第三十七話
「第三十七話」
・レンジ視点
顔を真っ青にしたイザルナが『移動』によって帰って来る。
その様子から、状況がまずいことを悟る。
浮かない顔のイザルナはいきなり俺を抱きしめるように飛びついてきた。
体が震えて、泣きそうな顔をしていた。
何があったのか聞く前に、ガルフォードたちを助けに行くしかない。
「ルガン。馬車を出そう。」
「そうだな。」
全員で教会へと向かう。
馬車に乗っている最中でも、イザルナは手を離そうとしなかった。
「教会でガルフォードたちは捕まっているから、助け出すのは私とレンジで行く。ルガンとオルメンドとレイヴァンは馬車の見張りをお願い。馬車に戻り次第、早急に帰ります。」
静かにうなずく。
この心境でも冷静を保てるのはすごい。
怖いことがあっただろうに。
「着いたよ。行こう。」
「うん。」
フードを深くかぶり、髪の毛が隠れるようにする。
飛び降りる形で馬車から降りる。
馬車はどこかへ走り去っていく。
この後に、集合場所で落ち合う手はずだ。
教会の前はすでに武装した兵士によって守られていた。
「意外に近くに潜伏していたようですね。お早い到着でうれしいですよ。」
40代くらいだろうか。男性の偉そうな人が前に出てしゃべりだした。
「ここまでが想定内ですか?」
「えぇ。あなたは少し煽れば、行動してくれると思いましたよ。」
「そうですか。その言葉はお返しします。」
「何?」
教会が突如爆発した。
本来の作戦通りだ。
ガルフォードたちが先に教会に潜伏して、騒ぎを起こす。
その間に、俺とイザルナが『魔法』の本を探す。
万に一つの狂いもない。
「何をやっている!消火しろ!!」
「手を動かせ!!」
後ろの兵士があわただしく行動している。
先ほどの男性は冷静だ。
まるで分っていたかのように。
「やってくれますね。姫様。こんなことをしては神もお許しにはならない。ここで死ぬことを望まれるでしょう。」
「そうでしょうね。でも、残念ね。私は無神論者だから。」
「それは酷く残酷です。神はあなた方を地獄へ送ることを許可しました。『転送』」
男の元に剣が訪れる。
鞘から剣を抜き、鞘を地面へと捨てる。
俺も剣を抜いて構える。
「本当に残念ね。私はあなたと違って幸せだから、地獄でも楽しめるような仲間が居るもの。」
「ほざけ。小娘が。」
「『水』」
「『狼』」
水の雫がイザルナから発射される。
それは速く、石の壁を貫けるほどの威力を誇っていた。
男は何もない空間から実体のない狼を出した。
狼には水滴が通用しない。
イザルナの『魔法』を通過した狼は嚙みついてきたので、剣でいなす。
質量のない不思議な感覚。
狼の首を斬り、男へと向かって行く。
剣がぶつかり、周囲に嫌な音をまき散らす。一撃目、二撃目、三撃目。どんどん攻撃を繰り返すが、男の余裕そうな表情を崩すことができない。
「『狼』」
脇下から実体のない狼が出てきて、腕に噛みつかれる。
鋭い痛みが襲ってくる。剣で狼の喉を貫く。
狼は居なくなったが、目の前の男が剣を振り上げていることに気が付かなかった。
「『水』」
イザルナが男の肩を打ち抜き、剣を振りぬけないようにする。
よろめく男に追撃を加える。
ゆっくりと確実に首を落とすために剣を振る。
「『熊』」
成人男性よりも大きな熊が壁のように立ちふさがる。
剣は熊に突き刺さり、抜けない。
「クソっ!」
「危ない危ない。神の前で代行者を傷つけないでください。」
「『浄化』」
熊が消えていく。
何もなかったかのように。
「それは零体を現実に持ってくる『魔法』でしょ。」
「これはこれは、知って見えるとは。」
「当然でしょ。相手のことはよく学んでおくことよ。」
不気味な笑顔を見せた男の首を掻き切り、ここでの戦闘を終わらせる。
イザルナが膝をつく。
「はぁ…はぁ…レンジ、大丈夫、だった?」
「イザルナ!」
かなり顔色が悪い。
これ以上彼女は動けそうもない。
「大丈夫か!?」
「問題ないよ。少し、『魔法』を使い過ぎただけだよ。休憩すればまた動けるから。」
彼女は心配を掛けまいと笑顔を振りまくが、無理しているようにしか見えない。
首と背中に腕を回し、お姫様だっこをする。
「この運び方好きだな~」
「ほら、無駄口叩いてないで案内して。」
「うん。安心する。」
イザルナを担いだまま教会へと入っていく。
(間話―看守のため息)
・看守視点
看守の仕事をしていると様々な人を目撃することがある。
罪の意識で泣き出す者。
罪を否定して喚き散らかす者。
開き直って暴言を吐く者。
今回の罪人はどれにも該当しない。
神妙な顔で無言だ。
今回収監されたのは4人。どれも、神の意向に背く逆賊らしい。
看守に伝えられるのはそれくらいの情報だった。
罪人に同情しないための配慮らしい。
4人はそれぞれ別の牢屋に収監されている。
魔法師が一人いるらしいが、問題ない。ここでは『魔法』が使えないように『結界』が張られている。
脱獄できる者は一人としていない。
ため息が出る。
ここへ働き始めてから、正義がなんであるか分からない。
家族のために盗みをする者。
非人道的な戦争に反対する者。
神が信じられなくなった者。
何が正しくてここに居るのか分からない。
「おい。あんた。」
一人の囚人が話しかけてくる。
「なんだ。」
「今、時間は?」
「知らん。お前らに時間は関係ないだろう。」
「そうか。」
珍しいな。こんな風に突っぱねても声を荒げない対応は。
落ち着いている。落ち着きすぎている。
この者は本当は何をしでかしたのだろうか。
「時間だ。」
後ろから声を掛けられる。
交代の時間か。
階段を上って帰路につく。
帰って、ご飯でも食べよう。
・看守視点
「何をやったんだ?あんたたち。」
「御託は良い。早く出せ。」
「分かってますって。」
鍵を開ける。
剣を渡して、地図を託す。
「ガルフォードさん、俺たちはあんたらを信じてる。」
「任せろ。頼んでおいた火薬は?」
「もう準備できてます。」
「助かる。時機に姫様が到着する頃だ。お前らは早く逃げろ。」
「頑張ってくれよ。」
「ああ。達者でな。」
4人の勇者の背中を見守って、自分は帰るとするか。
ボヤ騒ぎに巻き込まれるのはごめんだ。




