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英雄譚  作者: 鈴木 雫
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第四十七話


(間話―騎士の葛藤③)


 部屋を出て、立っている看守に声を掛ける。


「こいつを誰が連れてきた?」

「お疲れ様です!自分は王宮の前に置いてあったと聞いております。」

「置いてあった?」

「はい!縄で拘束されていたと聞いております。」

「はぁ?」

「す、すみません…」

「いや、すまない。お前に対して言ったわけじゃないんだ。助かった。」

「は、はい!」


 ドアを閉める前にある人物が目に入った。

 イザルナ・アルドリアか。少し話を聞いてみても良いかもしれない。


「中のやつを地下牢にでも入れといてくれ。後で再開する。」

「はい!分かりました!」


 看守に任せて、姫君に話しかける。


「おい。待て。」

「?なんですか?」

「あれはお前の仕業か?」

「あれとは?」

「売国奴の主犯と言われている男だ。」

「いえ、知りません。」

「そうか。」


 剣を取りだし、首元に押し付ける。

 後ろが壁のため、逃げられない。


「ふざけるなよ。」

「なんですか?」

「王家の道具風情が俺を出し抜けると思ったか?」

「話が見えませんね。」

「ガルフォードさん!何を!?」

「黙れ。尋問質は空いたか?」

「え!?あ、はい…姫に何してるんですか!!」

「黙って囚人を連れてけ。」

「し、しかし、」

「早くしろ。」

「は、はい。」


 看守は囚人を連れて、逃げて行った。


「どうするおつもりですか?」

「入れ。この部屋で詳しく聞く。」

「良いですよ。その前に剣をどけていただけますか?」


 落ち着いているな。

 異常なまでに。自分の危機に鈍いのか、力を過信している愚者か。

 どちらでもいいか。

 剣を鞘へと収納して、部屋の中に入れる。


「鎖はいらないな。」

「そうですか?私が暴れたりしたらどうするのですか?」

「黙れ。逆立ちしてもお前は勝てない。」

「そうですね。親兵最強のガルフォード。血も涙もない男ですものね。」

「黙って質問に答えればいい。なんであの男を替え玉に選んだ?」

「この部屋良いですね。音が外に漏れないようになっているんですね。」

「おい。」

「それに私が普段使っている部屋よりも豪華だ。」


 豪華?そんなわけないだろう。

 机と椅子しかない小さな部屋だぞ。

 おちょくってんのか?


「質問に答えろ。さもないと指を落とす。」

「この服装。良いと思います?」

「あ?」

「私の着ている服ですよ。第三者から感想を聞いてみたくて。」

「ちっ!!」


 腰の短剣を取り出し、机に乗っている彼女の手の横を勢いよく突き刺す。


「舐めてんのか?」

「外れましたね。もう少し右です。」

「なんでそんなに余裕がある?」

「そうですね。生きるための目的があるからですかね。」

「目的だと?」

「ええ。人生において目的は人を豊かにすると思いませんか?」

「やっぱり舐めてんなてめぇ。」

「到達するべき場所があるから幸福なんです。でなければ、家畜以下の生活には耐えられません。」

「黙れ。」

「あなたには目的地がありますか?」

「黙れと言っているんだ。」

「なぜ、自殺にまで追い込んだ者を供養するのか。」

「黙れ。」

「なぜ、主犯らしき人物に情けを掛けるのか。」

「黙れ。」

「なぜ、そんなにも怯えているのか。」

「黙れ!!」


 怒りに任せたパンチを机に向かってする。

 机はへこんで、原型を失ってしまった。


「大丈夫ですか!?」


 大きな音に反応した看守が扉を開けて確認してきた。


「閉めろ。今は入るんじゃねぇ。」

「す、すみません!」


 開かれた扉は、勢いよく閉められた。


「良くないですよ。物に当たるのは。」

「なんだ。」

「?」

「なんなんだ。お前は。」

「ただの王家の玩具ですよ。それに揺さぶられるあなたは弱いと見える。」


 瞬時に剣を抜き、首の直前で止める。

 イザルナ・アルドリアの首から血が垂れる。


「どうしました?振りぬく勇気もありませんか?」

「黙れ。」

「情けのつもりですか?」

「お前…死にたいのか?」

「いいえ。あなたを勧誘したいだけです。」

「は?」

「現状に満足していますか?」

「……当たり前だ。」

「そうは見えませんね。自己を正当化するための地位。命令。力。あなたは誰にも認められていない。」

「黙れ。」

「目的がないあなたはただの犬に成り下がった。」

「黙ってくれ。」

「昔は弱者を助けるかっこいい騎士を目指していたはずなのに。」

「黙れよ!」

「王家の命令に忠実であるがために他者の命を軽んじるしかなくなった。」

「このまま首を刎ねられたいのか!!」

「大変ですね。自分を曲げてまでしないといけないお仕事は。いいお給料もらえるからですか?王家直属の部隊で自分を誇りに思えるからですか?今までの自分を否定したくないからですか?」

「しゃべるなよ!!」

「自分を肯定するために、他者を否定する。立派な騎士になりましたね。昔のあなたが見れば拍手喝采でしょうね。それとも、涙を浮かべるでしょうか。興味深いですよね。」

「っ!!」

「いつまで自分に言い訳をするつもりですか?死ぬまでですか?それとも自我が無くなるまでですか?」


 さらに、剣に力を込めて首に押し付ける。

 血があふれ出ているが、目の前の女は顔色を変えない。


「誰かを助けるために動いてみませんか?あなたが今まで殺して回った売国奴みたいに。」

「冷静だな。」

「もちろんです。勧誘しに来ただけですから。」

「そんな口ぶりで俺が首を縦に振ると思うのかよ!!なめんじゃねぇぞガキが!!」

「いいえ。あなたの実力を評価したうえでお話に来ました。軽く見ているわけではありません。」

「てめぇが…」

「ええ。私が戦争反対派の主犯です。ここまで来て分からなかったらどうしようかと思いました。」

「……なんで俺だった?」

「簡単な話ですよ。あなたが自分を嫌っているから、好きになれるように手を貸すだけです。その代わりに私に力を貸して欲しい。どうですか?」

「……」

「明日。馬車を手配します。もし、私に協力していただけるなら来てください。通報していただいても構いません。」

「……」

「尋問は終わりですか?では、明日に会えることを楽しみにしていますね。」


 彼女から剣を引き、鞘に納める。

 彼女は扉を開けて、静かに出て行った。

 看守と目が合う。怯えているようだ。当然だ。あんな剣幕で怒ったら誰だって怯える。

 これが現状の俺か。

 誰もを救うために剣を振りたかった少年は、自分を救済するためだけに剣を振るう壮年になってしまった。

 年月は残酷だな。

 部屋から出て、看守に話しかける。


「……地下牢のあいつ。」

「え?あ、はい!」

「出してやってくれ。冤罪だった。」

「わ、分かりました。」


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