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英雄譚  作者: 鈴木 雫
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第二十九話

「第二十九話」


・イザルナ視点


 門の前に着く。

 門番に話しかける前に、レンジの顔を見る。

 優しく微笑み返す彼の顔にドキっとする。

 でも、今はそんなことをしている場合じゃない。

 一つ引っかかっていることがある。

 なぜ、彼を徴兵したのだろうか。

 秘密にしたいのならば、【グレンウッド】に永遠に隠しておけばよかったのに。

 なぜ、生死に関わる戦場に放り投げたのか。

 なぜ、彼を【グレンウッド】から追放するような形をとったのか。

 不明点が多い。この交渉は、レンジの名前を使ってもうまくいかない気がする。と言うより、嫌な予感がする。

 背筋が凍るような感覚。これは、よくない兆候だ。

 私の勘はよく当たる。悪い方に当たるので質が悪い。


「行きましょうか。」


 私の発声と共に、後ろの面々がうなずく。

 この街で、船を借りることができなかったときの打開策をまだ思いつけていない。

 これも、問題の一つだ。


「失礼します。」

「なんだ。貴様ら。」


 門番の獣人に話しかける。

 狐のような顔に人間離れした体格。本能が警告を出すような声。


「ロスカーン卿に会わせていただけませんか?」

「なぜだ。」

「少し、相談事がございまして。」

「貴様ら、怪しいぞ。」

「どのあたりでしょうか?」

「恰好だ。」


 派手な衣装のことを言っているのだろう。

 ガルフォードが選ぶ服装は、派手な物が多くていつも怪しまれる。


「申し訳ありません。これが私服でございますので。」

「相談する。少し、待て。」

「ありがとうございます。」


 狐の獣人は、屋敷の中へと入っていく。

 大きな屋敷だ。城と言っても良いかもしれない。

 地方を統治している5種族の館は、みんなこんなに大きな城を持っているのだろうか。

 すべてを見ているわけではないので、興味がある。

 しばらく、誰も来ない。


「どうします?ここで船を確保できなかったら。」


 ガルフォードも心配しているらしい。

 他の面々も同じことを考えているようだ。

 【エルダローズ】で船を借りることができたのは、オルヴァニス卿が私を気に入っていたからに過ぎない。

 内密な入国方法ということだ。

 これが、他の地でも利用できるかどうかは火を見るよりも明らかだろう。

 でも、成功させなければいけない。何が何でも。


「大丈夫。次のことを考えなくてもここで入手して見せるから。」

「分かりました。申し訳ありません。勝手な言い分を。」

「良いの。いろんな意見があるのは良いことだから。」


 なんとなく返したが、ガルフォードも理解したのだろう。

 これの次などないと。

 王都で船を借りることはおそらくできない。権力の危うい王家が地方に借りを作ればどうなるか分からない。

 王様に何かを頼むことはおそらくできない。

 これを自分たちで解決しなければ。


「会話の許可が出た。入れ。」


 狐の獣人が帰って来る。


「ありがとうございます。失礼いたします。」

「待て。」

「なんでしょうか?」

「入る人数を制限するとのことだ。」

「そうですか。何人なら行ってもよろしいのですか?」

「二人だけだ。二人だけの入場を許可する。」


 二人。私ともう一人。

 後ろを振り向き、みんなの顔を見る。

 誰を連れていくか決めた。


「分かりました。ルガン来て。」

「え?俺?」

「早く。」

「お、おう…」


 困惑するルガンと一緒に緊張の場へと向かう。


「ここだ。入れ。」

「ありがとうございます。」

「他の者は、外で待たせてある。」

「分かりました。失礼いたします。」


 扉を開けて、中に入る。

 熊のような顔に、先ほどの門番と比べものにならない巨体。殺気をまき散らしているのかと勘違いするほどの威圧。

 汗が首元に落ちる。


「失礼いたします。イザルナと申します。」

「何用だ。」

「ご相談したく参上いたしました。」

「座れ。」

「失礼いたします。」


 ルガンは私の後ろで立っている。

 彼はこういった場での立ち振る舞いが分かっていないのか、そわそわしている。


「相談とは?」

「船を一隻貸していただきたいのです。」

「ほう。どうしてかね。イザルナ・アルドリア殿。」


 しまった。名前を知られている。

 そうなると、こちらの事情を大体把握しているわけか。


「お力を貸していただけませんか?わたくしどもは【アルドリア】に帰らなくてはいけないのです。」

「そうか。では、ここが最後の砦と言ったところか。」

「はい。わたくしどもはここ以外に安息の地はないと踏んでおります。」

「嬉しいことを言うじゃないか。しかし、賢い。この場に彼を連れてこなかったのは正解だ。」

「恐れ入ります。」


 彼とは、当然レンジのことだ。

 やはり、何かあるらしい。


「しかも、二人入れるという条件で戦闘員を連れてこなかった判断もまた正しい。」

「あなたは、武人です。戦闘員とそうでない者の区別は見て判断できるでしょう。それ故に、彼を選抜しました。」

「ほう。やはり賢い。この場で脅しは通用しない。イザルナ・アルドリア。貴様は戦争を終わらせたいようだな。」

「はい。そのために、船を貸していただきたいのです。」

「良いだろう。明日には船を提供しよう。」

「ありがとうございます。」

「条件がある。」

「どのような?」

「レンジ……レンジ・セレシアを渡してほしい。」

「なぜでしょうか。」

「理由を貴様が知る必要はない。」


 なるほど。そういうことか。

 つくづく、王家は嫌われていると見える。


「一つよろしいですか?」

「なんだ。」

「レンジは渡しません。」

「船はいらないということだな?」

「いえ、船は必要です。しかし、あなたは彼が必要ではない。」

「なぜだ?」

「内戦派は龍人、鬼、ハーピィ、オーク、巨人、ドワーフ。獣人の皆さまは内戦派閥ではないからです。」

「よく勉強したな。」

「ありがとうございます。あなたは、内戦後に獣人の立場を悪くしないために恩を売っておきたいのですね。」

「……」

「そのための第一歩として、彼の身柄が必要なのですね。だから、【エルダローズ】で彼を捕まえさせてここまで連れ去ろうとした。あの一件はあなたの仕組んだものです。」

「賢いとは言ったが、妄想を膨らませてよいとは言っていない。」

「出過ぎた真似をしてしまい、申し訳ありません。」

「貴様の言っていることが正しいと仮定した場合。なぜここで、武力行使をしないと思う。」

「いえ、あなたは最初からわたくしたちとレンジを引き離すことが目的のはずです。根拠は、門の外に置いてきた仲間が牢屋に入っていることです。」

「なぜ、断言できる?」

「勘ですよ。言ってみただけですが、今の反応で確信いたしました。」

「オルヴァニスが気に入る訳だ。さて、どうする?アルドリアの姫よ。」

「船はいただきます。レンジは渡しません。」

「それでは道理が通らんのだよ。小娘。」

「いえ、わたくしの目的はすでに達成されました。」

「なにを…」

「ルガン行くよ。『移動』」


 二人で馬車の位置まで飛ぶ。

 ここからみんなを救出向かわなくてはいけない。


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