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英雄譚  作者: 鈴木 雫
32/85

第三十二話

・イザルナ視点


 海に浮かぶ一隻の船の上で一つ思い浮かんだ。

 レンジが故郷から追い出されるように戦場へ駆り出されたことへの答えが。

 獣人、ロスカーンは自分の身の潔白を証明するために彼を戦場で殺したかったのだ。

 そうするとことで、すべての責任を王家に被せる目的だったのだろう。

 でも、彼は生き延びた。

 人間と他種族のハーフである彼は、想像以上に頑丈で強かった。

 それ故に、彼の生存を知ったときに計画を練り直した。

 戦争終結後に内戦の火種として彼を差し出す。そうすることで、獣人は内戦後の立場を守りたいのだ。

 だから、わざと船のある場所を示した地図を廊下に出しておき、私が逃げるように脅した。

 これで私が【アルドリア】に行けるように。そして、終戦後に彼を捕獲するために。

 かなり先のことも考えてこれからは立ち回らなくてはいけない。

 彼を無駄死にさせるような種族へは渡さない。


・レンジ視点


 【アルドリア】。説明不明の大国。

 『魔法』の力を利用して発展してきたその大国は、どこへ向かいたくて戦争を始めたのだろう。

 何をしたくて、他種族を蹂躙してきたのだろうか。

 その答えを探したくてイザルナを含めた7人は歩きてきた。

 ここで何かの正解を導き出さなければいけない。

 その向こうに新たな戦いの火蓋が切られようとも。


「一度、拠点に帰って休もう。航海でかなり疲れただろうし。」


 イザルナの提案で森の中にある小屋へと向かう。

 船は誰もいないであろう海辺に置いてきた。

 再び【共和国】へ向かうときに使うらしい。

 船に乗せてきた馬車をルガンが引いて、小屋へと向かう。

 道中では何も起きない。

 数日後に小屋へと到着する。


「ありがとう。ルガン。」

「良いさ。」

「ルガンも【アルドリア】に来ることになるとはな。」

「俺も驚きだ。別に、向こうに居てもすることもないしな。」

「そっか。心強いよ。」

「俺は戦えないけどな。」

「今度剣術を教えてもらえよ。ガルフォードとかに。」

「いや、そんなことをしている暇があったら逃げる練習をしておきたい。」

「なんだよそれ。」


 あんなに最初は険悪な態度をとっていた彼ともかなり仲良くなれた。

 ずっと世話になっていたし、こちらが無下にするわけにはいかない人材だ。

 荷物を降ろし、小屋のドアを開ける。

 家事をしているオルメンドと飲み物を啜っているレイヴァンが居た。


「ただいま。遅くなった。」


 水の入った桶を床に置いて急いでオルメンドが駆け寄ってくる。


「おかえりなさい。お嬢様。」


 イザルナを抱きしめて、帰宅を祝福する。

 他の面々の顔も見て、異常がないのかを確認している。


「何もなかった?」

「はい。特に問題はございません。」

「ありがとう。すぐに食事の準備をしてもらえる?」

「かしこまりました。」

「ごめん、急に。」

「いえ、とんでもございません。」

「ありがとう。」


 各々部屋へと荷物を置きに行く。前に、肩を掴まれる。

 意外と強い力で。

 振り返るとイザルナがにこやかな目で俺を見つめていた。


「?」

「ちょっと相談なんだけど。」

「なんです?姫様。」

「部屋割りを考え直さない?」

「部屋割りですか?」

「うん。ルガンも仲間になったわけだし、この家には空き部屋がないからね。」

「いや、俺は外で良いけど。」

「ルガン。外は寒いよ。すごく寒いよ。しかも、怖いお化けが出るかもしれないよ。」

「なんだそれ。俺は適当な理由で来ただけだから別に部屋が欲しいわけj」

「ルガン。」


 言葉に被せるように笑顔でルガンの顔を見ている。

 そのうちにルガンの顔が青ざめていくのが分かった。

 イザルナは俺に背中を見せているので顔色が分からない。


「ということで、新しい部屋割りは…」


 ルガンとガルフォード。

 ジルとギル。

 オルメンドとフィリス。

 俺とイザルナ。

 レイヴァンは普段通り居間で寝るらしい。


「こんな感じで。」

「姫様と」

「レンジが」

「「同室!?」」

「なんで」

「こんな」

「「てめぇ!レンジ!!何したんだ!」」

「お、俺は何も…」

「違うよ。ただの思い付きだよ。」


 この子、意外に大胆だな。

 別に知られても何にもならないと思うけど。


「「分かりました…」」

「うん。じゃあ、荷物を置きに行こうか。」


 イザルナの部屋のドアを開ける。

 妙に重く感じる。緊張しているのだろうか。

 中にはベッドが一つだけと椅子と机が並んでいるシンプルな部屋だ。

 同居人が居た形跡がない。

 イザルナは一人部屋だったのか。


「なに突っ立っているの?」

「いや、別に……」

「そう?荷物おいて着替えない?」

「そう…だね。」


 床に荷物を置いて、汚れている服を脱ごうとする。


「ごめん。俺、向こうで着替えてくるよ。」

「なんで?」

「い、いや、まずいでしょ。同室で男女が着替えるなんて…」

「本人同士が気にならないなら別に良いと思うけど?」

「それは、そうかもしれないけど…」

「レンジは気にするの?」

「お、俺は…」

「しょうがないな…」


 イザルナがいきなり上着を床に落とし、素肌をさらけ出す。

 そのまま、ズボンに手を掛けたところで急いでドアから飛び出す。


「俺、急用を思い出したんだった!」


 廊下に走り去りながら、言葉を置いていく。

 ガルフォードとルガンが居る部屋に突撃する。

 乱暴にドアを扱ったところでガルフォードが驚く。

 ルガンは不在のようだ。


「どうした。レンジ。」

「ごめん。ちょっと場所借りるわ。」

「別に構わないが……顔が赤いぞ。大丈夫か?」

「な、なに、顔?なにも、ないだろ?」


 顔をぺたぺた触って確認する。

 別に何もなかったはずだ。何も。

 深呼吸して体調を整える。

 確かに、のぼせているように体が熱い。

 息を整えつつ、着替える。


「あれ、どうした?レンジ。」


 ルガンが部屋に帰って来る。


「何もなかった。」

「?」

「何もしてない。」

「そ、そうか?」

「俺は、何もしてないんだよ。」

「う、うん?」

「俺は!」

「そこまで言及してないだろ。」


 しまった。変なことを口走る前に外の空気を吸いに行こう。


「ちょっと、外の様子を見てくるから。」

「そうか。」

「決して、別に、誓って、動揺していないけど。外の空気を吸ってくるから。」

「あ、あぁ。」

「特に、特段、とりわけ、何かあったわけじゃないけど。外の空気を吸ってくるから。」

「う、うん。」

「俺は!」

「「早く行け!うるせぇんだよ!!」」


 ルガンとガルフォードに怒られて、外へと歩いていく。

 久しぶりに吸う【アルドリア】での空気。

 大きく息をして、体に空間を擦りつける。


「どうしたんだい?レンジ君。」

「フィリス。」

「ご飯まで時間があるから、外でリラックスかい?」

「そんな感じだよ。」

「そうなんだ。てっきり、イザルナ様に意地悪されたから飛び出したのかと思ったよ。」

「……」

「正解かな。」


 なんて鋭いんだ。

 女の勘とかいうスキルは女性全員に身についているのだろうか。

 だとすると怖すぎる。


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