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13.未知のダンジョン ~Sランクの魔物~


 ♢ ♢ ♢



 そこから先は、多種多様なAランクの魔物が次から次へと陣の中から湧いて出てきた。

 新種のような魔物もいれば、よく知っているAランクの魔物もいる。

 一度に大量の魔物も出てくることもあったが、こちらはSランクの冒険者。さして手強いというほどではない。


 特に男二人は無双状態だ。

 二人は幼なじみのような関係なので、戦闘の息を合わせるのもピッタリだ。ルティーナはそんな二人のサポートに徹した。

 彼女には、あの二人の戦闘に入っていく勇気はない。

 そもそもルティーナは魔法メイン。接近戦は得意ではないのだから。


 そして現在、九回目に出現した魔物を討伐し終わったところだ。


「もうそろそろ、休憩したいものだね」

「そうだな」


 落ちた素材を回収しつつ、そう男二人はぼやく。

 さすがに間を置くことなく連戦は疲れるものだが、言葉では休憩したいとこぼしてはいるが、彼らの様子はまだまだ余裕がありそうだ。


 ルティーナが陣に顔を向ければ、陣はひときわ強く輝き、魔物が現れた。

 現れた魔物は、今まで見たことがない姿と威圧を放っていた。

 ミノタウロスのような上半身に、スレイプニルのような下半身。全長は三メートル以上で、尾は長くまるでトカゲのようだ。両腕は鱗に覆われ、さらに両手に槍を構えていた。

 多種多様な魔物を繋ぎ合せたかのような姿に、ルティーナはまるで合成獣(キメラ)のようだなと感想を抱いた。


「へぇ、見たことがない魔物だ」

「新種か? ……来るぞ」


 見たことがない魔物というのは、アルゼスとグレイセスもルティーナと同じ感想のようだ。


 魔物は手に持っている槍を大きく振りかぶり、力任せに振り落とした。

 アルゼスはそれを腰を落とし、身体強化をして受け止める。

 その隙にグレイセスは魔物の死角から攻撃しようと、背中側に回り込もうとした瞬間、魔物の肩甲骨辺りが盛り上がり、もう二本の腕が出てきてグレイセスを殴りつける。

 グレイセスは咄嗟に簡易結界を張り受け身をとったが、それでも数メートル殴り飛ばされた。


「これはこれは……」


 その異様な姿に、三人とも驚いた。

 四本の腕を持つ、今まで見たことがない異様な姿をした魔物。この魔物は確実にAランクの魔物ではないと、そう思わせるのに十分な力を持っていたからだ。

 槍を受け止めていたアルゼスに向かい、もう一本の槍も魔物は振り落とした。


「チッ」


 受け止めるのは得策ではないと判断したのか、剣を反らして受け止めていた槍の軌道をずらして、彼はその場から飛び退いた。

 振り落とされた槍は、受け止めていた槍と共に床に振り落とされ衝撃で床が(えぐ)れる。


「思ったより力がある。まるで身体強化を使ってるみたいだ」

「身体強化を使う魔物か……。そんな魔物、今まで見たことがないね」

「火を吐くとかブレス系の力は持っていなさそうだが……」

「腕が四本あるだけで、すでに異常なんだけどね」


 悠然と構える魔物に、おそらくは知能も高いのだろうと彼らは予想をつける。


「……Sランクかな?」

「おそらくな」


 魔物は槍を大きく振りかぶり、今度は投擲のように投げた。投げた槍はアルゼスに向かうが、彼は再び跳躍してかわす。

 そしてもう一本は持ったまま高く跳躍し、上からグレイセスに矛先を向けて突き刺そうとし――氷の槍に突き飛ばされた。


「氷槍」


 氷の槍はルティーナの魔法だ。

 魔法はイメージが大切だ。特に形が取れるものは千差万別に形を変える。

 彼女が魔法で出したのは氷の槍。それも特大の。

 氷槍によって魔物は数メートル飛ばされたが、膝をつくことなく耐えきった。


「わーお、頑丈だ」


 槍を突き刺したのだが、それほどダメージが入ったとは思えない。耐物理にも耐魔法にも強いようで、一筋縄ではいかないようだ。

 標的を男二人からルティーナに変更し、魔物は槍を低く構え彼女に向かって走った。

 強化魔法でも使っているかのようで、恐ろしく速い。


 ルティーナは咄嗟に結界を張った。

 その間に別の魔法も準備する。ちょっと痛いが、これが一番かもしれないと判断しているそばから槍は結界に当たり、魔物の肩甲骨辺りから生えた手に結界を掴まれる。

 結界にはヒビも入り、今にも砕けそうだ。


「氷華!」

「待って! 大丈夫! 捕らえるからトドメをお願いします!」


 こちらに向かって走ってくる彼らにルティーナは声を張り上げる。

 自身を身体強化した施した後、結界をギリギリまで縮小し、あえて解いた。


「わっ!?」


 掴まれると理解していても、普通に驚く。

 思ったより強い魔物の握力に、身体強化を施していても骨が軋む。


「っ……! はっ」


 呼気がうまく吐き出せず浅くなる。だけど、捕らえた(・・・・)

