第十七話
「レンジ。剣を持て行け。」
「殺しは?」
「極力避けたい。」
「分かった。」
この屋敷の中はガルフォードが理解していた。
数回来ただけで、こんなに大きな屋敷を把握するなんて俺にはできない。こうなることを予想していたのだろか。
質問は控え、足を動かす。
「止まれ!!貴様ら!!どうやって外に出た!!」
俺たちを捕まえた兵士の怒号が聞こえる。
ガルフォードは殺気をまき散らしながら剣を抜く。
その殺気に兵士が怖気づいたところで、剣の腹で相手の頭をたたく。
兵士は頭から、血を流しながらその場に倒れ込む。
「この先は手分けするぞ。居るであろう部屋の候補が多すぎる。」
「分かった。気を付けて。」
「こっちのセリフだ。牢屋で俺たちが壊れたと思ってただろ。」
「い、いや。分かってたよ。」
「そうか。なら、良い。」
大きすぎる屋敷の中を走り回る。
数人の兵士と出会うが、なんとなく相手して殺さずに鎮圧する。
部屋を隈なく探していく。ある程度、ガルフォードから教えられたが、全然頭に入ってこなかった。
大きな扉を開ける。ここだけ、豪華な装飾が施されている。
中に入ると、数人分の食事が並んでいる。まだ、暖かいところを見ると、捕食者はまだ近くにいるはずだ。
中に少し、入ると。
「っ!」
全裸のイザルナとオルヴァニスが横になっていた。
「貴公は、イザルナ・アルドリアと一緒にいた共和国人ではないか。」
揚々としゃべるその言葉は聞こえるが、理解できない。
この現場を見れば言い逃れはできないはずだ。そう。大人な行為をしたのだ。
「何を…」
「見て分からんのか。交渉だ。イザルナ・アルドリアとの交渉は成功した。貴公らは見逃さそう。明日にでも船を用意させる。その船で帰ると良い。」
「な、なに…」
「聞こえんのか。貴公らにはもう興味ない。」
なぜだろう。全然話が見えない。
俺は疲れているのか。
「イザルナ…?」
「レンジ。明日の船で【アルドリア】に向かって。」
「は…?」
「後はお願いね。」
イザルナは顔を見せない。
声だけが布団の中から聞こえてくる。
「男女の空間に長居は無用だ。すぐに立ち去れ。2回目を始める。」
「ま…て。」
「なんだ。その口の利き方は…」
オルヴァニスから強い声を聞く。
そんなことはどうでもいいくらいに今はイザルナの意見が聞きたい。
「イザルナ。交渉とはなんだ。」
「小僧。余を愚弄するきk」
「てめぇには聞いてねぇんだよ。」
「なんだt」
「イザルナ。答えてくれ。」
「これが私の臨んだ交渉なの。だから、行って。」
「なら、なんで顔を見せない。」
「裸を見られたくないの。女の子ならみんなそうするでしょ。」
「違うな。それは嘘だ。」
「なんで?」
「だって、声が震えてるぞ。」
「…」
「余を無視するな。小僧。ここまで情けをかけてやってるのが分からんのか。」
「黙れ。このロリコン変態ジジイが。」
オルヴァニスが声を発する前に剣を抜く。
「来い。若人の実力を見せてやる。」
「余にそこまで言うのか。良いだろう。交渉は決裂とみなす。」
「かかってこい。」
「服を着る少し待て。」
「早くしろ。外道。そんな粗末な物をイザルナに見せるな。」
オルヴァニスは服を着て、剣を取る。
「小僧。名乗れ。」
「レンジ。行くぞ、オルヴァニス。」
「ふん」
正面からの激突。剣が悲鳴を上げる。
その大きな巨体から放たれる一撃、一撃は避けるのが精一杯だった。
どこかで隙を見つけないと。
冷静に見極める。老体とはいえ、今すぐに戦場に立っても見劣りしないその活躍ぶりには賞賛を送りたい。
しかし、この行為を許せるはずもなかった。
懐に入り込み、剣で腕を斬りつける。あまりの硬度に剣が折れそうだ。
鱗の装甲と言ったところか。
尻尾で捕まれ、壁に投げられる。その衝撃で、剣を落としてしまう。
「どうしたのだ。さっきまでの威勢は。」
「こ、れから、だ」
全身から正気を奪われる。
血が流れ、意識が朦朧とする。
負けるかもしれない。死ぬかもしれない。イザルナがどこかへ行ってしまうかもしれない。
煩悩がすべてを支配する。
ふと、イザルナと目が合う。その目を見た瞬間、邪念が吹き飛び、勝機が湧いてくる。
