第十五話
「三対一か。分が悪いな。」
「戦う前から弱音か?」
「正直なところが長所でね。お前らみたいな夢物語を恥ずかしげもなく話すロマンチストじゃないんだ。」
「そうか。名は?」
「オクタ。」
「ガルフォードだ。」
その一瞬で剣が交わる。
ガルフォードが放った一撃をオクタが止める。その隙に両脇からギルとジルが切りかかる。オクタはガルフォードを押しのけ、ジルに蹴りを入れるが、ギルに剣を落とされる。
ジルが追撃するが、オクタは突進で突き返す。流れで剣を拾い、ガルフォードに追撃する。ガルフォードとオクタの剣劇の押し付け合い。
『魔法』でも使っているのではないかと思うほどの速さ。お互いに傷はない。
ガルフォードが押し負けたところに、ジルとギルが間髪入れずに剣を入れる。
息が合っており、オクタは守りで精一杯に見える。攻撃をする暇を与えてもらえない。
鉄特有の音が周囲に鳴り響く。
多対一でも押し返しているオクタは相当な手練れに見える。
ジルが再び剣を落とし、ギルが蹴りを首元に叩き込み、ようやくオクタは意識を失う。
「しぶと…」
「やるな…」
「一対一だったら負けてたな。」
「そんな」
「ことない」
「「俺たちなら勝ってたさ」」
「そうだな、悪い。」
「「良いんだ」」
3人が馬車に帰って来る。
「よし、行こう。」
「怪我はない?」
「「大丈夫です。姫」」
「問題ありません」
「良かった。」
イザルナは安堵の表情を見せる。
何事もなかったかのようにその場を立ち去る。
深い森の中一台の馬車は走る。
周りには誰も見えないが警戒を怠ることはできない。
張り詰めた空気が馬車を襲う。
「ここで休むぞ。」
獣人がそう提案してきた。
もっと進んでおきたいのが本音だろうが、全員が承諾した。
彼を休ませないとこれ以上進むことができないと理解していたのだ。
「この先は道が悪い。しばらくかかるぞ。」
「無理を言って申し訳ありません。よろしくお願いいたします。」
イザルナが感謝と謝罪をする。が、獣人はすでに話を聞いていない。
無言で休憩に向かった。
仲良くできないものだろうか。
「【エルダローズ】に帰るのですか?姫。」
「そうね。一度【エルダローズ】に引き返して、【アルドリア】に帰ろうかしら。」
「分かりました。」
今日はここで野宿だ。
俺みたいなのは野宿に慣れているけど、お姫様はどうなんだろうか。
行きでも野宿はしていたが、生まれ育った環境が違う。相当、無理をしているのではないだろうか。
自分に無理が効くのは余裕があるときだけだ。今は、余裕が無いように見える。心配だ。
「少し、空気を吸ってくるから。」
そう言い残し、イザルナはどこかへ行ってしまった。
「俺もちょっと…」
「あぁ」
イザルナの後を追う。
少し、罪悪感があった。
自分も知らなかったとは言え、面倒なトラブルを引き起こしてしまったことに。彼女を悩ませてしまっているのなら、自分はこのチームから離れた方が良いのではないだろうか。
「イザルナ。横良い?」
「どうぞ。」
イザルナが座っていた木の横に座る。
「ごめん。こんなことになって。」
「いやいや、レンジが悪いわけじゃないよ。誰も気にしていないと思うよ。」
「【共和国】との交渉。失敗させたよな。俺。」
「だから、気にしすぎだよ。」
「謝っておきたかった。こんな結果になってしまったことを」
「大丈夫だよ。【アルドリア】側の協定の準備を進めれば、【共和国】も態度を改めると思うよ。」
「そうか…ありがとう。」
「良いよ。今日は感情の緩急が激しいね」
「そうかな?」
「そうだよ。」
「自分でついて行くって言ったのに、足を引っ張ってばかりだな俺。」
「ネガティブに考えないの。男の子でしょ。」
「はい。反省します。」
「じゃあ、帰ろっか。」
「うん」
帰り道に特に会話はなかった。
今回の一件でかなり迷惑をかけた。これを払拭できるくらいに強くならなくては。
この安心感に甘えてはいけないと思う。『魔法』の訓練を欠かさずにやって、剣術もこれまで以上に鍛えよう。
彼らに負けないように。
翌朝。また走り始める。【エルダローズ】に向けて。
森を抜けて、村を転々とした後に、数週間後ようやく【エルダローズ】に到着する。
その足で、オルヴァニス邸に向かった。
先日と同じ門番に出会う。
「御無事で何よりです。」
「はい。ただいま戻りました。オルヴァニス卿とお話できますか?」
「はい。旦那様もお待ちです。武器をお預かりいたしますね。」
「ありがとうございます。失礼いたします。」
中に案内され、先日と同じ部屋に入る。
「失礼いたします。」
「戻ったか。」
「はい。ただいま戻りました。」
「どうであった?」
「はい。あまり芳しくはありませんでしたが、何とか返事をいただくことはできました。」
「そうであったか。では…」
オルヴァニスが手を挙げた瞬間に、扉から数人の兵士が入ってくる。
「どういうおつもりですか?オルヴァニス卿。」
「王都では、いろいろあったようだな。」
「はい。少し事情がありまして。」
「話せ。」
「ここでお話することはできません。」
「ほう?そのような事情があるとはな。貴公らではなく、レンジとかいう者に問題があったのだな。」
「それは…」
「良い。すぐに答え合わせしてしまったらつまらん。この者たちを幽閉しろ。」
合図と同時に、兵士に捕まえられる。
抵抗としようとしたが、イザルナが強い視線を送ってきたため、無抵抗で捕まった。
「イザルナ・アルドリアだけ、余の前に連れてこい。」
兵士は無言でイザルナをオルヴァニスの前に差し出す。
オルヴァニスはイザルナの顎を持ち上げ、うれしそうな顔で話し出す。
「なぜ、余が貴公らに協力したか、理解しているか。」
「い、いえ、」
「この瞬間を待ったからだ。」
「この者を浴場に連れていけ。後に余の前へ。」
兵士とイザルナはどこかへ行ってしまう。
「他の者は牢屋に閉じ込めて置け。」
兵士たちはうなずくと、俺たちを連れて行った。
地下へと続く廊下で、誰も抵抗することなく牢屋に入った。
冷たく湿ったその部屋は、居心地の良いとは言えない空間だ。牢屋に入るのは当然初めてだ。だけど、もうすでに出たい。
二回目がないことを祈る。




