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英雄譚  作者: 鈴木 雫
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第四十二話

 完全に復活したルシェルを前に足が震える。

 先日経験した死の恐怖が蘇る。


「震えてるんだよなぁ。そんなんで勝てるわけないんだよなぁ。」

「お前には勝てる。絶対に。」

「そうかなぁ?」


 ルシェルの象がブレる。

 ブレた瞬間に自分の足が無くなる。


「っ!!」


 支えが無くなった体は地面に簡単に転がる。

 見下したような目が自分の視界に入る。


「てめぇごときにこれを連発しなきゃいけねぇとはなぁ。」


 人間の成せる速度じゃない。

 明らかに『魔法』が関与している。

 でも、タネが分からない。


「困惑して死ぬんだよなぁ!!」

「『水』」


 水の塊が飛んできた。

 殺傷能力もないし、ただ水を掛けられた程度の攻撃。

 でも、ルシェルの行動を止めるのには十分だった。

 水の塊が飛んできた方向にはイザルナが居た。


「何しているのですか?姫様。」


 ルシェルの声色が一変する。

 にこやかな笑顔を見せて、今までの言動がなかったかのようだ。


「や、、、めて、、、」

「何をおっしゃいますか。王家に仇をなす逆賊を排除するだけですよ。」

「かれには、、、てを、ださない、、、やくそく、、、」

「あちらから侵入してきたのです。約束は破棄させていただきます。それとも、まだお仕置きが足りませんか?」


 イザルナの震えが増した。

 ルシェルはイザルナの方へ歩いていく。


「もう少し、お仕置きが必要なようですね。」

「やめろ!!」

「はぁ。てめぇは黙って芋虫みてぇに地面を泳いでればいいんだよなぁ!!」

「イザルナに触るな!」

「それはてめぇが決めることじゃねぇんだよなぁ!!」


 ルシェルは剣を振り上げる。

 その光景を見た瞬間に体が熱くなるのを感じる。

 あの手を振り下ろさせるわけにはいかない。

 何か強い特徴が欲しい。自分に彼女を救えるだけの力が欲しい。あいつを殺せるだけの強力な武器が欲しい。

 背中から熱くなり、自分の体を押し上げる。

 気づいた時にはルシェルの腕を銜えていた。


「は…?てめぇ…なんだそれは…?」

「?」

「人間じゃねぇなぁ。てめぇは。」

「なに言って…」


 自分の背中に翼が生えていた。爪も人間とは思えないほど鋭利で、鱗のようなものまで生えている。

 手足は再生し、今までの疲労や傷も忘れたみたいにない。


「てめぇ、その恰好…人間様に歯向かうつもりだなぁ?」

「ああ。お前を殺すよ。」

「神が作った最高傑作である人間様をてめぇみたいな動物風情が殺せるとおもうじゃねぇんだよなぁ!!!」

「来い。」

「『誘導』」


 ルシェルの『誘導』は自身を中心として50メートルほどの範囲を誇る。その内に入ったものは行動を誘導される。視線誘導に加えて驚異的な身体能力によって一瞬でルシェルが攻撃したように見える。


 ルシェルが攻撃をするが、それに反射で対応する。

 片腕を失ったルシェルの足を引きちぎり、爪で頭を貫く。

 そのまま、腕を移動させて頭を両断する。

 ルシェルは声を発する前に血を流しながらその場に崩れる。

 息を切らすことなく、ルシェルを倒すことができた。

 自分のこの成長に自身が追いついていない。

 剣以上の鋭さを持つ爪。剣では傷をつけることもできないであろう鱗。人間を超越した身体能力。反応速度。特徴的な翼。

 どれをとっても人間ではない証拠しか出てこない。


「れ、、んじ、、、だい、、じょうぶ、、、?」

「イザルナ!」


 彼女の元に駆け寄る。

 『魔法』を使ったからか少し衰弱しているように見える。


「大丈夫?イザルナ。」

「うん、、、なんとも、、、ないよ」

「すぐにここを離れよう。」

「うん、、、」


 彼女を軽く持ち上げる。

 腕力も今までの比ではないようだ。

 服を被せて、彼女を抱きかかえながら外を目指す。

 人を一人抱えているとは思えないほど体が軽い。

 あまり、振動を起こさないように慎重に運ぶ。

 早くフィリスを助けに行かなくては。どこへ行けばいいのか分からない。

 とりあえず走り回る。目的地まで。




(間話―待ち人の緊張。)

・オルメンド視点


 落ち着かない。

 みんなが王都に行ってそんなに時間は経ていない。

 心配だ。みんな無事なのだろうか。

 私が行っても足を引っ張ることしかできないことは理解している。でも、自分もお嬢様を助けに行きたいと思っている。

 もちろん馬車という移動手段を守るのも大切な仕事だと理解している。

 でも、それでも、自分も何か役に立ちたい。

 戦闘経験どころか、剣すらまともに振ることができない自分には何もすることがないと理解できている。

 この旅で自分は何もできないと知っている。

 それでも、自分にもできることをしたい。だから、落ち着かない。心配で心配でしょうがない。


「大丈夫ですか?オルメンドさん。」

「あ、ごめん。起こしちゃった?」

「いえ、ちょっと眠れなくて…」

「休んだ方が良いよ。昨日まで動きっぱなしだったんだから。」

「そうですけど…」


 彼も自分が戦闘員ではないことを時々嘆いているが、彼は馬車を引くという大事な役割がある。

 彼が居なかったら身動き一つできないだろう。

 彼を常に万全にしておくことでどこにでもすぐに移動することができる。

 そこらの馬の倍以上の速度で移動できる。

 それを全員が理解しているから、彼に剣を持たせないし、ディフェンスにレイヴァンさんを付けているのだろう。


「オルメンドさんも休んだらどうですか?」

「わ、私?何もしていないけど…」

「いつも何から何までやってくれるじゃないですか。」

「それは、当然の責務で、メイドとしての自分の役割だから、」

「そのおかげで俺たちは食事に困らないし、戦闘に集中できています。俺も馬車に集中できますし。」

「そんな、私が居なくてもみんな大丈夫だったんでしょ?」

「そんなことないですよ。【共和国】での旅は今ほど楽じゃなかったです。イザルナとガルフォード以外は料理が下手で何をしてもおいしくならないし、馬車の中を掃除するのはいつもガルフォードだけだし、洗濯とかもガルフォードがするからいつも怒られてばかりだったし。生活面をオルメンドさんがするからみんな自分に集中できるんですよ。」

「そうかな…」

「そうですよ。」

「そっか。ありがとう。」

「?」

「ううん。なんでもない。」


 自分が自分を追い詰めていただけなのかもしれない。

 自分には能力がないと思い込んでいただけだ。

 自分にできることを最大限する。それがこの旅には必要なのだ。


「眠れないのなら、飲み物でも作ろうか?」

「お願いしてもいいですか?」

「もちろん。すぐ作るね。」


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