第二十二話
・イザルナ視点
「やはり取引をしましょう。」
「取引ですか?」
「はい。ここで一つ決断していただきたいのです。」
「どのような?」
「【アルドリア】を負かすためにわたくしに協力することを。」
レイの顔に悲壮感が無くなり、興味に満ちた顔色を見せた。
すぐに顔を元に戻そうとしているが、口が二やついている。
「【アルドリア】は負けるわけがないと高を括っています。その背景には『魔法』としての戦力がありますよね。その『魔法』が無くなれば、【アルドリア】は負けるしかない。人間では、純粋な殴り合いで他種族に勝てませんから。」
「どのような方法があるのです?」
「『魔法』にはいくつかの禁忌があります。その禁忌は、国王ではなく宗教派閥が管理しております。そのうちの一つに、『精神操作』。人を操る『魔法』があります。その力を使い、『魔法』を完全に忘れさせれば【アルドリア】は、敗北を宣言するでしょう。」
「わたくしどもはどのように貢献できますか?」
「簡単な話です。人員を貸していただきたい。多くの人を操るのにはそれだけ魔力が必要になります。そのために、種族、性別、年齢関係なく集めていただきたいのです。」
「良いでしょう。乗りましょう!!」
レイは手を出し、笑顔を見せる。
私はその手を取り、笑いかける。
正直、この方法が成功する確率はかなり低い。
宗教派閥は身内同士のつながりが強すぎる。
情報が洩れないどころか、下手に嗅ぎまわったら殺される。たとえ、姫という立場でさえも。
宗教は、政治と離れている。だから、権力が届かない。
そこから、『魔法』を拝借することは不可能に近い。【アルドリア】の大臣の一人が公開処刑されたこともあった。
「まず、仲間を解放していただけますか?」
「分かりました。城へ帰りましょう。」
「ルガン。馬車を出してくれる?」
「分かった。」
ルガンが馬車を出してくれる。
街中で、王様と敵国の姫のセットはなかなか目立つだろう。
賑わっている街中でため息をこぼしてみる。
・レンジ視点
なんで投獄されるたびにこの人たちは壊れるのか。
誰かに教えてほしい。
是非、この環境に慣れたくない。
「レンジ、お腹が空かないか?」
「あぁ」
何気ない会話に聞こえるだろう。
これが50回以上続いていなかったら。
「レンジ」
「なんで」
「「姫様は…」」
心配しているように見えるだろう。
さっきまで発狂していなかったら。
「レンジ君、『魔法』を教えてあげるよ。」
「ありがとう…」
尊敬できる先生に見えるだろう。
床と会話していなかったら。
「はぁ…」
別部屋にしてほしい。
これじゃ拷問だ。
何を話したら別部屋に移動できるだろうか。
フィリスは助けに来たのか、『移動』でいきなり飛んできた。
その後に、一緒になって捕まってしまった。
『魔法』を教わっているので、尊敬している。が、なんでこの人がここに来たのか全然分からない。
早く、出してほしい。
壁と笑顔で会話している暇があるならすぐにでも『魔法』を使ってほしい。
「はぁ…」
ため息しか出ない。
「レンジ、お腹空かないか?」
「あぁ」
さすがにイライラする。
こいつらは人を精神的に追い詰めたいのだろうか。
頭を抱える。
看守は苦笑いして同情の視線を送って来る。
「レンジ、お腹空かないか?」
「あぁ」
「出ろ」
苦笑いしていた看守が声を掛ける。
「お迎えだ。」
全員が外に出る。
馬車を発見し、乗り込む。
「うまくいったわ。」
「おお!やったな」
「やりましたね。」
「「さすが姫!」」
「うん。」
イザルナから良い報告を聞けたはずだが、本人は何か引っかかっているようだ。
表情が明るくない。
「どうしたの。イザルナ。」
「別に何もないよ。」
「そう?」
「レンジ」
「姫様に」
「「文句があるのか?」」
「いや、そういうのじゃなくて。」
「「なら、良いんだ。」」
「これから、どうするのですか?」
「一度、【アルドリア】に帰りましょう。やることができたから。」
