第四十五話
(間話―騎士の葛藤)
・ガルフォード視点
「おい!!ガルフォード!!」
廊下を歩いているとやかましい奴と会った。
こいつのことは嫌いではないが、騒がしくするのはやめて欲しい。
「なんだ。うるさいな。」
「この前の売国奴を拷問したのってお前か!?」
「王宮に侵入してきたやつか?」
「ああ!!そうだ!!」
「俺だ。それがどうした?」
「地下牢で自殺しちまったってよ!!」
「そうか。災難だったな。」
「相変わらず冷てぇ奴だなぁ!!」
「神のなんとかに背いたあいつの責任だ。俺には関係ない。」
「まぁ良い!!そんなことよりも話は聞けたのか??」
「聞けなかった。売国奴は組織的な動きを見せてる。だから、主犯の名前くらい聞き出せると思ったが無理だった。」
「情けねぇなぁ!!俺を呼んでくれればすぐだったのに!!」
「うるさい。俺に指図するな。」
「分かっている!!親兵の班長に口答えするわけねぇだろぉ!!」
「いちいちうるせぇな。」
彼。ダリオスと廊下で別れる。
あいつとは学生時代からの知り合いだ。
寮で同室だったのが懐かしい。あんまり寝言がうるさいから、窓から投げたこともあったな。
次の日にとんでもなく怒っていたが。
俺には関係ない。
拷問相手が自殺しようと、何人売国奴を殺そうと、戦争で他人が涙を流そうと。
俺には全く関係ない。
他人を尊ぶ?神様の元で平等?弱者を助けるのが務め?
聞いているだけで眠たくなる。弱い奴が悪いのになんで俺が他人の手を引かなくてはいけないのか。
誰に言われようとこの考えは曲げないだろう。
「失礼します。」
「来たか。ガルフォードよ。」
「はい。ガルフォード。招集に応じ、参上いたしました。」
跪く。目の前の男には逆らわない方が利口だ。
自分が持っていないものを持っている。
それは権力だ。武力よりも恐ろしいものを持っている。
そして俺の雇い主でもあり、国の長であり、誰もが尊敬する人物である。
早い話が王様だ。レオナール・アルドリア。俺の才能を認めて、王直属の部隊親兵の班長にまでしてくれた。
これだけで、俺が命令に従うだけの意味がある。
「戦争を邪魔しようと企む者共の行動が激しくなっておる。そこで、完全にその売国組織を潰して欲しいのだ。」
「はい。必ず。」
「良い報告を期待している。」
「はい。このガルフォード、必ずやご期待に沿って見せましょう。」
王室を出る。
あんな話をされても、売国奴なんてそんな簡単に見つかる訳がない。
地道な作業になりそうだ。
自殺した男の話を思い出す。
地下牢に向かうことにした。
まだ死体が残っていればいいが。
地下牢へと移動する。
ここは表向きにはない場所なので、ここでの死人はすぐには処理されない。
地下牢の前でとある女の人を発見する。
確か、名前は…イザルナ・アルドリア。第二王女だ。
王家に産まれた女性の立場が低いこともあって、この人とはあまり会ったことがない。
それに、貧弱そうな体を見るにそんなに大切にされていないことも伺える。
「すみません。そこをどいてもらっていいですか?」
「ええ。大丈夫ですよ。」
にこやかに笑う彼女の前には死体があった。
俺が自殺に追い込んだ売国奴だ。
よかった。まだ、死体は残っていたのか。
腐敗もそんなに進んでいないし、ある程度のことは調べられるだろう。
先日使った資料も合わせれば、主犯まではいかなくても周囲の人間関係は分かりそうだ。
取り調べをしたときは興味がなかったため適当に済ませたが、今は目的があるため真面目に取り組むことにする。
牢屋の鍵を開けて、中の死体を確認する。
服を調べて、靴を調べて、頭髪を調べて。
「何をしているのですか?」
「あなたには関係ないでしょう。」
「それでも知りたいのです。」
「そうですか。父上に聞いたらどうですか?」
「それは難しいでしょうね。」
作業しながら、話半分に受け流す。
面倒だな。どこかに行って欲しい。
「私は父に嫌われていますから。」
「そうですか。国王は忙しそうですもんね。」
「はい。」
なんだ。こんなに嫌味を言われて逃げないのか。
意外に根性があるな。
それに、この死体に興味があるみたいだ。
「はぁ…。なんでここに居るんですか?」
「それは…」
しばらくの静寂。
だんまりか。死者に共感したいお年頃なのかもしれない。
俺には全く分からない。
「良いです。お答えいただかなくても。」
「すみません。」
妙に腰が低いな。王族はもっと横柄な態度をとる者だろう。
死体を持ち上げて、牢屋を出る。
「どこに持っていくのですか?」
「どこでもいいでしょう。それとも、売国奴に傷心ですか?」
「…違います。」
「そうですか。失礼します。」
地下牢を後にして、自室へと帰る。
大きめの布と地面を掘る道具を持って、王宮を出る。
騒ぎにならないために死体に布を被せて。
誰でも知っているが、誰も入ろうと思わない丘がある。
そこへと昇る。
昼前に出発したのに、もう夕方だ。
夜までには終わらせたいな。
地面に穴を掘る。人が埋まるくらいの大きめの穴を。
そこへ布を被せたまま死体をゆっくりと沈める。ポケットに数枚の硬貨があったのでその穴へと入れ、手を合わせる。
死体が潰れないように静かに土をかぶせて、土の上から酒を注ぐ。
埋めた死体の横に座って、街を見下ろす。
ここは街の光によって、綺麗な夜景を眺めることができる最高の場所だ。人も寄り付かないから、俺は一人になりたいときにここに座ることがある。
静かな死体の横で、賑やかな街の人々を観察する。
「ここで何をしているのですか?」
「っ!?ってなんだ、イザルナ様ですか。なんの用ですか?」
「少しつけてきただけですよ。」
「そうですか。あまり夜分に出歩かれては怒られますよ。」
「怒る人もいないので。」
「そうですか。」
彼女は座らずに、横で立っているだけだ。
「なぜ、埋葬を?」
「……」
「なんで、彼に同情したのですか?」
「…黙れ。」
「質問に問題がありましたか?」
鬱陶しい。
なんだこいつは暇なのか?
「黄昏ているだけなんで帰ってもらっていいですか?」
「いいえ。私はもう少しお話したいです。」
「そうですか。俺は帰りますね。」
イライラしながら、立ち去ろうとする。
「なぜ、埋葬したのですか?」
「……」
「聞いていますか?ガルフォード。」
「……」
「聞こえているなら答えてください。親兵班長ガルフォード。」
「…気分だ。」
「作業を見ていましたが、かなり手慣れていますよね。何度かやっているんじゃないですか?」
「…れ」
「なんです?」
「黙れ!!」
自分でも気づかないくらい怒っていたらしい。
突然の大声に自分が一番驚いている。
「あなたの人間らしい一面を初めて見た気がします。」
「そんなに面識ないだろ。」
「そうですね。でも、いつも無表情で何かを訴えている気がします。」
「……」
「図星ですか?」
なんだ。なんなんだ。この娘は。
ほぼ初対面にも関わらずなんなんだ。
なんだこの尋問みたいな構図は。
「弱い部分を見せないのは美談ではありませんよ。」
「……俺は帰る。」
「弱さを否定しているところも含めて、自分の短所だと気づいてください。」
無言でその場を立ち去る。
乱暴に自室のドアを開け、逃げるようにベッドへと飛び込む。
俺は弱くない。弱くないんだ。




