第十六話
・イザルナ視点
風呂に入る。入らされていると言った方が正しい。
さすがは、【エルダローズ】の管理者。情報を得るのが早い。
王都でも自分の駒が存在している証拠だ。何かあったときにいち早く情報を伝えに来る獣人が居るに違いない。
しかし、王都での一件を知る者は少ないはずだ。独断で動いているにしては早すぎる気もする。
もしくは、王様がレンジを捕まえるように促したのか。
真相は今となっては分からない。
風呂でしっかりと汚れを落とす。最近はここまで、体を洗うことができなかった。だから、こんな状況とは言え、風呂に入ることができてうれしい。
【アルドリア】とそんなに風呂の仕組みは変わらない。文化が違うとはいえ、この辺の生活様式は一緒だ。
風呂から上がり、服を渡される。
体のラインがはっきりと見える。露出の多い服だ。
抵抗はあるが、このような服装は慣れている。父と出席していたパーティーではよく着た。この方が、受けがいいと。
服に着替えて、廊下に出る。
オルヴァニス卿が居る部屋に案内される。先ほどの部屋とは違い、自室のような印象を受ける。
「失礼いたします。おまたせいたしました。イザルナ・アルドリアです。」
「入れ。」
「失礼いたします。」
「悪くない。」
オルヴァニス卿は、私の格好を見て御満悦のようだ。
歳を取っても、男性としての欲望は健在か。
「質問してもよろしいですか?」
「良い。」
「ありがとうございます。私の仲間はどこに連れて行ったのでしょうか。」
「地下牢だ。」
「なぜ、幽閉する必要があるのですか。」
「分かっているはずだ。あの、共和国人は王に狙われている。ここで、王のために動くことは当然だろう。」
「そうですか。お言葉ですか、それは嘘ですよね。」
「ほう。なぜそう思うのか答えろ。」
「はい。あなたは現国王のことが邪魔だとお考えです。そのための火種として、レンジを利用したいのですね。」
「さすがに頭がキレるな。」
「ありがとうございます。光栄です。」
「しかし、それがすべてではない。」
「と申しますと?」
「余の目的の大きな一つは貴公だ。イザルナ・アルドリアよ。」
「わたくしで、ございますか?」
「そうだ。その美貌。若さ。地位。すべてが完璧だ。」
そういうことか。私を革命の核としてではなく、最初から女として見ていたのか。
それなら、このタイミングは完璧と言わざるを得ない。
オルヴァニス卿に会うのは3回目だ。これまでも狙われていたのかもしれない。
「食事をするぞ。」
「はい。遠慮なくいただきます。」
食事に手を付ける。【アルドリア】では食べることのないであろう食材。
昆虫に果物、野菜。一つを除けば、なんてことのない食材だ。
しかし、どれだけ食べても慣れない、虫の味。
噛みたくない食感に体が拒絶する味。これをおいしそうに食べられる目の前のオルヴァニス卿が羨ましい。
食文化の違いは理解しているが、これだけは正直受け入れられない。
「驚かないのだな。」
「はい。父がわたくしを道具として利用していたので、幼少の頃より純血はありません。」
「ほう。興味深い話だな。」
「面白みに欠けるお話です。」
「この状況でも笑っている貴公はやはり魅力的だ。」
「そのようなお言葉をいただき、光栄です。」
「素晴らしい…」
子供のころから、異性の相手はさせられていたから別に抵抗感も何もない。
少し、心配なのは相手が人間ではないことだ。流石に人間以外は専門外のため、緊張する。
「一つよろしいですか?」
「なんだ。貴公は気に入った。今後は何でも質問すると良い。」
「ありがとうございます。仲間の処遇についてお聞きしたいのです。」
「そうだな、今のところ共和国人以外のことは考えておらん。」
「レンジを如何するのでしょうか?」
「先ほども言ったであろう。内戦の合図になってもらう。」
「そこで、交渉したいのです。」
「交渉だと?」
「はい。」
席を立つ。
「失礼いたします。」
オルヴァニス卿の膝の上に座り、腕を首の後ろへと回し顔を近づける。
耳元で囁くように声を出す。
「私だけで我慢していただきたいのです。」
「ほう?」
「私は何でも耐えられます。どうぞ、道具のようにぞんざいに扱ってください。ですから、彼らには目を瞑っていただきたいのです。」
「それは貴公次第だな。」
「そうですね。お話にも飽きませんか?どうぞ、ベッドで語りましょう。」
「良い。そこでの貴公の態度で決めることにしよう。」
「ありがとうございます。」
オルヴァニス卿は私を抱え、ベッドに放り投げる。
覆いかぶさるように顔を近づける。
目を瞑り、すべてを受け入れる。
・レンジ視点
ジルとギルは明らかにイライラしていた。その態度がこちらにも伝わってくる。
ガルフォードも冷静を装っているようだが、足が小刻みに動いているところを見ると大分焦っているようだ。
フィリスは先ほどから独り言をぶつぶつしゃべっている。
「どうするの?」
ガルフォードに質問してみる。
「そ、そうだな、一回、お、落ち、落ち着いて、考えて、考えた、ほうは、方が、いいぞ、良いな。」
全然落ち着いていない。噛み噛みだし、声も震えている。
「あああああああ」
「どうした!?」
「イザルナ様が心配すぎる!!!」
「落ち着け!フィリス!まだ、何かされていると決まったわけじゃないだろ!」
フィリスはどこまで妄想がはかどっているのだろうか。
それを静止させようとガルフォードが声を出しているが、フィリスの方ではなく看守に怒鳴っている。
「二人とも」
「落ち着けよ。」
「「姫様…」」
ギルとジルはイライラを通り越して、泣きそうになっている。
4人とも情緒不安定すぎる。
フィリスは発狂を続けているし、ガルフォードはそんなフィリスを落ち着かせようと牢屋の外にいる看守に怒鳴っているし、ジルとギルはついに祈り始めた。
目の前が取り返しのつかないことになっている。
4人が暴走しすぎて、俺自身は逆に冷静だ。
ここから、自力で出る方法はないだろう。外部から、開けてもらうしかない。
しかし、ここは【共和国】だ。イザルナ・アルドリアの仲間が駆けつけるには遠すぎる。
フィリスの『魔法』で抜け出せないものだろうか。
フィリスの方を向くと、床に話しかけていた。
だめだ…。ここに居る者は全員崩壊した。
あきれた看守が向こうを向いた瞬間だった。全員がぴたりと動きを止た。
「『移動』」
ガルフォードが外に移動し、看守の首をへし折った。
剣を奪い、鍵を開ける。
「あまり時間が無そうだ。レンジ、俺と来い。ジル、ギル。フィリスを連れていけ。お前たちはできるだけ敵を引きつけろ。イザルナ様を回収し次第、海に向かう。解散。」
その光景に呆気を取られる。
しかし、全員が何も言わずに動き出す。
俺も考えることなく、ガルフォードについて行く。




