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5.冒険者VS騎士団(一瞬で崩壊)


 人間、驚きすぎると思考が停止してしまうものだとルティーナは初めて知った。

 次いでやってくるのは、なんで、どうして、嘘でしょうと脈略のない言葉ばかりで、軽く言えば大いに混乱していた。


「行かないのか?」


 そんな彼女に多大な混乱をもたらした男は、いつの間にやらルティーナを追い越し訓練場の出入り口で待っていた。


「い、行きます」


 自分でも分かるほどに動揺したルティーナの返事は、アルゼスにどう届いたのだろう。

 表情一つ変えない男に、なんともずるい気持ちになりながら彼を追いかけた。


(元婚約者とは格が違うなあ……)


 元婚約者が酷いのか、アルゼスのような男が貴族令息としての標準なのか……悶々としながら悩んでいれば、ふと彼女の視界に影が落ちた。

 視線を上げれば彫刻のような端正な顔に見下ろされており、ルティーナの心臓が音を立てる。嫌な方向で。


「なにを考えている?」


 うっすら笑う男は艶があり、世の女性が見たら間違いなく色めいた声を上げるか、うっとりするかだ。


「ナンデモゴザイマセン」


 その薄ら笑いに怯み、ついカタコトで答えてしまった。いかにもな返答をしてしまったルティーナは、内心冷や汗を流しつつアルゼスの反応を待った。

 それにしても、さっきから距離が近くないか? と、ルティーナは思った。


「まあいい」


 そう言い、あっさり離れていく男にルティーナはほっと息を吐いた。

 後ろを振り向くことなく歩いて行くアルゼスの後ろ姿を、ルティーナは少し距離を空けてついていく。


(今日も一緒に行くのだろうか?)


 アルゼスとルティーナは決してパーティを組んでいるわけでもなければ、一緒に行く約束をしているわけでもない。

 でも、いつの間にやら一緒に行動していることが多くなった。

 いつからは明確には覚えてはいないが。


(でも、一緒に探索するの嫌ではないのよねぇ……)


 同じSランクでも、アルゼスのほうが実力も身分も上だ。

 ルティーナとて決して弱いというわけでも、身分が低すぎるわけでもないのだが、やはり比べてしまう。それが緊張に一役を買ってしまっている。


 それでも最初の頃と比べると、落ち着いて話せるようになったのだ。それこそ、元婚約者のジュリオルよりも。

 そんなことを考えながら、ギルドの受付があるエントランスホールへと向かう。

 エントランスホールに繋がる通路の終わりでアルゼスが足を止めるのが目に入った。


「黒銀さん、どうしたんですか?」


  近寄り何があったのかと彼の横顔を見上げれば、その目は険しさを含み一点を見つめていた。


「騎士団だ」

「あー……」


 もっとも会いたくない者達だ。冒険者にとっても、アルゼスやルティーナにとっても。

 冒険者ギルドにとって騎士団との協力関係は、ダンジョンを攻略するうえで、とても大切なことなのだが仲がよろしいとは限らない。

 それに、今の騎士団は高慢でプライドの高い者が多く、冒険者を下に見ている傾向があり、そのことに一部の者が危機感を抱いている。


(とっとと城に帰ればいいものを……)


 わざわざ冒険者ギルドまで来るのは冷やかしか、自慢か……どちらにせよ冒険者達の神経を逆撫でしていることは間違いない。

 再び歩き出したアルゼスの後ろを、ルティーナはそっと追った。

 近付けば、より騎士団の団員達の声が聞こえてきた。

 彼らは、まるで周りに聞かせるように大きな声で話しており、聞きたくなくても聞こえてしまう現状に周囲はピリピリしていた。


「さすがはAランクのダンジョンだな。良い素材に財宝が手に入ったぜ」

「残念ながら次に入る冒険者が手に入れるのは、我らの残りカス」

「先にダンジョンに入れるとは、騎士団の特権だな」

「ここで言ったら、冒険者が可哀想だろ」

「しかしAランクのダンジョンのわりには、ろくな魔物は出なかったな」

「そうだな」


 はははは……と笑う騎士団員達に、嫌な気持ちになる。


(守秘義務っていうのを知らんのか)


 冒険者ギルドのエントランスホールで新規ダンジョンの不確定な情報を流すなんて、しかも騎士団が。

 マナー違反を通り越して愚か、この一言に尽きる。


 実際、ダンジョンで手に入る素材や財宝、そして宝具はランダムだ。良いも悪いもない。

 そして、ランクの高いダンジョンというのは総じて質のいい財宝や宝具が出る。

 その分、ダンジョンに出現する魔物のランクも難易度も自然と上がるが。


 ダンジョンには冒険者のランクと同じく等級が付けられていて、最上級難易度のSランクを筆頭に、上級のAランク、低級はEランクだ。

 冒険者ランクもそれに伴い、SランクからEランクの六段階まであり、そのランクに合わせて探索できるダンジョンが決まってくる。

 上級のダンジョンともなれば探索できる冒険者は限られてくるが、騎士団はそうでもない。

 騎士団は個人の実力よりも、人数の多さと戦略によって上級のダンジョンでも探索できるのだ。


 新規の上級ダンジョンに探索するということは、質のいい素材や財宝を手に入れることができるが、同時に未知の領域への探索となるので、常に危険に晒されることになるのだが……彼らは理解はしているのだろうか?


 騎士団員もいるのだから、騎士団長もいるだろうとルティーナは視線を巡らせた。どうやらギルド長と話し込んでいるらしく、この現状に気付いていないようだ。


「こんなところで油を売っていていいのか? 城にダンジョンの帰還報告を伝えなくて」


 今にも飛びかからんばかりの冒険者達を見て、騒ぎを起こすのは時期尚早と判断したのかアルゼスが前に出る。すると、そこに一人の騎士が前に出てきた。

 その騎士の顔を見てルティーナは心の内でげっ、とこぼした。


「おやおや~、誰かと思えば、レイズバーンのご子息様ではないですか? このような古びたような場所でどうしたのです?」


 古びた場所というが、冒険者ギルドは王城の次に歴史ある建造物でもある。

 頑丈さと重厚さを兼ね備えた、当時の頃の状況も踏まえた一種の要塞のような造りをしている。


「ああ! そういえば冒険者をしていらっしゃいましたね。あなたのような高貴な方が、下賤な者と一緒とは……フフ、どうです? 騎士団に……いや、私の部隊に来られてはいかがですかな?」

「グリドート……」


 その騎士の演劇めいた馬鹿にしたような物言いと態度に、アルゼスから静かに漏れ出した魔力に彼の怒りを察知し、ルティーナは静かに安全圏まで下がった。

 彼女と同じように距離を取る人もちらほら見え、巻き込まれたくなさを物語っていた。

 偶然にも冒険者VS騎士団の構図が崩壊した瞬間だった。


(あの恐ろしいほどの魔力が分からないとは……)


 アルゼスの魔力はルティーナより上だ。それが分からないということは、魔力が低いか、危機を察知する能力がないと言っているようなもの。

 アルゼスの前に出てきた男に対し、ルティーナは思わず不憫なものを見る目を向けてしまった。


 ミルドレイ・グリドート。

 グリドート侯爵家の次男。

 元婚約者、ジュリオルの兄だ。


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