第三十話
・レンジ視点
頭を抱える。
勘弁してほしい。
目の前の光景を受け入れたくはない。
「レンジ。このリンゴを見ろ。赤い!赤いんだ!!なんて果物なんだ!!!」
「………」
「もっと凄いとこもあるぞ!丸い!!丸いんだ!!!」
「………」
「なんだと…!?しかも、旨い!!旨すぎるぞ!!!これほど人間に適した果実があるか?!いや、ない!!」
「はぁ…」
勘弁してくれ。
門番から牢屋に案内された。
全員で仲良く一部屋。ありがたい限りである。
イザルナの交渉の邪魔をしてはいけないと思い、素直に投獄されることにした。
それが悪夢の始まりだ。
この果物の話をどれだけ続けたら気が済むのだろうか。
すでに一刻以上話を聞いている。
「ダメだよ。レンジ君。」
「………」
「そんなところで寝ては。起きて、ご飯を食べよう。」
「………」
誰も座っていない椅子にフィリスは話しかけている。
イマジナリーレンジ君はどんな顔をしているのだろうか。
是非教えてほしいものである。
「レンジ」
「身を屈めろ。」
「「敵が来るぞ。」」
こっちは架空の誰かと戦っている。
牢屋の中に居るのに、誰が襲いに来るのだろうか。
「俺と一夜の過ちを犯してみないか?」
今回は俺も乗るしかない。この波に。
壁を全力で口説き落とす。
なんてきれいな壁なんだろう。
スタイルが良くて、顔が好みだ。
「やっぱりデートからかな?」
無論このカオスな環境に突っ込む者は一人も居ない。
まさに、止まることを知らない野獣のようだ。
「……おい。」
看守が話しかけるが、全員が自分の世界に入り込んでいるため誰も振り向かないし、反応を出さない。
「そこの黒髪。お前は別部屋だ。」
「やあ、ハニー今日は何を食べるんだい?」
「おい。こっちへ来い。」
「朝から石を食べるのかい?ハハッ!食いしん坊だな~。」
「おい!お前だ!!」
「今日は新しい服を買いに行こうか。君は、体が大きいから似合う服を探すのが大変で困っちゃうな~。」
「貴様!聞いているのか!!」
「夜はベッドd」
「貴様だ!!貴様に言っているのだ!!」
襟を引っ張られて、連れていかれる。
「ちょっ!俺のハニーが!!!」
「何言っている!!あれは壁だ!!」
「違う俺の嫁だ!!!」
「なんなんだ……」
困り果てた看守に連れてこられたのは、別の牢屋。
今度は一人だけで。
「俺は浮気とかしない主義なんだけどな。君可愛いね!」
次は違う壁を口説く。
先ほどの壁よりもスタイルが良くて、顔も整っている。愛嬌もいい。
先ほどの嫁を捨てて、こちらに乗り換えるのが吉か。
「いや~良いね!笑顔が素敵な女性ほど魅力的な人はいないね!君すごく可愛いよ!!名前はなんて言うのかな?」
もちろん誰も何も答えてくれない。
「恥ずかしがり屋だな!ハハッ!大丈夫!夜は素直にしてあげるから!」
「何しているの。レンジ君。」
「正気か、お前。」
「「頭でも打ったのか?レンジ。」」
「……」
振り返るとそこには武装したみんなが居た。
「これは」
「良いんだよ。弁解しなくて。レンジ君。ちょっと……」
可哀そうな人を見る目を向けないでほしい。
「レンジ。疲れているのなら話を聞くぞ。」
「これは」
「良いんだ。誰にも言わないから。」
「違う、これは」
「良いんだ。人それぞれ価値観があるからな。」
「だから」
「何も見なかったことにしてやる。」
どうしよう死ぬほど恥ずかしい。と同時にキレそうなんだけど。
なんだこの扱いは。
第三者目線から見た、普段のお前らだぞ!
ちょっとはこちらの疎外感を感じてほしい。
「レンジ」
「このことは」
「「姫様に内緒にしてやる。」」
「………ありがとう。」
「「良いんだ。文化の違いってやつだよな!」」
こんな文化どこにもねぇよ!
創作物をなんだと思ってんだ!
「ぼら、レンジ君。外に出るよ。」
鍵を開けられ、牢屋が開く。
そこから一歩を踏みしめて、外に出る。
「なんで脱獄を?」
「おそらく、イザルナ様は失敗した。だから、ここから出るぞ」
「失敗?」
「あとで話す。一旦行動するぞ。適当に剣を拾ってこい。」
「分かった。」
ガルフォードはどこまで状況を把握できているのか。
なぜ、イザルナが失敗したと言い切れるのか。
考えてもしょうがないことが頭の中をいっぱいにする。
でも、ガルフォードの集中している目に迷いはなかった。
「来た道を通るしかないな。この屋敷の内部は分からない。俺が先頭。次にジルとギル。その後ろがフィリス。殿をレンジ。『魔法』はいざというとき以外は使うな。戦闘は剣士が引き受ける。」
「分かった。」
「「うん」」
「良いね。」
「よし。行くぞ。」
まずは階段を探すために、捜索する。
全員で固まって。
階段を見つけてそこを上る。




