第二十一話
・イザルナ視点
先日訪れたのと同じ部屋を訪問する。
「王は中でお待ちです。」
「ありがとうございます。」
扉を開ける。
私の身長にしては大きすぎる扉。
人間を想定して作られていないのだろう。
「失礼いたします。イザルナ・アルドリアです。再度面会の機会をいただいたことをお礼申し上げます。」
「良いのです。座りなさい。」
「失礼いたします。」
人間離れした容姿。緊張が走る。
次は失敗しても言い訳ができない。
この場には私しかしないのだから。
レンジは自分のせいだと考えているようだけど、実際問題前回もあまり芳しい答えはもらえていなかった。
今回は失敗しない。
「この度は」
「前置きは良いんじゃないかしら。本題に入りましょう。」
「かしこまりました。協定の件、考えて下さいましたか?」
「そうですね。考えました。」
「御返事をいただいても?」
「えぇ。私の、いえ、【共和国】の答えは協定を結ばないことです。」
「っ…どうしてでしょうか?」
「私たちには私たちなりのプライドがあります。何より、私はあなたが信用できない。」
「………どうして、ですか?」
「なぜ、前回あのような者を連れてきたのですか?」
「…レンジのことですよね……申し訳ありません。無知ゆえの無礼をお許しいただけないでしょうか。」
「それだけではありません。あなた、色々と嗅ぎまわっているようですね。」
「交渉に使える材料を集めていたにすぎません。下心はありませんでした。」
「それに、今回の侵入も正面からではなく、違うルートを使いましたね。」
「これくらいしなくては、王に拝謁できないと考えたためです。」
「よく回る口ですこと。」
「御満足いただける答えを提示できているか不安ですが。」
「そうですね、あなたのことには目を瞑りましょう。その代わりに、弟を渡してください。そうすれば協定の件も私の方から動きましょう。」
言葉が詰まる。
ここで、一言「分かりました」と言えば終わる話なのに。
次の言葉が見つからない。
「その長考は、断るということですか。」
レイは言葉を待っている。まだかまだかと。
欲しい言葉は分かっている。
でも、それを言うことはできない。
そのため、他の言葉を探し出した。
いつ聞かれてもこう答えるであろう言葉を。
それを口にするのは簡単だった。虫を頬張るよりも。
「この度のお話は、無かったことにしていただきます。それ故に、レンジは渡すことができません。」
「そうですか。答えが聞けてよかった。」
兵士が部屋の中に入ってくる。
レイは、不気味な笑顔を張り付ける。まるでこの瞬間を待っていたかのようだ。
この質問には意味がなかったらしい。
答えのない質問をすることで楽しんでいたのだ。
「【共和国】はこの戦いで逃げるわけにも、負けるわけにもいかないのです。協定を結ぶことなどできません。」
国民の命よりも、体面を守るのか。
優れた王とは言えない姿勢だと思う。
それでも、彼女が決めたのなら誰も逆らうことはできないのだろう。
「ふふふ……」
「何がおかしいのです?」
「兵士を連れて、権力を誇示しても無駄に思います。」
「何が言いたい?」
「あまり舐めないでいただきたい。無策でここに来たと思われては心外です。なぜ、【共和国】は戦争で【アルドリア】に劣勢なのでしょうか。」
「『魔法』に頼り切りの戦術をひけらかしているからでしょう?」
「そうですね。では、質問を変えます。なぜ、リスクを冒してまで川からのルートを選んだとお考えですか?」
「………!」
レイの顔がわずかに歪む。
気づいたみたいだ。
なぜ、『魔法』で侵入しなかったのか。
単純に温存しておきたかった。
優れた魔法師でも、『移動』によって運べる人数には限界がある。
私程度の魔法師では、万全でも4人運べたら良い方だ。
でも、どれほど不調でも2人は絶対に運べる。
「早く!捕らえなさい。」
「『魔法』の範囲内ですよ。『移動』」
レイを連れて、ルガンとの待ち合わせ場所まで飛ぶ。
そこはなんの変哲もないただの一軒屋。
探し出すのに時間がかかるだろう。
ルガンの顔は割れていない。彼が、玄関で応対すれば問題ない。
「何をするのです!?」
「申し訳ありません。少々、力技を使いました。これで静かにお話を楽しむことができますね。」
「っ!……こんな勝手が知られたら、あなたたちはただでは済まない!!」
「知られないでしょう。分かっています。現状の【共和国】は。あなたは、いや、先代国王は多種族に喧嘩を売りすぎた。それ故にいつどこでどの種族が暴れだしてもおかしくない。その娘のあなたが、連れ去られたなんて不甲斐ないことを知られたら黙っている者の方が少ない。」
「………」
レイは睨むことしかできない。
その行動はイザルナの意見を肯定しているように見える。
レイも内心かなり焦っている。
こんなことが世間に知られた場合、今の【共和国】は戦争どころではない状況に追い込まれる。
「…分かりました。お話を聞きましょう。」
「ありがとうございます。寛大なお心に感謝を。」
椅子に座りなおし、お互いに対面する。
「まず、現状を確認しておきたいのです。」
「現状ね……。どこから、話せば納得するかしら。」
「最初から簡潔にお願いできますか?」
「最初…。先代国王の話に遡るわ。先代国王はね、種族間の平和を軽視する人だった。もっと簡単に言えば、差別主義者だったの。種族を差別し、優れた種と劣った種を区別することで一部のお友達を優遇しようとした。」
「お友達とは、エルフ、獣人、人間のことですね。」
「そうです。先代は【アルドリア】に似た思想を持っていました。人間こそが至高の種族であると。だから、神兵をその3種族で固め、城内も3種族で固めて行った。」
「なぜ、その3種族だったのですか?」
「見た目が好みだったのでしょう。純粋にそれだけだったと思います。深くは、わたくしも知りません。その甲斐もあって3種族の権力は強まった。【グレンウッド】の管理者になるほどに。そして、子供を作った。それも人間との間に。」
「それがレンジですね。」
「はい。幼い彼から、人間離れした特徴を切り落とし【グレンウッド】に隠した。【グレンウッド】にはお友達が多かったようですから。」
「でも、バレた。」
「抑圧された他種族は王のあら捜しをしました。その結果、レンジの母親が拷問に合い、子供の件が流出しました。王はでまかせだと言いましたが、他種族は止まらず証拠となる子供を血眼になって探した。先代の頑張りもあって【共和国】は子供の身一つで傾くほどの国へと進化しました。【共和国】は戦争に勝たなければ王家が失墜してしまう。3種族の権利が破棄され、虫以下の生活を強制される。」
「王家の失墜は、新たな王を望む種族によって内戦へと発展すると。」
「この戦いは、国を守るだけではなく、多くの種族間の対立を防ぐことができる。どんな劣勢でも、勝つことでしか王家は権力を維持できない。」
「現状は大体わかりました。」
「仲間同士で戦わなければいけないことは避けなければなりません。」
「なぜ、神兵を再編成しないのです?」
「簡単な話です。今更、神兵を解散すれば王家は他種族に屈したことになります。3種族がどのような扱いになるのか想像しなくても分かります。」
「やはり、取引をしましょう。」
この話の末に、解決策を提示したい。
この一手はあまり現実的ではないと思っていたが、やはりこの方法でしか戦争は止まらないのだろう。
私は【アルドリア】を敗北へと導くことにする。




