第四話
全身が痛い。
体が何かに運ばれているようだ。目に何か巻かれているのか周囲の状況が分からない。
「この辺でいいだろう。」
「分かりました。」
誰かいるみたいだ。
声を出そうとしても何も発音できない。
「出航だ!!!」
船の上らしい。でも、聞いていたよりも揺れが激しい。激しすぎる。
だんだん気持ちが悪くなる。気持ち悪さの中眠ってしまう。
「「せーの!」」
「うわぁ!」
いきなりどこかへ叩きつけられる。
目隠しを外される。
そこは何かの施設のようだった。
「ここは…」
様々な種族が集められている。
広場にはパンパンに入っている。歩く場所もないくらいに。
「早く行け。」
後ろから小突かれて、歩く。
紫色の髪の毛を短く縛っている。人なのか…?髪の毛の色がこんなに派手な人間は見たことがない。
手足の特徴は人間と一致している。
人混みに押し付けられる。
「おとなしくしてろ。」
有無を言わせず、その場を立ち去る。
なんなんだ、ここは。ぎゅうぎゅう詰めにされた施設はなんのために存在しているのだろうか。
訓練中に聞いた、人道主義とか言う宗教か?
それにしては、人間以外もたくさん居るように見える。
背中を押されて、強制的に集団が前に進む。一度止まり、前に進む。
体中が圧迫されて、息苦しい。なんとか直立の姿勢を保つのがやっとだ。
小さな部屋に押し込められた。30人ほどが座る場所もないくらいに押し込められる。
鍵を閉められ、完全に幽閉される。部屋の外からは怒号も聞こえる。
声が出ないくらいに詰め込まれたここでは、誰も何も発さない。死人が出たのではないかと思うくらいに静かだ。
窓もないその部屋では今が、昼か夜かも分からない。
もうどれくらい経ったのだろうか。ここはどこなのだろうか。
眠い。異様に眠い。すべてがどうでもよくなるくらいに意識が朦朧としている。
「ここか。」
「はい。次の部屋です。」
「わかった。」
部屋の外から何か聞こえる。
扉が開かれ、30人全員連れていかれる。
階段を登らされる。手錠を足と腕に付けられ、一人も逃げられないように。
警告音らしき音が施設に響き渡る。
「襲撃者です!」
「対処しろ!こちらは準備をしておく!」
つながれている鎖を強引に引っ張られる。
無理やり、連れてこられた広い場所には何もなかった。
空を見上げれば、星が見える。横を見れば、白い壁が守りを固めている。
「準備急げ。魔法師はまだか!」
「もう少しかかるそうです。」
「急がせろ!」
遠くで誰かが喧嘩している。
意識が限界だ。疲労、空腹、睡魔。しばらく座っていない。足なんて感覚がなくなってきた。
「襲撃者だ!」
「逃げんな!」
次は男性の声が聞こえてくる。
「これで全員か?」
「いや、まだ中にもいるらしい。」
「どうする!?魔法師が来るぞ。」
「ここは一度戻る。」
誘導される。手綱を引かれる馬のように。
馬車に詰め込まれ、どこかへ走り出す。
眠れるほどのスペースはないが、意識を保つことができなくなった。深い闇の中に意識を移す。
「…す。…ですか。大丈夫ですか?」
目に光が差し込み、耳に音が刺さる。
「目を覚ましましたよ。イザルナ様。」
「本当!?」
女性が近づいてくる。
「大丈夫?」
「あ、あぁ。」
「声は出るみたいね。『回復』」
体中から疲労感が抜け、完全に目を覚ます。
何をしたんだ…?
「大丈夫そうね。」
「あ、あなたは…?」
「私はイザルナ。自分のことわかるかしら?」
「俺は、レンジ…」
「そう。よろしくね。レンジ。」
きれいな金髪に、透き通るような肌。高貴な方だというのが一目でわかる。そんなオーラが漂っている。
周りには先ほどまで一緒に幽閉されていた人たちが集められている。
「ここは…?」
「そうね…秘密基地って感じ。」
「秘密基地…?」
「ん~…なんとも説明のしづらいところなんだけどね。」
「そ、そうですか。」
「疲れているでしょ?寝たら?」
「はい。」
冷たい地面のはずなのに、今日はいつもよりよく眠れそうだ。
目を瞑れば、すぐに夢が迎えに来る。
朝になるとご飯を貰えた。人数が人数なのでたくさんはもらえないが、空腹が和らぐ。ありがたい。
「レンジって、兵士なの?」
「俺は、兵士だったよ。」
「だった?」
「初陣で何もできなくて、気が付いたらここに…ここってどこなの?」
「そっか。まだ説明してなかったね。ここは【アルドリア】。共和国から見て、東側に位置する国だよ。」
「【アルドリア】!?」
敵国に侵入してしまったらしい。侵入と言うより拉致だな。監禁でも可。
「なんで、俺が【アルドリア】に?」
「連れてこられたんでしょ。『魔法』のために。」
「『魔法』…」
「『魔法』はね、一人でできるレベルの物と複数人で行うレベルの物があるんだよ」
「へぇ~…」
「複数人で行う場合。『魔力』…生命力みたいなものがかなりの量必要になる。そこでアルドリア軍が出した策が、敵国を連れてきて素材にしようって考え。」
「素材って…」
「『魔法』を発動するための生命力かな。複数人で行う『魔法』は共和国が対策できないほどの威力を誇っている。これで戦争を有利に運ぶつもりらしいよ。」
「そんな…」
「酷いでしょ。」
「そりゃ…」
「私たちは、こんな戦争は間違っていると思う。だから、仲間を募って素材にされている人を助ける運動をしてる。レンジはどう?」
「俺は…」
「協力してくれない?」
天使のような容姿から放たれた、悪魔のような提案。ここから、俺の英雄譚を始めよう。