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英雄譚  作者: 鈴木 雫
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第十一話

「よく眠れたか?」

「なんとなくね。」


 廊下で会ったガルフォードに声を掛けられる。


「今日からしばらく移動になるからな。体調には気を付けろよ。」

「分かってるよ。」

「なら良い。」


 食堂へと移動してご飯を食べる。

 食べ慣れた味だ。パンに野菜に少量の昆虫。俺から見たら豪華な食事に見える。

 他の面々にはそう映っていないらしい。顔をしかめている。相変わらずイザルナはおいしそうに食べる。王族はどんな環境でも生きられるように訓練されているのだろうか。


「獣人を用意した。彼に王都まで運んでもらうといい。」

「ありがとうございます。なにからなにまで。」

「良い。アルドリア人は目立つ。帽子をして行け。」

「はい。心得ております。」

「なら良い。」


 食事を終え、外に出る。そこには馬車を引く獣人が待っていた。

 白い狼のような獣人。馬車を引くよりも戦場で輝きそうなその獣人は、大きな巨体を動かしながら馬車を運ぶ。


「イザルナ・アルドリアと申します。この度はありがとうございます。」

「…」

「王都へ連れて行って下さると。」

「これで全員か?」

「はい。ここにおります6人で全員です。」

「乗れ。行くぞ。」

「よろしくお願いいたします。」


 不愛想な獣人だな。イザルナの目を見るどころか、睨みつけている。

 馬車に乗り込む。6人でも余裕のある大きな馬車だ。これを一人の獣人が動かしている。

 馬車は動き出す。中央を目指して。


「姫様」

「お気分は」

「「いかがですか?」」

「平気よ。そんなに気にしなくても大丈夫よ。」

「「そうですか。」」

「ジルとギルはいつもイザルナを心配してるよな」

「当たり前だ。あいつらはイザルナ様と一緒に王都から逃げてきたのだから。家族みたいなものだ。」

「へぇ~。」

「詳しくは二人から聞け。」

「分かった。」


 思ったより複雑な関係みたいだ。普通に上下関係が厳しいだけかと思っていたから。


「レンジ君は剣士なんだって?」

「そうだよ。」

「君『魔法』には興味ないのかい?」


 フィリスが話しかけてくる。


「多少興味はあるけど、俺なんかが使いこなせるの?」

「『魔法』は才能と言うより、努力だからね。レンジ君も練習すれば使えるようになるさ。」

「ほんとか!是非教えてくれ。」

「良いよ。どうせ暇だからね。まず目を瞑って。」

「分かった。」

「そのまま息を吸って、吐いて。想像して。目の前をどうやって変化させたいのか。」


 想像する。前にやられたみたいな、水を操るような『魔法』が欲しい。

 全身で力を込める。この体のどこに力を込めればいいのか全然分からないが、とにかく力を入れる。

 静かに目を開け、周囲を確認する。


「?」

「ふっ…」


 ガルフォードに鼻で笑われた。


「うん。君才能ないね。」

「え?さっき、才能はいらないって…」

「こればっかりはしょうがない。」

「そんなぁ」

「「才能がないんだあきらめろ。」」

「レンジ頑張って。」


 賞賛と悪口がどこからも聞こえてくる。


「イザルナとフィリスはどうやって使えるようになったの?」

「王家はある程度、教育を受けるからね。」

「努力。」


 子供の頃から訓練しなくては使えない技術か…。先の戦闘では十分強力性を理解することができた。

 使いこなすことができれば一人でも魔法師とやりあえる実力になるかもしれない。


「頑張るから、教えてよフィリス。」

「別に構わないよ。でも、才能のないレンジ君が習得しようと思ったら相当大変だけれど大丈夫かい?」

「問題ない。鍛えてくれ。」

「良いね。その気概は気に入ったよ。馬車の中で暴れるわけにもいかないし概要だけ教えてあげようかな。」

「頼むよ!」

「イザルナ様から大体のことは聞いたらしいね。」

「なんとなくね。『魔法』を使うには魔力が必要で、足りない分は自分の生命力が必要なんだろ?」

「そうさ。そして、行使する『魔法』には限度がない。」

「あぁ。それも聞いたよ。」

「『魔法』はね、頭の中で現実を組み立てるって感じかな。」

「ほ、ほう?」

「感覚で覚えるしかないから何とも言えないのだけどね。そうだな…水。例えば水を頭の中で想像してごらん。」

「分かった。」


 水を想像する。流れている水。コップに入っている水。降ってくる水。とにかく水を想像する。


「多分レンジ君はいろいろ考えてしまっているよ。」

「いろいろ?」

「そうだね。もっと単純に、こんな風に。」


 フィリスが手を広げると水の塊が出てきた。


「す、すげぇ…」

「褒められるとうれしいものだね。」

「どうやったんだ?」

「感覚だからね。水の塊を想像しただけだよ。」

「想像…分かった。やってみる。」


 頭の中で自分の手に乗っている水の塊を想像する。フィリスが今出して見せたものを頭の中に思い描く。

 手が濡れている感覚に襲われる。恐る恐る目を開けると、そこには何もなかった。


「あれ…?」

「悪くない線いってると思うよ。」

「ほ、ほんとか!?」

「うん。後は地道に練習するしかない。」

「分かった。王都に着くまでに出せるようになって見せる!」

「それは難しいと思うけどね。」

「え?」

「普通の魔術師が『魔法』を習得するまでに2年はかかる。この1か月で習得出来たら、それはただの天才だよ。」

「えぇ…」


 道のりは長そうだ。逆に言えば『魔法』が使える二人のもとで修業させてもらえば、努力次第で2年後には『魔法』が確実に使えるってことだ。

 やる気しか出てこない。


「俺、やってみせるよ。」

「すごいね。普通ここではあきらめると思ったけどね。」

「こんなすごい二人が教えてくれるのに、諦めるなんてもったいないだろ。」

「うれしいこと言ってくれるね。」

「頼むよ、師匠。」

「先生の方がしっくりくるかな。」

「じゃあ、先生!」


 フィリス改め先生に『魔法』を教えてもらうことにした。これで、少しは俺も自信がつくかもしれない。

 敵を目の前に、足が震える自分ではなくなるかもしれない。そんな希望を胸に訓練を続ける。王都に到着するまで。


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