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英雄譚  作者: 鈴木 雫
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第四十九話


 レンジが馬車に到着する少し前。


・オルメンド視点


「やっぱりこの辺だと思ってたんですよね~。」


 茶髪の男が近づいてくる。

 その目は敵意を示していた。

 自分が何とかしなくてわ。

 ルガン君はさっき寝てしまったし、レイヴァンさんは何考えているか分からないし。

 ここは時間を稼ぐしかない。


「あなたは…?」

「しらを切らないでくださいよ~。オルメンドさんですよね~。」


 そう。私はこの男を知っている。

 王宮で働いていた時から知っている。

 親兵、ザイラス。かなり有名だった。

 無表情に淡々と仕事を遂行するガルフォードさんと違って、笑顔で意気揚々と殺しをする変態らしい。

 だから、メイドの多くは関わりたがらなかった。

 私も数回しゃべる程度の仲だったが、その異質さゆえに印象が深い。


「ザイラスさん。何しにいらしたんですか?」

「茶化さないでくださいよ~。あなたたちの行動はバレているんですよ~。今頃他の親兵が殺して回っているんじゃないですか~?」

「いえ、彼らは強いですから。負けたりしませんよ。」

「ですよね~。ガルフォードさんが負けるところは想像できないし、あ!でも、他の面々はどうでしょう~?親兵に勝てる人居るんですか~?」


 正直、戦闘面は分からない。

 誰がどれだけ強いのか、全然知らない。

 今は彼らに心配をかけないように、目の前の男を足止めするくらいしかない。

 それに、馬車をやられる訳にはいかない。

 剣を取りだしてこちらに向かってくる。

 そうだ。お嬢様は何かあったらレイヴァンに泣きつけと言っていた。

 彼ならどうにかしてくれるのかもしれない。

 レイヴァンの方を向くが、彼は髪が長すぎてどこを向いているか分からないし、表情がつかめない。

 動く気配すらない。

 かなりまずいかもしれない。


・ザイラス視点


 やはり、当たりだった。

 王宮に何者かが侵入してきた段階で、移動手段をどこかに隠していると思った。

 そこで、近くに潜伏しそうな場所に目途を立て、探したらまさか一回で見つけられるとは。

 僕も運が良い。

 目の前の3人では僕に勝てない。

 オルメンド。メイドで戦闘力は皆無。

 緑髪の男。あの見た目から察するに訳アリの人物だろう。剣を持っていないところをみると戦闘係ではない。

 無人の馬車を見ると、引っ張る動物が近くに潜伏しているはずだ。いや、彼らは【共和国】に行っていた。獣人が居るのかもしれない。

 獣人なら敵じゃない。人間に勝てるわけがない。

 腕力しか取り柄のない種族だったはずだ。

 これほど簡単な作業でよかった。

 強い相手はいたぶるまでに時間がかかるから。

 すぐに終わらせて、拷問でもしよ。

 オルメンドに近づき、剣を振り上げる。

 恐怖で硬直しているところに切ろうとするが、木の枝が飛んでくる。

 飛んできた方向を見ると、髪の毛で何も見えないはずの男が立っていた。


「あなたは?」


 自分の好奇心を抑えることができない。

 殺気のない攻撃。

 こんなのは初めてだ。


「お名前伺っても?」


 オルメンドなんてどうでもいい。

 今は、目の前の男とやりやってみたい。


「何も答えてくれないですね。」

「……」

「良いでしょう。無口は嫌いではないですよ。」

「……」


 目の前の男は立ち上がると、手には木の剣を持っていた。


「?それはなんです?」

「……」

「まさか、それで戦うのですか?」

「……」

「不気味なあなたを気に入りました。『相愛』」


 『相愛』は自分が気に入った相手にのみ使うことができる。相手は自分が最も好きな武器を使うことができなくなる。

 好きでもない僕に好かれ、一方的に信用している無機物に見放される。僕はこの一方通行を愛している。

 目の前の男は剣士だ。剣を使うことができなくなる。

 さぁ。何を使うか楽しみだ。

 目の前の男は木の剣を捨て、素手で殴り込んでくる。

 その圧倒的な速度に反応が遅れる。


「あぶな!!」


 頬に傷ができる。

 なんだ。この速度と力は。一発でも当たれば肉体がもたない。

 必死に次の攻撃を避ける。間髪入れずに次の攻撃がやって来る。

 攻撃を返す余裕がない。

 汗が噴き出して、負けの二文字が自分の頭によぎる。

 そんなことは僕自身が許さない。

 この目も見えてないような男に負けるはずがない!

 蹴りを避けた瞬間に、右から剣を振る。

 剣は男の体に当たる前に折れた。いや、砕けた。もはや原型がなんであったか分からないくらいに。


「なっ!」


 剣を素手で粉砕しやがった。

 ただの拳で。『魔法』を使った気配はない。

 純粋な身体能力で砕いたのか!?鉄の強度を!?

 目の前の光景が信じられない。

 驚いているところにパンチを食らってしまう。

 その拳は腹を簡単に貫き、穴をあける。


「ぐっ…」


 声が出ない。と言うか、立つ力もない。

 その場に倒れ、地面を臓物で汚す。自分の腹の穴からいろいろな赤い物体を見たときにはじめて、死という恐怖を本能で理解できた。

 自分がどんな小細工を使おうと勝負にすらならない強者。

 これが、初めて痛感する実力の壁か…。


「レイヴァンさん!大丈夫ですか!?」


 レイヴァン?この男の名前か…。

 英雄の名前に似ているな。いや、同じ名前なのか。

 こいつは、惜しいことをしたな…。


 勝者は何も言わずに座り、敗者は自分の後悔と共に旅立った。

 最後もまた一方通行で終わった。


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