そうだ、もう怯えるだけの小物ではなく、誰かを助ける英雄になるんだ。震えるだけでは、見ているだけでは、口先だけでは誰も救えない。
転がった剣を握り、前を向く。
「ふぅー」
呼吸を整る。
向こうも待ってくれるわけではない。
次の一撃を繰り出してくる。右からの大振りと尻尾による左からのスイング。
大振りの剣を受け流し、態勢を崩させる。尻尾のスイングを動くことなく躱し、前進する。
左からの大振り。これを受け流す。
体重の乗った剣劇は態勢を崩させるのに最適だ。さらに前進する。
上から振り落とす剣をよけ、剣で首に切りかかる。
が、剣が首に当たったところで剣が折れてしまう。
「そんな攻撃で余が死ぬわけない。」
そんなことは分かっていた。だって、腕の硬度であれだ。
急所はもっと硬いに決まっている。
だから、未熟者の俺は考えた。まだ、未完成だけどこの距離で発動すれば効果はあるだろう必殺技を。
「『水』」
自分の指に力を込めて、すべてを放つ。
小さな液体が人差し指から流れる。その量では何もできないだろう。
しかし、目の前の外道を殺すくらいのことはできる。
人差し指から放たれた一撃は、オルヴァニスの体を簡単に貫き、重要器官を破壊する。
血を吐き出すオルヴァニス。
これが現役と退役の力の差だ。こいつは力こそ強かったが、戦いから離れすぎたな。
力なく床に倒れ込むオルヴァニス。それを看取ることなくイザルナに声を掛けに行く。
「さぁ、帰ろう。」
「どう…して」
「?」
「どうして助けに来たの!」
「…」
「私だけでなんとかできたのに!みんな平和に終わらせることができたのに。」
「その、みんなに自分は含まれてるの?」
「自分だけが犠牲になれば多くの人が救えた!だから選択しただけ!」
「そっか。君はもっと賢いと思ってた。」
「なに!?」
「イザルナは自己犠牲精神が強いんだね。でも、俺の顔を見た瞬間にそれは崩れてた。もっと自分を大切にした方が良いよ。こんなやり方を続けてたら自分が持たない。」
「っ!」
「今回の件は俺が悪かった。だからって、それを言わずに自分だけが責任を取れば終わりだなんて考えないでよ。今回は俺に責任を取らせてほしかった。だから、怒ってる。」
「…」
「君が誰よりも他人のことを尊んでいるのは知っているけど、自分を大切にできないのならそれは偽善に過ぎない。俺は君の辿る道が見たいからついてきた。君に付いて行けば何か見えると思ったから。『魔法』を知れた。自分を知れた。世界を知れた。ここまでされて、ほっとくなんてできない。」
「それは…レンジが勝手にしただけでしょ!!私には関係ない!!」
イザルナの顔をぶつ。ちょっと強めに。全力ではなく、小突く程度に。
「もっと正直になってほしい。信用してほしい。頼ってほしい。俺が付いてきたいと思った頭は、偉大なんだって思わせてくれ。」
イザルナの目には涙が溜まっており、ついに泣き出してしまった。
「だって、私は、姫、だから、みんなを、まとめなくちゃ、いけないから、なにも、分からない、状況でも、周りに、いきてほしいから、」
「俺たちは簡単にはくたばらない。イザルナがあきらめたときが俺たちの死に際だ。」
「だって、ここで、私が、逆らったら、みんな、殺されるから、」
「嫌なときは、わがままを言ってくれ。そのわがままをきっと叶えて見せる。どんなことであろうと。」
「だって、、だって、、、、」
泣き声なのか、言葉を並べているのか分からない。後半は会話になっていなかった。
「本当はどうしたかったんだ。」
「本当は、嫌だった、、、でも、、ここで、終わりたくなかったから、、、だって、、、」
「悪かった。俺が。知らなかったと言い訳はしない。君なりの罰をくれ。俺は罰が欲しい。」
「服、取って。」
「分かった。」
言われるがままに服を取り、着替えるまで扉を見つめる。
後ろから強い衝撃が走る。
振り向くとイザルナが抱き着いてきていた。
「死なないで。これが私があなたに下す罰。」
後ろを振り向き、跪く。
手を取り、口を近づける。
「私は、あなたに忠義を誓う。死なないと言う罰は私の誇りとして胸に刻もう。」




