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7.ダンジョンの話


 目の前にはなんの変哲もない苔むしったダンジョン。

 その外観は、今まで見てきたAランクのダンジョンとは違い存在感も希薄であった。

 新規ダンジョンの探索に来ていたルティーナは、その物珍しさから思わずダンジョンの外装をじっと見つめていた。


「どうだい?」


 近くにはアルゼスとグレイセスもいて、なぜかSランクの冒険者三人で探索することになった。

 過剰戦力だ……と彼女は思いつつ、なぜこんなことになったのかと数時間前に思いを馳せた。



   ♢ ♢ ♢



 ――数時間前。


 おっさん達のそわそわを見てしまってから、若干混沌とした現場の収拾にあたってくれたのは副ギルド長だった。

 副ギルド長はギルド長の奥さんであり、過去、Sランクの冒険者まで昇り詰めた猛者でもある。

 現在は現場を離れ、ギルド長の右腕として事務的な仕事のサポートをしているが、鍛錬は欠かしてないそうだ。


 騎士団員達を、もう用がないならとっと外に出て待機してろと追い出し、ギルド長や騎士団長にはSランク冒険者に話があるなら応接室に行け、とオブラートに包んで言ってきた。棘付きで。

 言外にギルド業務の邪魔だと、全身で物語っていた。


 そこで一同は応接室に移動し、話をすることに。




「王太子殿下、申し開きもございません。大変お見苦しいものをお見せいたしました。いかような罰もお受けします」


 応接室に入ってすぐに膝をつき、胸に手を当て、頭を下げ、騎士の最上礼をしてグレイセスに跪いているのは騎士団長。

 その顔は非常に青かった。


「よい、面を上げよ。ここでは一人の冒険者だ」


 そうグレイセスは言うが、騎士団長は頭を上げる気配はなく。先ほどの愚かな行いをしていた騎士団員達を止めることができなかった自責の念もあるのだろう。


「私では騎士団員達の素行を止めることができず、レイズバーン公爵令息様にもご迷惑をおかけしてしまって、自身の不甲斐なさに情けなくなります」

「今回は、その素行の調査も兼ねているんだ。騎士団長が気にする必要はない。もともと、そう言っていただろう?」

「ですが……」


 いつもは厳しく言及しているのだろう。だが、反省もなく、ギルドを貶め、挙げ句の果てに上位の貴族だと分かっている者に食ってかかる。

 騎士団長でなくても頭を抱えたくなる問題だ。


「騎士団長、気にする必要はない。俺は動きかねない冒険者達を止めただけだ。……グレイは高見の見物をしていたようだが?」

「悪かったよ」


 軽口を叩き合う二人に、騎士団長はようやく顔をほころばせた。そしてすぐに表情を厳しく改めた。


「彼らをどうなさいますか?」


 騎士団長はこのまま話を続けるつもりなのか、膝をついたまま動かない。


「ひとまず座ろう。ダンジョン内での彼らのことを詳しく聞きたい」


 腰を据えて話を聞く気満々なグレイセスに、これはもう国の話では? と思ったルティーナは、邪魔になりそうだし応接室を出たほうがいいだろうと考えた。


「私、外で待っていましょうか?」


 と、ルティーナはグレイセスに尋ねた。ここで一番のトップは彼だからだ。


「いや、いてくれて構わない。氷華も座ってくれ。ダンジョンの話も聞くのだから君が席を外したら二度手間だ」

「分かりました」


 そしておのおのが応接室に備え付けのソファーに腰を下ろした。

 位の高い方も招く応接室は、調度品も華美ではないが質の良い物を揃えており、上品な室内を醸し出していた。

 ソファーは高級感と重厚感が漂う黒の本革。艶があり、座り心地もいい。


 上座にグレイセスが座り、彼から右向かいにギルド長。ローテープルを挟み、左側のソファーにはアルゼスとルティーナ。騎士団長は、ここが自分の定位置だと言わんばかりにグレイセスの右斜め後ろだ。

 グレイセスが座るよう指示したが、頑として譲らず、結局は立ったままだ。


「ふう……」


 自身を知る者達しかいないからだろうか、グレイセスは話し合いするのに兜は邪魔だと言わんばかりに外した。

 兜の中からは、王族の象徴であるさらさらなプラチナブロンドの髪と意志の強うそうなロイヤルブルーの瞳。それぞれのパーツが完璧に配置された気品漂う顔立ちは、アルゼスとはまた違うタイプの美形だ。


「では、ダンジョンの話から聞こうか?」


 その声は、兜でくぐもって聞こえていたときと違い、透き通るように凜としていて、王者としての風格も兼ね備えていた。


「では、まずは俺から……」


 と、ギルド長からダンジョンの話が始まった。


 曰く、いつものダンジョンと違うということだ。

 スタンピードに現れた魔物はAランクの魔物ばかりだったが、いざダンジョン内部に入れば現れるのはBランク、もしくはCランクぐらいの魔物ばかり。

 階層も少なく、これは本当にAランクのダンジョンなのか? と思ったそうだ。

 外観もAランクのダンジョンと比べ、威圧的なものは感じず変に感じたとのこと。

 今回のダンジョンは、上級のAランクのダンジョンかと思いきや、中級のダンジョンように感じたと。


「ふむ……、どう思う氷華?」


 私かい――いきなり話を振られ、ルティーナは思わず心の中でツッコんだ。

 急いで頭の中で話す内容をまとめていく。


「んー……、まだダンジョンの中を見ていないので、なんとも言えません。スタンピードで出てきた魔物は討伐できたのですが、ダンジョンの近くまでいってないんで詳しく見てないんですよ」

「そうなのかい?」

「はい。魔物を倒したら次の魔物がすぐ出てきたんです。気付いたら夜でした」


 ルティーナはそのときのことを思い出し、ちょっと遠い目をした。

 際限なく出てくる魔物に、このスタンピードは異常ではないかと。

 まさか夜までかかるとは思わず、魔物は討伐できたが、それ以上の調査は後日にするべきだろうと判断し、アルゼスと共に王都にある冒険者ギルド本部に戻ったのだ。


「アルゼスは?」

「俺も同じ意見だな。魔物を倒しただけでダンジョンの近くには寄ってない。魔物は他所に行かないよう氷華が足止めをしてくれて助かったが、スタンピードで倒した魔物は間違いなくAランクだった」


 アルゼスの言葉にルティーナも頷いた。

 これ以上の聞き取りは、実際に見たほうが早いと判断したのだろう。グレイセスは、ダンジョンの話をここで打ち切った。


「では次に、騎士団員達の実力を聞いていこうか」


 実にいい笑顔で言い切った彼に、彼らの未来は暗いだろう――と、口に出さずとも応接室にいるメンバーの気持ちが一緒になった瞬間だった。


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