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英雄譚  作者: 鈴木 雫
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第二話

「これで全員だな」


 獣人が馬車を引いて近づいてくる。この国では獣人が主な移動方法だ。

 揃ったのは4人。この4人で一旦、一番近い都市。【グレンウッド】に向かう。

 馬車に乗り込むとき、後ろから走ってくる人影が見えた。

 アリセナ姉だ。お別れの挨拶だろうか。


「どうしたの?アリセナ姉。」

「はぁ、はぁ、これ。」


 渡されたのは、一つの石。なんの変哲もない石に見える。


「何これ?」

「お守りだと思ってもっておきなさい。」

「分かった。ありがとう。」

「頑張ってね。行ってらっしゃい。」

「いってきます。」


 馬車は村を離れていく。見えなくなる人影に、深くなる森の木々。

 新鮮さのない森の中に安心する。


・アリセナ視点


 彼に石を渡した。彼が村を離れて自分の正体に気づくことになっても覚悟できるように。自分の道を理解できるように。

 これを渡したことを、父上や母上が知ったら怒るだろうが、もう怒ってくれる人もいなくなった。

 彼も私も。

 彼はいつも臆病だから自分の立場を知ったときに腰を抜かすだろう。でも、向き合わなくてはならない現実がそこにある。

 彼が帰って来る時にどんな顔で迎えればいいだろうか。


・レンジ視点


 トーマが話しかけてくる。


「レンジ。何貰ったの?」

「ん?これ」

「何これ」

「さぁ…。なんでそんなの気になるんだよ。」

「べ、別に。」

「?」


 トーマはこの石のことを何か知っているのだろうか。


「二人とも緊張してんのか?」


 茶化すようにユウジが話しかけてくる。


「き、緊張?してるわけないだろ!」

「そんなに怒るなよ。」

「あ、悪い。」

「すまん。そんなに気にするとは…」

「こんな空気作らないでよ、ユウジ君…」


 カリオスも声をあげる。

 ユウジは人間で、いつもちょっかいを出してくるような奴だけどいい奴だ。

 カリオスはエルフ。この年齢のエルフは珍しいらしい。コイツの年齢ははっきりとはわからない。見た目だけで判断できないのが、長寿の種族の特徴だな。


「レンジは剣振り回すのが好きだったよな。」

「振り回すって…。もっと言い方あるだろ。」

「例えば?」

「そうだな…修行とか!」

「修行ね…あんまりピンとこないな。」


 真剣にやっていても、周りから見たら遊んでいるだけに見えるのかもしれない。だからって、振り回していると言わなくてもいいのに。

 同じ村で育ったため、仲の悪いなんてことはない4人は初めての都市へと向かう。

 人とエルフにしかあったことのない俺たちは、この先どのような景色をみるのだろうか。


 馬車が一度止まる。3日程度走っている。都市に着いたようだ。


「降りろお前たち。」


 ここまで馬車を引いてくれた獣人が話しかけてきた。4人も乗った馬車を一人だけで動かせるほどの力を持っている種族。

 これほどの腕力を持っている種族が味方に居るのになんで戦争では負けているのだろうか。


「はい。」


 4人で初めての都市の空気を肺に詰める。村より空気が濁っている気がする。

 初めて見る人混み。初めて見る種族の数。初めて見る大きな建物。こんなに栄えている場所があるなんて驚きだ。


「まず、本部に案内する。そこで説明を受けろ。」

「分かりました。」


 馬の顔をした獣人に連れられて、軍本部へと向かう。

 本部には数百人の村から集められたと思われる人が居た。ざわざわと騒がしい雰囲気に圧倒される。


「ここが…!」


 トーマは何か興奮しているようだ。

 初めての都会で圧倒されている俺。

 言葉を失っているカリオス。

 やる気に満ち溢れたユウジ。

 人によってこの場所はとらえ方が違うらしい。


「おい、隣の村のやつらだろ。」


 ヤンチャそうなエルフが声を掛けてくる。


「そうだよ。初めまして。俺は…」

「そういうの良いから。そろいもそろって弱そうだなぁ。そんなんじゃ『魔法』の一撃で死んじゃうぜ。」


 絡んできたエルフと同じ村出身だと思われる数人が後ろでニヤニヤしている。そんなに面白い話だろうか。


「『魔法』…?」

「おいおい。冗談だろ、そんなことも知らねえのか?」

「知らない…」

「こいつは即死候補高いなぁ!」


 後ろの連中も笑っている。


「君だって見たことないんだろ。」

「あ?」

「見たこともないものを、知っているからと言って威張るようじゃ、君の方が心配だよ。」

「なんだと…!」

「君から絡んできたのに、なんだい?」

「ちっ」


 面白くなさそうな顔をして、どこかへ消えた。

 ユウジが話かけてくる。


「すごいな。レンジ。」

「なんだ、あの態度は。」

「隣の村の連中は毎年、軍に入るやつが居るから威張ってんだろ。」

「なるほどね。関わりたくないな。」

「まったくだ。」


 トーマは建物に夢中で、カリオスは人込みに圧倒されて端の方で小さくなっている。

 この状況にため息をつきつつ、あたりを見渡す。

 正面の壇上に一人の熊のような獣人が立った。


「よく集まってくれた!村の民よ!私はロスカーン。グレンウッドの管理人だ!戦いに赴く諸君を訓練し、鍛え上げすぐにでも戦場で戦果を挙げられるような騎士を作り上げる!貴公らは3か月ここで生活してもらう!その後、戦場で英雄になってもらう!大いに期待している!」


 ロスカーンの話が終わった。

 どれだけ集まっても妨げることのできない、気合のようなものが飛んできた。

 先ほどまで雑談していた者も戦いの顔になっている。これほど、やる気に満ち溢れた空間はないだろう。


 8人一部屋の共同生活。ある程度同じ村で固められるらしい。

 部屋に入ると、先ほど絡んできたエルフたちが居た。


「コイツらか…」

「なんだぁ!その顔は!」

「やめろ、レンジ。」

「やめとけ、リオフィン。」


 この険悪な空間が俺たちの住居になるらしい。


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