第一話
とある戦場。とある荒野。そこには対立している二つの国の戦争があった。
「進め!!!!」
共和国と呼ばれる国があった。多彩な生物が共存しているこの国は、豊かに栄えており、誰もが平和を謳歌していた。
そんな中アルドリアと呼ばれる国が戦火の火を灯した。人道主義。人間こそが至高の種族であり、その他の種と共存することはあり得ないことを理念とする宗教国だ。
両国の対立は激化の一途をたどっていた。
「レンジは今日もいないのか…。」
男は家の前でぽつりと言う。彼は寂しい背中を訪ねた家に向けて歩く。肩を落とし、残念な気持ちと共に。
・レンジ視点
今日も剣を振り回す。森の中、誰も見ていないところで。その深い黒髪をなびかせながら。
「疲れた~」
水を飲み、汗を拭う。彼には夢があった。英雄譚に出てくるような英雄になることだ。誰もが羨む強者に、彼もまた憧れていた。
「あ!居た居た、レンジ!」
「よっす!トーマ!」
「よっす!じゃないよ。何してんのさ。」
「何って…修行だよ。修行。見てわからんのか。」
「分からん。そんなことより、軍からの招集の話聞いたか?」
「招集?」
「戦争に人数が足りないってことで、村からも人員を補充するんだと。」
「へぇ~。」
「そんな他人事な…。良いか。絶対今日の集まりには来いよ!」
「分かった。分かった。行く。行く。」
「ほんと分かってんのか…。夜に集会所だからな!」
「はい、はい。」
「たく…」
トーマは足早に去っていった。ここは地方都市、【グレンウッド】の端にある小さな村だ。
皆、毎日農業に勤しんでおり戦争とは無縁な暮らしをしていた。
そんな中でも、今この瞬間に命を落として戦っている兵士が居る。
平和な世界はどこにも存在しないことをみんな知っているのに、知ろうとしない。これが、この国。共和国の全容だ。
俺は、この世界で英雄譚を繰り広げたい。
夕方家に帰る。水浴びをして帰ってきたので、剣の手入れだけして寝ようと思った。
家に到着すると人影が見える。
「遅いじゃないか。」
「アリセナ姉…。」
「集会には顔を出しなよ。」
「分かってるって。トーマにもそうやって伝えたでしょ。」
「もう、反抗期だね。」
「そうやっていつまでも子供みたいに扱わないでよ。俺だって、18歳なんだから。」
「そうだった。ごめん。人間は可愛いから」
アリセナ。同じ村に住むエルフだ。長寿の種族で、俺と見た目は変わらないのにとんでもない年齢らしい。
昔、年齢を聞いたことがあったが無言で殴られた。
家族のいない俺をいつも気にかけてくれる。母と父は戦争で死んだと教えられている。本当のところは分からない。この話をするとき、いつもみんな真剣な顔になるから。
「今から集会だから、着替えておいで」
「分かってるって。」
家に戻り、服を着替える。剣を置いて、靴を履く。
外に出て、アリセナ姉と一緒に集会に向かう。
「手をつなごうか?」
「なんで?」
「ほら、寂しいでしょ?」
「いや、別に、」
「照れてないで、ほら」
強引に手を引かれ、歩く。
「だから、もう子供じゃないってば!」
「私から見れば、子供だよ。」
「そりゃ、アリセナ姉から見たら長老ですらこd」
腹にパンチを貰って、うずくまる。
そんなに年齢に敏感なら、子供とか言わなきゃいいのに。
「女性にそういうこと言わないの」
「は、、、い」
「分かればいいのよ。あ~、私と結婚したいって言っていた頃のレンジが懐かしい。」
「なに、急に。」
「こうして、手を持つと成長したんだなって。」
「そりゃ、人間は成長が早いから。」
「そうだね。少し、寂しいよ。」
今更、なんでこんな話をするんだろう。
集会所は、人であふれかえっていた。狭い場所だから賑わうのは当然なのだけど。
「もう、手離してよ。」
「なんで?」
「なんでって…ここじゃ恥ずかしいし…」
「もう…可愛い。」
「そんなこと言ってないで…」
「分かったから、もう少しだけ。」
「はぁ…」
本当は少しうれしい。
周りはみんな家族で来ていた。そんな中、自分だけが一人であるという状況が俺は嫌いだった。
村の連中はみんないい奴だ。俺に家族がいないからと言って料理を作ってくれたり、家に泊めてくれたりする。
でも、本当の家族の暖かさを俺は知らない。だから、集会は嫌いなんだ。
ハブられている気がするから。
でも、アリセナ姉が居るから、少しその気持ちが薄れる気がする。
「今日皆に集まってもらったのは、軍からの招集の件についてじゃ。」
長老が話を始める。
「先の戦いで人員が欲しいそうじゃ。この村の対象者は4人。トーマ。レンジ。カリオス。ユウジ。この4人には村を代表して、軍に行ってもらう。以上じゃ。」
俺は軍へと行くらしい。明日に馬車が迎えに来るらしい。今晩の内に荷物をまとめておけと言われた。
握っているアリセナの手が強くなる。
強く握っているアリセナ姉と共に集会所を後にする。
「痛いよ…。アリセナ姉…。」
「あ、ごめん。」
手を離し、謝罪する。
「レンジ…頑張ってね。」
「うん。」
特別に何か言うわけではなく、すぐに別れた。
家に帰って準備をする。まとめるほどの荷物はないが、持っていきたいものは鞄に詰めて玄関に置いておく。
緊張で眠れないのか、すぐには寝付けない。
目を瞑って自分が駆け抜ける戦場を想像する。