12.未知のダンジョン ~戦闘開始~
縦長の穴の先は暗かったが、最後にグレイセスが穴を潜った瞬間、一斉に天井から明かりが灯った。
穴の先は広い空間だった。
石造りなのは変わらないが、天井は高く、幅も八階層の倍の広さがあり、まるで巨大なホールのようだ。
広々とした空間だがなにもなく、魔物もいない。なんだか嫌な予感がしたルティーナは、急いでグレイセスが最後に出てきた穴を見た。
その穴は完全に閉じる瞬間だった。
「あっ!」
ルティーナの声にアルゼスとグレイセスは素早く反応し、彼女と同じ方向を見る。
「穴が閉じたか……」
「これは後戻りができないないね」
ダンジョンというものは、構造上必ず外へ脱出するための転移陣があるので問題はないが、未知のダンジョンではいざというときの逃走経路はとても重要だ。
このような広々とした空間では隠れるための岩陰もないため、入ってきた場所というのは逃げるときや隠れることもできる、とても重要な役割を持っている。
それが塞がれたのだ。
まるで逃がさないとばかりに。
やはりこのダンジョンには意思があるのでは? という思いがルティーナの胸に渦巻いた。
「さて、現状に逃げ道はなく、見える範囲に転移陣もない。そして魔物の気配もない。罠の危険性は?」
「罠の類いはないようです」
「よし、とりあえずここにいても仕方がない。警戒しながら壁際から探索といこう」
「さすがに別々の行動は得策ではないだろう。共に行動したほうがいい」
「そうだね」
三人でそう決めると、階段を下りたときと同じように並び、まずは壁際をぐるりと回った。
壁になにかしらの違和感はなく……むしろ、今まで探索してきたダンジョンの中でも、もっとも頑丈な気がすると感想を抱きつつも、入ってきた穴があった場所まで回ってきた。
「元の場所まで戻ってしまったが、なにもないね」
「そうだな」
これが率直な感想である。
まだ中央部の探索を終えていないが、仕掛け一つ、魔物一匹出ないというのは違和感しかない。
「氷華はどうだ?」
「……壁がとても頑丈です」
「そうか……」
それ以外なかった。ルティーナの感想に二人は苦笑する。
「あとは中央部だね。さすがに、なにも起こらないというがないことを願うよ」
三人が中央に足を進めると、明らかにその場の空気が変わった。
まるで、初めからここで事を起こそうと待ち構えていたみたいに、なにかの陣が発動した。
「なんだ?」
「……よくないことは確かなようだよ」
アルゼスとグレイセスは剣を構えて戦闘準備に入る。ルティーナも探索魔法で周囲を警戒しつつ魔法の発動の準備をする。
発動した陣から召喚されたのは魔物だった。
魔物はAランクのサラマンダーによく似た爬虫類型の魔物だ。ただ、その頭部にはねじれた角が四本生え、表皮は黒ずんでいてまるで亜種、もしくは別種の魔物に見えた。
「まさか、ここにきて新種の魔物?」
「サラマンダーではないようだが……」
「亜種でしょうか? それとも別の……」
「来るぞ」
先に動いたのは魔物だった。どうやら話し合いをさせてくれないらしい。
魔物は跳びあがり三人のど真ん中に落ちてきたが、全員、身体強化をして回避した。
アルゼスとグレイセスが剣で斬りつけようとすれば、予想外に素早い動きで避ける。
「思ったより速いね」
ルティーナとしてはあの素早さより、四本のねじれた角が気になるところだ。
通常のサラマンダーにはないので、もしかするとなにかしらの力を持っている可能性もある。
「まずは足止め……」
ルティーナは魔物に気付かれないよう、そっと床に手のひらを置いて自身の属性魔法を魔物へと這わせる。
「氷結」
床はみるみる凍り、魔物の足へと絡みつく。
それを見逃さなかったアルゼスは、魔物まで一気に詰め寄り、自身の属性を纏わせた雷の剣で魔物にトドメを刺そうとした……が、魔物の四本の角から突如、稲妻が迸り彼の雷を相殺してしまった。
アルゼスは相殺されたことに少なからず驚いたが、焦ることなく魔物から距離をとる。
「へぇ、アルゼスと同じ属性か……」
「火ではないだけだな。サラマンダーの亜種か別種と考えた方がよさそうだ」
「そのようだ、ね!」
再び攻撃を仕掛けてきた魔物に、二人はその攻撃をかわす。今度は全身に雷を纏っての攻撃だ。容易には近付けさせないための牽制だろう。
「接近戦は厳しそうかな?」
「冗談を言うな。もういいだろ」
「そうだね、頼むよ」
相手はAランクの魔物だというのに、彼らは軽く会話をする。それはそうだろう、ルティーナを含め彼らはSランクの冒険者。
戦闘方法は決して一つではない。
「悪いな」
そうアルゼスが言った瞬間、魔物の影が揺れ、魔物の喉を掻っ斬った。
なにが起きたのか、魔物にとっても一瞬の出来事だったであろう。断末魔を上げることもできずに首が落ちていく、残ったのは魔物の四本の角と黒い表皮のみ。
アルゼスの適正属性は主属性は闇、反属性が雷。
ここまでの戦闘、彼は魔法を使用する際、反属性のみをメインとして戦ってきた。
なぜなら、彼の闇属性魔法は強すぎるから。
一瞬で終わった戦闘に、ルティーナはほっと息を吐きつつ魔物が出てきた陣に顔を向けた。陣が淡く光っているのが見え、連戦だー……と彼女は頭の片隅でぼやいた。
急いで戦闘が終了したと思っているアルゼスとグレイセスに声を飛ばす。
「黒銀さん、白鎧さん、連戦です!」
ルティーナの言葉に二人は素早く剣を構え、淡く光る陣を見る。
「へぇ、あれで終わりじゃないんだ」
「動き足りなかったから、ちょうどいい」
そう言う彼らは、とても好戦的で楽しそうで、これぞダンジョンの醍醐味と言わんばかりだ。
ルティーナは、思わず陣から出てくる次の敵と思わしき魔物に合掌した。
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