
「いや」
「俺たちは」
「「先を急ぐんだ。」」
「へぇ。部屋も分からないのに?」
「「……」」
だとしても、ここで油を売っている場合じゃない。
すぐにでも、姫様を助けないと。
「俺たちは」
「すぐにでも」
「「行かなくちゃいけないんだ」」
「良いじゃないか。イザルナ様はもう回収されそうだよ。」
「「!?」」
「驚いたみたいだね。顔を見なくても分かるよ。」
まだ顔を上げず、本を読んでいる男はそう言った。
ギルと顔を見合わせ、信じられないような顔を見せる。
「そんなに急がなくてもいいみたいだね。じゃあ、ゆっくりしていきなよ。」
「だとしても」
「ここに」
「「居る必要がない」」
「二人とも息ぴったりだね。良いよ。本を読んでいるけど応対しよう。」
本を閉じて、こちらを初めて見る。
「初めまして。ガルザンだ。よろしく。」
「ジル」
「ギル」
「そっか。君たちは本が好きかい?」
「「いいや。」」
「そうなの?残念だな。本は素晴らしいのに。」
「持論を」
「展開する奴は」
「「碌なやつじゃない。」」
「確かにね。ごめん。気を付けるよ。」
ガルザンの腰に剣が見えた。
戦闘できるタイプのようだ。しかも、頭もキレる。
これは厄介そうだ。
「安心しなよ。あまり戦いは好きじゃないんだ。」
「なら」
「なんで」
「「止めた?」」
「そうだね…少しお話しようと思って。」
「「話?」」
「そうだよ。戦いなんて物騒な考え方じゃなくて、話し合いで決めようよ。」
「「何を話し合うんだ?」」
「君たちの結末についてさ。一応君たちは裁かなくてはいけないからね。王様が長い間探している戦争反対派の一派だからね。ここで殺しておかなくてはいけないんだ。」
「結局は」
「戦うんだな。」
「そうなってしまうね。でも、逃れる方法はいくつもありそうだ。」
「「何?」」
「まず、私が君たちを殺すかどうかだよ。例えば、この本。先ほどまで私が読んでいたこの本。実は7回読んでいるんだ。何回読んでも結論は変わらない。当然なのだけどね。」
「「は?」」
「でも、数回読んでしまう。結末が変わっているかもしれないでしょ?本棚にしまったときに、誰かが書き直してくれているかもしれない。『魔法』で内容が変わっているかもしれない。こういった恐怖が読書を強いてくる。」
「「大丈夫か?お前。」」
「要はね。その時々で自分の主観が変わるかもしれないから自分のために本を読んでいるんだよ。その時々で変わる感想なんて、寝言と一緒だよ。意味がない。何回繰り返しても、同じ感想しか出てこない作品こそが至高だと思わないかい?」
「「……」」
全然何言っているか分からない。
二人とも黙りこくってしまった。
これになんの意味があるのだろう。
「だから、今でも未来でも過去でも自分ならこうすると思うから読書をやめたんだ。いつの自分でも、戦うと思うから今から戦う。そして、どの自分でも負けないと思うからここで待っていたんだ。」
「「…やるのか?」」
「そうだね。時間も稼げたことだし、戦おう。『顛末』」
『魔法』を使うってことは親兵か。
苦手なんだよな、こいつらの戦い方。




