第三十五話
「第三十五話」
英雄。なんて憧れる響きなんだろう。
何か大きな功績を残した人物。
何か歴史を変えることに成功した人物。
多くの人から崇拝される人物。
俺はこれに魅了された人間の一人だ。
是非、話を聞きたい!
「英雄?」
「そうだよ。【アルドリア】に受け継がれる英雄譚があってね。それの登場人物…いや、主人公のような存在かな。」
「なんでそんなすごい人がここに?」
「……その物語は英雄譚なんかじゃなかったからだよ。」
「?」
「その物語の名前は[建国日誌]。この国の400年ほど前のお話でね。この国は元々【共和国】と呼ばれていたんだ。」
「え?それって…」
「そうだよ。【アルドリア】は【共和国】から生まれたんだ。」
そんな話は聞いたことがない。
俺が過去に読んでもらった英雄譚でもそんな記述は存在しない。
「[建国日誌]はね。【アルドリア】の王によって執筆されたの。かなり、歴史に着色を加えて。」
イザルナの話を黙って真面目に聞く。
昔。アルドリアという青年が居ました。アルドリアは国で行われている他種族からの非道な行いを許すことができません。
そこで、レイヴァンと共に一つの宗教を立ち上げます。
〈ルミナール教〉。人間の光となるように。
仲間を引き連れ、王と対立後、東の大陸で国を建国します。
その際に、アルドリアが王となり【アルドリア】が作られる。
宗教を柱として、この国は大きく発展することになるだろう。
要約するとこんな感じか。
でも、これだと疑問点がある。
レイヴァンはいくつなんだろうか。そして、なぜここに居るのだろうか。
「質問したい顔だね。」
「ちょっとね。レイヴァンはなんで生きているの?」
「そこだよね。彼は『魔法』を掛けられたんだよ。『不死』の『魔法』をね。」
「なんでそんな…」
「理由は簡単だよ。彼はあまりに強すぎた。国が管理できないほどに。そこで反抗できないようにいくつか『魔法』を掛けられた。『忘却』、これは自分の記憶を消されて自分が何者かわからなくなる。『不老』、これは年齢が老いなくなり自我が崩壊する。『不死』、これはどんな環境でも死ぬことができなくなる。確か、こんな感じだったかな。」
「なんで、『魔法』を?殺せばいいんじゃないの?」
「それが謎なんだよ。彼は身動きができない状態で、城の地下に幽閉されていた。そこを私が助け出した感じかな。」
「なんでだろう…」
「さぁ?私もずっと気になっているけど、答えになりそうな資料がなくてね。父は何か知っているかもしれないけど教えてくれないし。」
「そっか…」
「そうなんだよ。だかr、うわぁっ!」
横で寝転んでいるイザルナに飛びついてみる。
「どうしたの?」
「別に…」
「そう。ちょっとは素直になってきたね。2回目する?」
「……うん。」
顔を押し付け、2回目を始める。
まだ、出発の時間には早い。もう少しゆっくりとして行こう。
(間話―英雄の末路)
男は強かった。
男は、体に傷がつくことがなかった。
基本的に戦闘は一撃必殺。外すことのない男の斬撃は敵を地面に叩きつける。
友人に相談された。国を作ろうと。
馬鹿馬鹿しいと感じた彼は一度断ったが、熱烈な誘いに断り切れずに行動を共にするようになった。
王と話しをしたが、うまくいかなかった。そこで、東の地にあるとされているエルフの土地を訪れた。
話し合いの結果。四分の一ほどの領地を貸してくれることとなった。
しかし、一部のエルフが領地の支配権を脅しに何度も食料や人間を攫うようになった。
そこで、友人は部隊を結成しエルフとの交渉に赴いた。しかし、決裂して戦闘になった。
何人もの仲間が死んだ。死んだ彼らの目を見て怒りを覚えた。
何人ものエルフを殺して回った。
彼らは不思議な力を使っていた。手を触れずに物を浮かす。火種が無いのに火を起こせる。食料がないのに一か月生活できる。
その技術を盗み、『魔法』と呼ばれる力を開発した。
殺したエルフの屍を数えるのにも飽きたときに、自分の非道さを恥じた。
友人はしょうがないと一蹴したが、自分には自分が許せなかった。
そんな中で、子供のエルフを見つけた。
両親が居ないらしい。そう。自分がその子の両親を殺していたのだ。
彼女には、健やかに育ってほしい。勝手な妄想だった。自分が苦しめているはずなのに、目の前の少女には倫理観を押し付けた。
自分を救済したかった。
自分を許したかった。
他人に言い訳したかった。
彼女は友人に見つかってしまった。友人は、何も言わずに彼女の首を落とした。
その光景を忘れることができない。彼女は知っていたのだ。男が少女の両親を殺した犯人であることを。そして、エルフが問題を引き起こしたことを。
男は壊れてしまった。
男は自分に『魔法』を掛けた。
自分を忘れたい。
死ぬ程度では償えないこの罪を。
不憫に思った友人は彼に、追って『魔法』を掛けた。
死ぬことができない『魔法』を。自分の命と引き換えに。
友人は分かって欲しかった。全員が幸せになることはできないと。
友人は生きてほしかった。自分が巻き込んでしまった彼に。
友人は助かってほしかった。記憶をなくした彼に。
『魔法』が発展した未来で、彼を救済することができる『魔法』が発明されることを祈って友人は静かに目を閉じる。
友人には息子が居た。
息子はわずかな情報を頼りに、本を書いた。男を助けてくれる人が現れてくれることを信じて。
自我を壊した優しい彼は、君の一言を待っている。と書き足して。