「分かりました。ルガン頼むぞ。」
「分かってる。」
一度、【エルダローズ】帰り、船で【アルドリア】を目指す。
道中で今後の流れについて聞く。
「〈ルミナール教〉に忍び込み、『魔法』を借りる。」
「それは流石にまずいのでは…?」
〈ルミナール教〉。【アルドリア】で広く信仰されている宗教だそうだ。神がこの世界を創造し、我々を幸せに導いてくれる教えがある。〈ルミナール教〉は一つの経典に則り教えを説いている。その経典には人間以外の種族が存在しない。これこそが、人道主義。人間以外の種族は神が認めていないという理論のもとで他種族を嫌っている。
イザルナから聞いた話だ。
道中暇なのでいろいろと教えてもらった。
「〈ルミナール教〉に喧嘩を売って帰ってきた者はいないのですよ。流石に…」
「大丈夫。何とか作戦を考えてみるから。それに、ここには信徒はいないしね。」
「そうですが。」
「ガルフォード」
「お前」
「「ビビってんのか?」」
「そういうのじゃない。」
「「なら、良いじゃないか。」」
「そうだが…」
「俺はイザルナに賛成だ。」
「レンジまで…」
「イザルナが決断したことを実行できないチームは笑われるだろうし。」
「そうだな。弱気になってた。申し訳ありません。姫様。余計な口出しでした。」
「良いの。いろんな意見があった方が良いし。」
「ありがとうございます。」
ガルフォードも納得したみたいだ。
【共和国】では、宗教が流行っていないからピンと来ていない。
武力行使してくるような集団ではないことを願う。
森の中でひそひそと休憩する。
俺の顔を見られて、面倒なことになるのは避けたい。
今日はこのあたりで野宿らしい。
みんな、手慣れてきて各々役割分担ができてきた。
俺とガルフォードが焚火担当。
ジル、ギル、フィリスが食料担当。
イザルナとルガンが休憩大臣。
完璧な布陣だ。ちなみに、イザルナが何かしようとするとジルとギルに止められてなぜか俺が怒られる。
そのため、イザルナは焚火の用意ができるまで馬車で待機だ。
「そういえば、なんで牢屋でいつもおかしな行動に出るの?」
「おかしなって言うな。あれは演技だ。」
「なんで、演技なんか。」
「あれで看守が油断するだろ。だからだ。」
「そうなんだ…」
「なんだその目は。」
「いや、何でもないよ」
演技だったとしても限度がある気がする。
他の人から見れば狂気の沙汰だ。
別の方法を模索してほしい限りである。
「お前も練習しておけよ。」
「え?」
「一人だけ普通だと怪しまれるだろ。」
「そうだけど…俺もやるの?」
「当たり前だ。俺たちが一番捕まることが多いはずだからな。」
「分かった。練習しとく。」
「今、ちょっとやってみろよ。」
「え?今!?」
「俺が審査してやる。」
突然の無茶ぶりに困惑する。
ガルフォードの期待に膨らんだ目を無碍にするわけにもいかないしな…。
腹をくくり、その場に立つ。
必死に目の前の木に話しかける。
「今日は月がきれいですね…」
「何やってんの、レンジ君。」
振り向くとそこにはフィリスが立っていた。
やばい奴を見る目だ。
「いや、これは。ガルフォードが…」
「あいつ最近おかしいんだよ。優しくしてやれよ。」
「うん。今のはちょっと精神を疑うよ。レンジ君。」
お前らが監獄で毎回やっていることである。
それを他人視点で見たからと言ってそんなこと言わないでほしい。
自分で言っていて悲しくならないのだろうか。
「あ、ジルとギル。今レンジ君は疲れているんだ。そっとしてあげて。」
「なんだ」
「レンジ」
「「大丈夫か?」」
「さっき、木に話しかけていたんだ。」
「「大丈夫か??」」
どうしよう。ぼこぼこにしたい。
イザルナまでそんな可哀そうなやつを見る目で見ないでほしい。
「ほら、飯にするぞ。」
「「はーい」」
「今日は豊作だよ。」
「ありがとう。みんな。ルガンを呼んでくるよ。」
悲しい空気の中で食べるご飯はおいしかった。