 手のひらを魔物の腕に這わせ、ルティーナは不敵に笑う。


「捕まえた」


 彼女がそう言った瞬間、魔物に這わせた手のひらから無数の(つる)が出現した。蔓は絡み合いながら魔物に巻きついていく。

 この蔓は、ルティーナが自身の魔力を与えて、種から育てた特別製だ。魔力を与え続ける限り蔓を伸ばし、鋼のような強靱さを(あわ)せ持つ。

 ただ、すぐさま成長させるには条件があり、ルティーナの血を与えることだ。

 魔力は血にもっとも含まれているので、戦闘で使用する際、ルティーナは水ではなく己の血を使う。そうすれば、蔓は急激な成長を遂げ、強靱な武器になるのだ。


 蔓は魔物に縦横無尽に絡みつき、その体を締め上げる。蔓を引きちぎろうと魔物は足掻くが、通常の蔓より一回りほど太い蔓は魔物に隙間なく絡みついている。

 蔓は魔物の喉を締め上げる動きをしはじめて、それに(あらが)おうとついにルティーナを掴んでいた手を放した。

 ルティーナは無事に床に降り立ったのだが、その体はふらついていた。


「いたっ」


 体が痛い。自業自得だが、痛みが今になってやってきたようだ。

 魔物に掴まれた箇所が、ギシギシしズキズキと痛んだが、座り込んでしまわないように膝に手を置いてふらつく体を支えた。


「氷華!」

「わっ!?」


 ふう……とひと息つくまでもなく、ルティーナは駆け寄ってきたアルゼスに抱きしめられ、ぎゃーと乙女にあるまじき声を心の中で叫び、硬直した。


「大丈夫かい?」


 同じく駆け寄ってきたグレイセスが安否を確認してくるが、さすがにこの状態では……と、ルティーナはアルゼスの腕の中から抜け出そうとモゾモゾしたが、なぜか余計に強まり、仕方なく顔だけをグレイセスに向けた。


「はい、大丈夫です」

「そう、よかった」

「良くないだろ」


 低い声が頭上から響き、ルティーナは思わず体を硬直させた。

 そろそろと視線を上げれば、険しい顔をしたアルゼスに見下ろされており、ルティーナが咄嗟に出た言葉は謝罪だった。


「ご、ごめんなさい?」


 なぜか疑問系になってしまったが、アルゼスの眉間からシワが取れることはなかった。


「これで大丈夫だとは言えないだろ」


 アルゼスはルティーナの手を取り仰向けにする。

 手のひらは赤く染まっていて、未だに蔓が伸び続けており、血を吸い上げているのが分かる。


「大丈夫、ですよ。ちゃんと治しますから。それよりトドメをお願いします」


 ズドンと、重たい音が振動と共に響く。

 膝をつかなかった魔物が、蔓にがんじがらめになって、ついに膝をついたのだ。

 三人は魔物の方へ顔を向ける。


「ああ、ようやく膝をついたね」


 蔓が喉元を締め上げ、魔物は浅い呼吸を繰り返していた。


「ふん」


 ルティーナを抱きしめたまま、アルゼスは片手で剣を振るった。

 その剣は黒く染まっていて、闇属性を纏わせているのが窺えた。

 黒い剣筋が伸び、しなやかに動いて魔物の首を躊躇なく刎ねた。


「容赦ないね」


 アルゼスの容赦がない一撃に、グレイセスは呆れたように言った。

 まあ、理由は分かるけど――そう思いながらグレイセスは、いまだにアルゼスの腕に抱かれているルティーナを盗み見る。

 あの魔物は、彼の逆鱗に触れたのだ。

 グレイセスは、ご愁傷様と、落ちていく魔物の首に心の中で呟いた。


 こうして、Sランクらしき魔物の討伐は終わったのだった。


お読みいただき、ありがとうございます

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