第三十八話
教会内は火の海で包まれていた。
先ほどの兵士たちは、消火活動でかかりきりだ。
正面からこっそりと入っていく。
煙で視界が悪い中を進む。
「こっちだよ。」
「分かった。」
イザルナに案内されながら、合流地点を目指す。
走り回って、自分がどこまで深部に来たかも分からない。
大きな部屋に出る。ここまでは火災は来ていないようだ。
本棚が大量に整頓されており、本棚には隙間がないくらいに本が詰め込んである。
「ここが…」
「そう。多分書庫のはず。ここにあればありがたいんだけど…探すしかないね。」
「この量を?」
「うん。手分けして探そう。」
「分かった。」
「このままでも良いけど、降ろしてくれた方が探しやすいかな。」
イザルナを担いでいることを忘れていた。
「あ、ごめん。」
彼女を地面にゆっくりと降ろす。
回復したのか、先ほどよりも顔色が良い。
「今度、またやってよ。」
「良いよ。今夜にでも。」
「そう?じゃあ、お願いね。」
「分かった。」
「私はこっちから探すから。」
「俺はこっち行くよ。」
二人で両端から探す。
様々な本がある。俺は字を読めないから、どれがどんな内容を示しているのか分からない。
字が読めなくても、『魔法』の本を探すことはできるのだろうか。
一冊一冊見てみる。
表紙に絵が描いてある本。
誰かの名前しか書いていない本。
どこかの風景が描いてある本。
どんな本を探せばいいのだろうか。
見れば分かると言われたが…。
本棚を端から端まで見て、次の本棚に移動する。
これを何回も繰り返す。本を見つけ出すまで。
どれほどの時間が経っただろうか。もう、消火も終わっているだろう。
「そんなに急いで、何をしているのですか?姫様。」
「っ!?」
後ろからの声に振り返る。
銀色の短髪で、偉そうな態度の男。その立ち振る舞いからかなりの強者と伺える。
「ルシェル!?」
「覚えていてくださりありがとうございます。なにをなさっているのですか?」
「レンジ。逃げよう。」
「え?」
「早く!」
イザルナと一緒にルシェルが居ない方の扉へと走る。
「そんなに慌てないでくださいよ。傷つくな~。」
何もなかったはずの扉からルシェルが現れる。
扉を閉められて、逃げることのできない空間が誕生する。
「なんで。」
「?」
「なんであなたがでてくるの…?」
「それは、神の神殿が壊されれば我々も動きますよ。忘れたのですか?王家と教会の決まりを。」
「っ!」
イザルナの苦い顔を見れば絶望的だと理解せざるを得ない。
それほどの実力者なのか。
「さぁ、帰りましょう。遊びも飽きたでしょう?王がお待ちです。」
「…ない。」
「?」
「帰らないから。」
「そうですか。しかし、抵抗しないでいただきたい。傷つけるなと申し付かっておりますゆえ。」
「イザルナをどうするつもりだ。」
剣を抜いて、イザルナを背中に隠すようにして立つ。
「ほら、姫様帰りますよ。あなたの好きなケーキも作ってあるみたいですよ。」
「無視するな。」
「はぁ。誰だてめぇ。今俺様は、姫様と話してるだろ。邪魔するなら殺す。」
にこやかな顔が急変する。人格が入れ替わったのではないかと思うくらいに人が違う。
冷や汗が止まらない殺気。
震えで剣が握れそうもない。
「いいや。殺しとくわ。」
「まっt」
ルシェルの体がブレた瞬間。剣を持っている手と体を支えている足が無くなる。
「え?」
胴体だけになり、虫のように地面に這いつくばる。
痛いよりも先に疑問が湧いてくる。
何をされたんだ?
現状自分に起こっていることは理解できるのに、されたことを理解できなかった。
自分の中を疑問が走り終わると、急に激痛が襲う。
「あああああああああああああ」
どうやっても止血できない。
四肢が無くなった個所から、大量の血が流れ出る。
水たまりを作り出して、意識が朦朧とする。
「待って。」
芋虫のようになった俺を抱えて、イザルナが言葉を発する。
彼女も冷や汗が止まらない様子だ。
「分かった。ついて行くから。この人には何もしないで。」
「もちろんいいですよ。じゃあ、参りましょうか。」
にこやかな笑顔を見せて、イザルナに近づいてくる。
「ごめん。レンジ。後は任せたよ。」
「ま、、、」
声も出ないし、音が拾えない。
「彼を治させて。」
「必要ないでしょう。逆賊に手を貸すような真似は看過できません。それに、共和国人ですよね。放っておけばいいでしょう。」
「彼を治さないなら、ついて行かない。」
「そうですか。『回復』」
四肢が生えてきて、意識が回復していく。
人形に魂を注がれているような感覚。
目を開き、立ち上がろうとするが俺を抱きかかえているイザルナに止められる。
その真剣な目に気圧されるように、彼女に体重を任せる。
小声で話しかけてくる。
「ごめんね。後はよろしくね。私のことは探さなくていいから。」
「それは…。」
「『睡眠』」
その言葉を聞いた途端に意識がなくなる。
暖かい熱とずっと嗅いでいられる匂いに包まれて自分の体を彼女に預ける。




