おかえり
庭で履くサンダルはいつも縁側の踏み台の上に置いてあるのだが、私は庭から縁に上がるとき、次に使いやすいようサンダルの先を庭に向けて置いておく。
ところが最近。
そのサンダルの向きが、ときおり反対になっていることがある。
この家に住むのは私一人。ということは誰かがたびたび庭へ入り込んで、サンダルを履くか、はたまたいたずらをしているということになる。
そこでこのたび、私は侵入者の正体を暴いてやろうと、庭に防犯カメラを取り付けた。
すると奇妙なことにカメラには、サンダルだけが庭を這うよう勝手に移動しているのが映った。そして最後、縁側の踏み台に戻ったのである。
どうやら我が家には、人の目に見えない、さらにはカメラのレンズにも映らない何ものかがいるらしい。
ただ……。
その何ものかはサンダルを履くだけで、ほかに悪さをしたり、私に危害を加えるようなことはなかった。
また家の中の靴やスリッパの向きが変わったり、また勝手に移動したりすることはないので、それは普段は庭に棲みついていて、それがときおり家の中にも入ってくるのかもしれない。
あるとき。
サンダルが縁側の踏み台から消えた。
庭の隅々まで探したが見当たらず、サンダルの足跡が庭から玄関に向かっていたことから、どうやらそれは外に出ていったのだと思われた。
ただ、どこへ行ったかわからない。
もしかしたら帰り道がわからず、どこかでさまよっているのかもしれない。
それからも帰らない日が続いた。
飼猫が家を出たまま行方不明になってしまったようで、私はひどく心配になった。
一カ月ほど経ったある朝。
サンダルが縁側の踏み台の上に戻っていた。
それは帰ってきたのだ。
長いこと、帰り道を探して迷っていたのだろうか?
それともただ外を遊び歩いていただけなのだろうか?
このとき……。
何てきまぐれなやつなんだと思ったが、私はそれでも嬉しくて、庭に向かって声をかけていた。
「おかえり」