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英雄譚  作者: 鈴木 雫
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第三十三話

「イザルナの大胆過ぎる行動にちょっと驚いただけだよ。」

「そうかな。嬉しそうに見えるけどね。」

「……」

「正解かな。」


 なんて鋭いんだ。

 何か試されているのか?


「嬉しくない…って言ったら嘘になるけど、少しは節度を持ってもいいんじゃないのかな。」

「なんでかな?」

「ほら、俺たちにはまだやることがあるし。その後でも…」

「楽観的」

「え?」

「楽観的過ぎるよ。レンジ君。」

「なにが?」

「誰もに次があると思っているところだよ。」

「どういう…」

「次の戦いで死ぬかもしれない。致命傷を受けて、人間として機能していない体になるかもしれない。最愛の誰かを失うかもしれない。あらゆる可能性を考えることができていないよ。」

「……」


 ぐうの音も出ない正論だった。


「ここに来たばかりの君は、少しのことにも敏感に反応するくらい臆病だったね。でも、【共和国】での行動でどんどん自信をつけて行った。それはとてもいいことだけど、とても残念なことだよ。」

「…なんで?」

「戦場では楽観的な者から死んでいく。楽観的で能天気で希望的な君たちは無自覚に死に引き込まれていく。だから、イザルナ様はいつだって覚悟をしている。次に自分が死ぬことを。レンジ君が死ぬことを。この中の誰かが死ぬことを。」


 だから、こんなにも積極的に動くんだよ。ってことか…。

 ここまで言われれば馬鹿な俺だって気づく。

 自分は楽観的過ぎた。のんきに自分の功績に酔いしれていただけのただの若者だった。

 特別でも何でもない俺は、酷く、残酷に、甚だしいほどに能天気だった。

 今までの臆病で気弱で小胆の弱虫の英雄願望者であることを忘れていた。

 次が無い者など大勢いるだろうに。

 森を見つめて、自分を恥じる。


「ごめん。フィリス。俺が間違ってた。」

「そう。頑張ってね。」

「分かった。ありがとう。」

「ご飯の時間だ。就寝するまでには仲直りしておきなよ。」

「別に喧嘩していたわけでは…」

「似たような物でしょ。」

「分かりました。」

「君は素直だね。」


 家の中に帰る。

 食事を終え、2階の自室兼イザルナの部屋を訪れる。

 深呼吸をして、重たいドアをゆっくりと押す。


「おかえり。」

「ただいま。」


 ドアを静かに閉めて、二人だけの空間を作り出す。

 端麗な顔立ちに、自分にはない華やかさ。何もしていなくてもにじみ出る気品。

 すべてが愛おしと感じる。


「座ってよ。」

「うん。」

「飲み物飲むでしょ?」

「貰おうかな。」


 イザルナがジュースを注いでくれる。

 自分は飲まないのか、俺の分だけ注いでくれた。


「さっきは、ごm」

「ごめんなさい。」

「え?」

「やっぱり、いきなり過ぎたよね。」

「そんなことないよ。俺がヘタレだっただけで。内心うれしかった。」

「ほんと?」

「うん。」

「なら、よかった。今度からは確認するね。」

「ありがとう。」

「ほら、飲んでみて。【アルドリア】産の特性ジュースだよ。【共和国】でも果実のジュースはあったけど、【アルドリア】も負けてないから。」

「分かった。いただきます。」


 喉を液体が流れていく。

 不思議な味だ。酒の苦さもなければ、ジュースのように甘ったるいわけでもない。

 高級品なんだろうか。

 とてもおいしい。次々に飲める。

 俺がこの飲み物を気に入ったのがうれしかったのかイザルナはいつも以上にニコニコしている。


「どう?おいしいでしょ?」

「うん!すごくおいしいよ。」

「ふふふ。子供みたいな笑顔を見せるんだね。レンジは。」

「そ、そう?」

「うん。可愛いよ。」


 ちょっと恥ずかしい。

 でも、笑顔な彼女を見ていると心の平静を保てる。


「あれ…?」


 視界がぼやける。


「どうしたの?レンジ?」

「い、いや…別に…」

「そう?顔が赤いよ?」

「なん…でもないよ…」

「目を合わせようとしないし、大丈夫?」

「なんでも…ない…」


 なんだろう、イザルナがとても魅力的に見える。

 普段よりもすごく魅力的に見える。

 イザルナが俺の安否を確認するために、俺が座っている椅子に近づいて顔に手を当ててくる。


「う~ん。ちょっと体温が高いね。」

「ちょ…大丈夫、、、だから…」

「無理しない方が良いよ。ほら、ジュース飲んで落ち着いて。」


 なんて良い匂いなんだろう。

 近づくだけで、抱きしめたくなる。

 ギリギリ理性を保っているような感覚。

 掴んだら折れそうな腕、飛び込みたくなるような胸、押し倒したいその体。

 やばい。自分の制御ができない。

 レンジ君のレンジ君が大暴走してる。

 イザルナの手が伸びて、理性が決壊する。

 椅子から飛び上がって、イザルナをベッドに押し倒す。


「どうしたの?」

「い、いや、これ…は…」

「しょうがないな~」


 首に手を回され、逃げられなくなる。

 逃げたい精神とこのまま続行したい精神がぶつかる。

 イザルナが首を引き寄せ、口づけを施す。


「この先は?」

「だからっ…ちがっ…これは…」

「良いよ。来て。」


 その一言ですべてが破裂する。

 乱暴に彼女のやさしさに甘えた。若気の至りであったことをご理解いただきたい。


 果実のような良い匂い。

 目を覚ますと、朝を実感する。

 自分の腕に乗っかっているイザルナの頭を見る。

 幸せそうな寝顔を見せる彼女が横に眠っているのを見ると幸福感で満たされる。

 その彼女に対して乱暴に行為に及んだという事実に罪悪感を覚える。

 やっちまった……。

 取り返しのつかないところまで行った。完璧に完膚なきまでに一寸の狂いもなく。

 彼女は寒いのか、体を揺らして俺の体に近づいてくる。

 その行動に愛らしさを覚えて、背中に回してある腕に力を込めて彼女の体を引き寄せる。

 起きてから考えよ…。



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