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6.白鎧の騎士


 たしか……王国騎士団の第二部隊の隊長だったなと、思い出しつつ、少し離れて二人の男の様子を見守った。


 元婚約者と同じ金髪に青い瞳の色合いだが、体つきはこちらのほうが鍛えられているようだ。騎士だからだろう。


 ギルド内では私闘を禁止されている。

 なぜなら、ギルド内には非戦闘員も多く、攻撃魔法や戦闘などの行為は緊急事態などのやむを得ない事態に限り使用は禁止だ。

 下手をすれば、冒険者はギルドカードの永久停止に、騎士は懲戒免職だ。


「……騎士団に行く気はない。そもそも、俺より弱い奴の下につく理由がどこにある?」

「っ!」

「俺を下につかせたかったら、まず俺に勝ってからにするんだな。――もっとも、グリドート。貴様の実力では互角にもならないが」

「~~~っ!!!」


 アルゼスに、けんもほろろに断られているところを見ると、反論どころか図星のようだ。

 Sランクの冒険者にケンカを挑むなんて、おバカさんなのだろうか?

 信じられないようなモノを見る目を思わず彼らに向ける。


「彼が学園の上級生だった頃、まだ下級生だった黒銀にボコボコにされたんだよ。それこそ、ぐうの音も出ないほどにね」


 耳の中に入り込んできた突然の解説にルティーナは驚き、声がした方を振り返った。


白鎧(はくがい)さん……」

「やあ、こんにちは」


 白鎧と呼ばれた人物は、軽く手を挙げ挨拶をする。

 そこにいたのは青白い紋様が全身に描かれた、純白のフルアーマーを着た人物だった。

 完全に中の人物像は確認できず、左肩には赤い片翼のマントが揺れている。

 声も、頭部全体を覆う兜のせいでくぐもって聞こえた。


「こんにちは、お久しぶりです」

「うん、久しぶりだね氷華」


 ルティーナとにこやかに挨拶をする白鎧は知り合いであり、同時に彼女と同じくSランクの冒険者でもある。

 名を【白鎧の騎士】。冒険者ギルドに滅多に現れない珍しい冒険者だ。


 ちなみに、冒険者の【騎士】の称号と、騎士団の【騎士】では雲泥の差がある。


「いつから居たんですか?」

「うーん、彼らがいた頃にはいたかな?」


 と、いうことは、この諍いにもならない出来事が起こる前からいたというのかこのお方は……と、思わずルティーナはなんとも言えない顔をしてしまう。


「あ、そうそう」


 ふいに白鎧は身をかがめて、ルティーナだけに聞こえるように声を潜めて言った。


「婚約解消おめでとう」


 兜をしていても分かるほど楽しそうな声音で言われ、ルティーナはこんなところで……と思いつつも「ありがとうございます」と、同じく声を潜めて返した。


「驚いたよ。君の家から刻印誓約書が届いた時は。内容を確認した父上は大爆笑をしていたけどね」

「大爆笑……」

「ああ。今度もし同じような件が起これば、これを一例にして提示しようとまで言っていたよ」

「陛下……」


 心底楽しそうに言う白鎧―――改め、ガレシア王国王太子グレイセス・フォン・ガレシア。

 なぜ、王太子殿下が騎士団の所属ではないのか?

 理由はアルゼスと同じ理由でもあり、王家に生まれた者ならば一度は冒険者をやる決まりがあるからだそうだ。

 ゆえに、正体を隠すために冒険者をするときは全身を覆い尽くすフルアーマーを常備している。


「……それより、あれは止めなくていいんですか?」


 未だに睨み合っている……否、一方的にアルゼスに睨んでいる騎士団員達にルティーナは指を差し、隣の人物に聞いた。


「ああ、あれね。今回は彼らの素行について調査も兼ねているんだ。最近は態度が目に余るからね」


 そう言ったグレイセスからは一瞬、王者の威圧みたいなものが溢れ出してルティーナはおののいた。

 わー、せっかく周囲からバレないようにヒソヒソと話していたのに――と、目立つの嫌だなと思ったルティーナは、グレイセスにその威圧を収めてほしくて名前を呼んだ。


「白鎧さん、白鎧さん。抑えて、抑えて」

「ああ、すまない」


 すぐに抑えたグレイセスだが、ちょっと遅かった。

 今の威圧で関心がすべて、こちらに向いてしまった。


「あらら」

「やってしまったな」

「……まあ、静かになってなによりですけど」


 見れば騎士団員達は先ほどの威圧に萎縮してしまったのか、すっかり大人しくなってしまっていた。


「この程度で萎縮するようではね……」


 言外に「使えない」と言っているように聞こえ、そんな黒い副音声にルティーナは聞こえないフリをした。それよりも……


「白鎧さん、白鎧さん」


 ちょっと目に入ったモノに意識を奪われていた。


「何かな?」

「あちらに、おじさん二人がそわそわしているのが見えます」


 彼女が目を向けた先には、ギルド長と騎士団長がいた。

 先程の威圧でグレイセスの存在に気付いたようで、しきりにルティーナとグレイセスに……正確には、グレイセスのみにチラチラと視線を送っていた。


 おそらく、王太子である彼に挨拶などがしたいのだろうと察せられるが、ここが冒険者ギルドのど真ん中と理解して、不用意に近付くことは得策ではないと判断したのだろう。


 結果、仕草的におっさんのさわそわが出来上がってしまった。


 壮年のおっさん達のそわそわは、なかなかに衝撃的だ。騎士団長に(かぎ)っては指をもじもじさせている。


「そわそわ……」

「ついでに(騎士団長が指を)もじもじもしてますね」

「うわあ……、やめてくれ。おっさん二人のそわそわも、もじもじも見たくないな」


 心底嫌だと言わんばかりだが、口に出している時点で想像してしまったんだろう。

 時すでに遅し。


「手遅れですね」

「うう……」


 そわそわも、もじもじも、かわいい子の特権だ。

 おっさん二人がやってもイタイだけだ。

 ああゆうのって目に付きやすいんだな……と、思ったルティーナだった。


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