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英雄譚  作者: 鈴木 雫
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第五話

提案に足がすくむ。


「そ、それは…」

「今すぐじゃなくてもよくてよ。」

「そうですか…」

「明日にでも船を手配するつもりだから、それまでに決めてくれる?」

「わかりました。」


 即答はできなかった。ここでも怯えてしまっている。

 すぐにイザルナはどこかへ行ってしまう。

 生きて村に帰りたい自分と、ここで誰かのために命を張りたい自分。どちらが本音かわからない。

 臆病者の英雄願望者はどちらを選ぶべきだろうか。何を本音にするべきだろうか。

 一日中考える。頭が焼き切れるくらいに考える。

 戦場での恐怖が頭から消えない。あの恐怖をもう一度体験した俺は、また地面を両足で蹴ることができるだろうか。次はないんじゃないだろうか。

 恐怖が俺の隙間に入り込んで抜けない。


 次の日の朝。船のある所まで移動した。大所帯を乗せる船は立派な物だった。

 初めて、船というものを見た。こんなにも大きなものが存在するなんて驚きだ。これで水の上を走り、獣人よりも早く移動できるなんて想像もできない。


「レンジ。決まった?」


 イザルナが昨日の話の答えを聞きたがっている。

 もう、決めていた。


「俺を連れて行ってくれ。」


 それが、臆病者の答えだった。

 覚悟といえようか保身だったのかもしれない。自分の弱さを認めたくない臆病者の保身。英雄譚に自分の名前を載せたい保身。

 自分に言い訳しないと成り立たない正義は英雄なりえるのだろうか。


「じゃあ、よろしくね。レンジ。」

「よ、よろしくお願いします。」

「良いのよ、そんな言葉使いじゃなくても。」

「そ、そう。」

「うん。そっちの方があなたらしい。」

「ありがとう。」


 イザルナは笑顔で迎えてくれた。


「みんなに紹介するわ。」

「分かった。どこへ行くんだ?」

「拠点よ。」


 あまり説明になっていない。

 馬を連れてきてくれたらしい。他にも3人の人間がいた。こちらも髪色がバラバラで少し驚く。


「よろしくな。」

「何、馬に話しかけてんだよ。」

「は?」


 茶色の髪色の男が突っ込んでくる。


「え、獣人の背中に乗せてもらうんだよな?」

「ああ。そういうことか。すまない。彼は獣人ではない。」

「え?」

「それは馬という生き物だ。」

「うま…?」

「言葉は話せない。なんて説明すれば理解できるだろうか…」

「ガルフォード急いで。」

「はい。レンジ後で話す。急げ。」


 困惑している中で、急かされてもさらに困る。

 話さない獣人の背中なんてどうやって乗るんだよ…。いつも乗せてもらっているからやり方なんて知らない。


「どうした。レンジ。」

「どうやって乗るんですか?」

「こっち来い。一緒に乗るぞ。」


 二人で乗り、俺が乗らなかった馬は引いて帰った。

 拠点と言われる場所に到着した。なるほど、場所を聞かれても言いにくいわけだ。

 深い森の中にある一つの小屋。それを彼らは拠点と呼んでいた。目印のない森は最高の隠れ家というわけか。

 水辺も近いし、果物や虫も多く取ることができるだろう。食料にも困らなさそうだ。


「レンジが仲間に入った。よろしく頼むぞ。」

「レンジ…?信用できるのですか?」

「貴様…!姫を疑うのか!」

「熱くなんなよ。」

「表に出ろ。愚者め!」

「やめて。二人とも。」

「分かりました。」

「悪かったよ。」


 親に怒られた子供のように小さくなる二人。

 身長が低く。子供だと思われる二人。二人とも赤い短髪で兄弟のようにも見える。


「彼らは、ジルとギルよ。双子なの。でも相性が悪くてね。」

「よ、よろしく…」

「「おう」」

「まだ子供でね。仲良くしてあげて。」

「姫。子供じゃないです。」

「こいつと一緒にするな!」

「二人とも黙って。」

「「はい」」


 面白いくらいに息が合っているようにも見える。


「彼…とはさっき会ったわね。ガルフォード。剣士よ。」

「よろしくな。レンジ。」

「よろしく。」


 茶色の髪を後ろで結んでいる男だ。体型がしっかりしていて、歴戦を連想させる。

 この中で一番の戦力なんだろう。


「彼がレイヴァン。おとなしそうな人だけど強いから安心してね。」

「よろしく。」

「…」


 緑色の髪を地面まで伸ばし、顔どころか全身を隠している。男女が分からないその容姿に不思議な畏怖を覚える。


「彼女がオルメンド。ここで家事をしてくれてる。」

「よろしくお願いします。レンジさん。」

「お願いします。」


 一番まともそうな人だ。礼儀作法がしっかりしている気がする。

 紫の髪を肩まで伸ばし、仕事着を着ている。これが噂で聞いたメイドとかいうやつか。ちょっと良いな。いや、大分良いな。


「最後に彼女がフィリス。私と同じ魔法使いよ。」

「頼むよ」

「お願いします。」


 青い髪に帽子をかぶっている。髪の毛は腰まである。

 少し不潔そうな格好だ。寝不足なのか、顔色が悪い。


「以上が愉快な仲間たちよ。質問ある?」

「姫って?」

「ああ、私のこと?」

「そう。」

「私、アルドリアの第二王女なの。」

「え…」

「だから、姫。」


 そんなさらっと流していい話じゃなかった気がする。

 第二王女。ぱっと想像するだけでも偉い人なのはわかる。多分俺が想像しているよりも偉い人なんだろう。

 なんでこんな人がここに?そんな質問が喉に引っかかる。言葉にする前に次の話をイザルナがし始める。

 今後の地獄のような日々について。


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