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英雄譚  作者: 鈴木 雫
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第二十八話

「第二十八話」


 【グレンウッド】。獣人、ロスカーンが管理するこの地方は森が生い茂り、秘密を隠しておくのに最適である。だから、先代国王もここに俺を置いて行ったのかもしれない。

 【アルドリア】出身者たちはド派手な服に袖を通す。

 王都の時と同じ服装だ。

 これにも何か、意味があるのだろうか。

 ガルフォードは鼻歌を歌いながら服を慎重にしている。


「ガルフォードはなんであんなに上機嫌なの?」


 フィリスに聞いてみる。


「この服は、ガルが選んだって前に言ったよね。」

「うん。聞いたよ。」

「彼、いつも戦闘用の服を着てるでしょ?」

「確かに。」

「だから、ガルは私服を着れることがうれしくてたまらないんだよ。」


 確かに、ガルフォードが私服を着ているところは見たことがない。

 いつでも戦えるように、厳格な服に包まれている。

 そんな彼のお茶目な一面と言ったところか。

 あんなに、奇抜な服のセンスならば周りが止めるからかもしれない。


「レンジは」

「この服を」

「「着ないのか??」」

「俺は良いよ。共和国人だし、普通にしてても問題ないでしょ。」

「「羨ましい…」」


 ギルとジルは不服らしい。

 前に文句を垂れていたのを思い出す。

 この服は、好みが分かれそうだ。


「レンジ。どうだ?」


 振り返るとルガンも服を着ていた。

 いつもシンプルな服を着ているので、違和感がすごい。


「どうした。何か変か?」

「い、いや。よくお似合いですよ。」

「?」

「ほんとに良いと思うよ。」

「なんだその含みがある言い方は。」

「どうした」

「ルガン」

「「その恰好は!?」」

「どうだ。ガルフォードが貸してくれたんだ。」

「「脅されて着てるんじゃないのか!?」」

「そうだが…」

「「自発的に!?」」

「何が言いたい?」

「「大丈夫か!?」」

「なんだ…?」

「ほら、二人とも。あんまり、からかわないの。」

「「からかっているわけではないです。姫様。」」

「もう…。あ、どうレンジ?似合う?」


 派手なドレスのような服をなびかせながら、一周くるりと回る。

 その光景を目に焼き付ける。


「うん。とっても。」

「ふふ、ありがと。」

「「なっ!」」


 イザルナはまだ準備があるらしく、馬車へと帰っていく。


「「姫!その服に合っていますよ!」」

「ありがとう。二人とも。」


 ギルとジルはイザルナと一緒に馬車の方へ歩いていく。

 少し、睨まれた。

 イザルナを取られたと思っているらしい。

 実際そうだし。


「本当に大丈夫か?」


 ルガンは心配そうに声を出す。


「大丈夫だって。」


 言葉を選ぶのが面倒だったので、返事を返した。

 ルガンは心配そうにガルフォードのところへ行った。


「イザルナ様と良いことでもあった?」

「どうしてそう思うの?フィリス。」

「女の勘だよ。」

「怖い勘だね。」

「私のは特別に当たるからね。」


 にやにやとした顔で飄々と話してくる。


「例えばなんだけどさ。」

「なんだい?」

「農民と姫がそういう関係になることってあるの?」

「珍しい話だとは思うけどね。問題ないんじゃないのかい?」

「なんで?」

「イザルナ様は、地位や権力に固執しているような人じゃない。だから、立場なんて気にしなくてもいいと思うけどね。」

「そうかな…」

「それに、もう王位を捨てたみたいなものだしね。」


 確かに、前に売国奴だと罵られていると聞いた。

 すでに彼女には帰るための家がないのかもしれない。

 それとも、元々…。


「深く考えないことだよ。レンジ君。」

「分かった。ありがとう。」

「良いのさ。ギルとジルには黙っててあげるよ。」

「なんで?」

「二人なら怒ると思ってね。」

「助かります。」


 二人にとってイザルナは肉親のような存在だ。

 姉を取られたら激昂するだろう。

 怖いことは後回しにしたい所存である。


「じゃあ、行こうか。」


 【グレンウッド】に馬車で入っていく。

 街中には以前も来たことがある。そんなに変化はない。

 獣人やエルフが笑顔で通りすぎる。

 ふと、軍の訓練を共にした仲間の顔が脳裏に浮かぶ。

 あまり考えないようにしていた。

 あの戦場で生き残っている可能性が低すぎるからだ。

 あの場所で生き残った者は【アルドリア】に運ばれているはずだ。

 あの施設に居なかったということは、そういう事なんだろう。

 もし、彼らと再会できる日があるならば、話を聞かせよう。物語の英雄たちの話を。


 ロスカーンの館に到着する。

 ロスカーンには軍に入るときに顔を見ている。

 そんなに緊張する相手ではないはずだ。

 獣人特有の怖さはあるものの、それは街の平和を維持するために厳格にふるまっているに過ぎないと思う。

 馬車から降りて、門の前に立っている獣人に話をしに行く。


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