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英雄譚  作者: 鈴木 雫
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第十二話

「ここで一度休む。」


 馬車を引いてくれている獣人がそう言った。

 目立たない森の中。7人が一息つく。


「もう少しだね。」

「そうなの?」

「あと数日でつけるんじゃないかな。」

「そうなんだ。なんでそんなに詳しいの?」

「「愚門だぞ、レンジ。」」

「え?あ、そうか、ごめん。」

「そんなに気にしないで。何度か来ているから知っているだけだよ。」

「来てる?」

「うん。交渉にね。でも、王家の人間と会えたのは一度だけだけどね。」

「へぇ~」


 馬車から降りて、息をする。同じ国とはいえ、場所が違えば空気の味が違う気がする。

 懐かしくない香りを鼻で吸い込み、口から戻す。


「おい。」

「?」

「お前、共和国人だろ。」

「そうだけど…」


 馬車の獣人が話しかけてきた。


「なんで、あんな奴らと一緒にいる?」

「あんなって…仲間だからかな。」

「仲間だと?この国を戦場に変えたくせに何を今更…!」

「恨んでいるの?」

「当然だろ!くだらないことのために親父は…!」

「イザルナたちは戦争を止めるために動いてくれてる。」

「なんなんだよ…。そんなことなら最初からやるなよ!」

「だから、彼女らは後始末を自分たちの手で行いたいんだろ。それに無粋な意見は出さない方がいいよ。」

「なに?」

「しかも、国で差別しているのなら君は【アルドリア】と何も変わらないよ。失った人が居る事実は変えられないけど、今から失う人は救えるだろ。そのために彼女らは動いてるんだ。何もせずに、口だけ動かしている君は黙って邪魔しないでほしい。」

「…」


 獣人と離れて馬車に戻ろうとする。


「そんな風に考えてくれていたとはね。」

「イザルナ…聞いてたの?」

「ちょっとね。」

「ごめん、あんなこと言うべきではなかったかな?」

「そんなことないよ。ありがとう。」

「なら、よかった。」


 馬車は進み始める。

 王都【セレシア】。人間の王が君臨しているこの地は地方では見ることができない未来的な建築が並び、皆綺麗なドレスに身を包む。この景色を目に焼き付けた者は夢のようだと口にする。この国で最も大きな城は王の権力を表している。すべての種族の繁栄を望む王家は代々他種族との婚姻を結ぶ。これが、多様性の重要な鍵となる。

 イザルナから聞いた話だ。ざまざまな種族が道を歩いている。すべての種族が集まっているのだろうか。


「ついたぞ。降りろ。」

「ありがとうございました。」


 獣人は俺を睨むようにどこかへ行ってしまった。帰りは迎えに来てくれるのだろうか。


「城を目指そうか。」

「ちょっと…」

「どうしたの?レンジ。」

「何その恰好…」

「俺が選んだ。」


 ガルフォードがドヤ顔で説明してくる。

 目立ちすぎる服に、奇抜な帽子。アルドリア人特有の髪の毛を隠すためとはいえ、違う面で目立っているように見える。


「ガルフォードは奇抜な服装が好きだからね。動きやすいし問題ないよ。」

「そ、そうなんだ。」

「レンジは着替えなかったの?」

「ごめん。ちょっと…」

「そう?じゃあ、行こうか。」

「レンジは」

「服装に」

「「うるさいのか?」」

「そういうのじゃないけど、目立たない?」

「ガルフォードは」

「センスが」

「「終わってるからな」」

「なんだと…お前ら、この服装のどこが悪いのか説明してみろ。」

「根本的に」

「終わってる」

「なっ…!」

「やめなよ、3人とも。良いじゃないか、この服私は好きだよ。」

「フィリス…!そうだよな、俺は間違ってない。」

「イザルナ様も困っているから、早く行こう。」


 フィリスが静止させる。ガルフォードも子供みたいなところあるんだな。

 城に向かって歩く。目立ってはいるが、ジロジロとみる者は少ない。逆に奇抜な格好の中に居る地味な俺の方が目立っている気がする。

 城の前まで到着する。大きな門だ。こんなに大きな種族まで城に入るのだろうか。


「何者だ?」


 門番に話しかけられる。


「オルヴァニス卿よりご紹介された、イザルナと申します。」

「お前か…」

「はい。王の拝謁を許可していただきたいのです。」

「入れ。武器を預かる。」

「はい。ありがとうございます。」


 全員武器を渡し、中に入る。

 見えないほど高い天井。人が住んでいるとは思えないほどきれいな室内。多様な種族の使用人が廊下に見える。


「ここだ。入れ。」

「失礼いたします。」

「久しぶりね」

「御無沙汰しております。レイ・セレシア様。」


 人間と言うにはあまりに形状が違い過ぎている。背中らは翼が、体には鱗が生えている。黒い髪を腰まで伸ばして、綺麗な衣装に包まれている。

 そのきれいな容姿に心が奪われそうだ。人間とは違うはずなのに、どこかで親近感を感じている。

 室内の空気に緊張が走る。


「今日はどうしたのです?【アルドリア】の姫様が。」

「はい。本日は【アルドリア】との協定を結ぶ準備があるのかをお聞きしたいのです。」

「そう。座って。」

「はい。失礼いたします。」


 両者が椅子に座る。


「協定を結んでほしいと?」

「はい。今後激化するであろう戦争を止めてほしいのです。」

「そうですか。しかし、それが【アルドリア】の総意なのですか?」

「それは…」

「違いますね。あなたは、まだ【アルドリア】王を説得できないでいる。この状況で協定を結ぶことはできません。こちらは何度も協定のお話をしているのにもかかわらず、そちらは一向に振り向こうとしない。これこそが現状ではありませんか?」

「そうですが、今後、父を説得して見せます。ですから、今一度協定について考えてほしいのです。」

「そうですか。こちらは構いませんよ。もし、協定の締結が現実となれば戦死者が居なくなりますから。それはこちらも願ったりな話です。しかし、あなたにそれほどの力があるとは思えない。だから、信用にかけるだけですよ。」

「それは…信用していただくしかないですね…」


 深刻な空気が流れる。

 おそらくここで何か間違えると大変なことになる。そのことを誰もが理解している。故に誰も動かず、汗を垂らして時を待つ。


「ここで議論に花を咲かせても何にもなりません。良いでしょう。あなたを一度信じてみることにします。」

「本当ですか!?」

「ただし、条件があります。」

「はい。なんでしょうか?」

「そこに居る方を少し借りたいのです。」


 指を指された方向には俺が居た。


「レンジをですか?」

「レンジと言うのですか。彼を少し借りたい。」

「どの程度の期間でしょうか?」

「数日借りるつもりはありません。今晩だけで結構です。」

「そうですか…」


 イザルナが心配そうな顔でこちらを見てきた。

 静かにうなずく。


「分かりました。レンジを置いていきます。」

「では、協定の件。よろしくお願いしますね。」

「はい。何卒よろしくお願いいたします。失礼いたします。」


 俺以外の5人は部屋を出て行った。

 ここには俺と王様しかいない。なんの話が始まるのだろうか。


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