11.未知のダンジョン ~階段の仕掛け~
消えた壁の向こうは細い通路になっており、かろうじて人が一人が通れるぐらいの幅だった。
一行はアルゼスを先頭に細長い通路を進んでいく。
「魔物の反応はありません」
ルティーナは探索魔法を駆使しつつ、常に危険がないかを確認しながら進んだ。
「こんな狭い場所では、ろくな戦闘はできないよ」
「戦闘になったら魔法のみだな」
「近くに傾斜が確認できました。……おそらく階段です」
探索魔法で通路の先を確認しながら進んでみれば、通路と同じ幅の下り階段だ。
少々険しく螺旋状になっていることから、ますます先が見えない。
「魔物の影は見当たりません」
「よし、下りるぞ」
アルゼスを先頭に階段を下りていくが、この狭い通路で順番の入れ替えなどできるはずもなく、通路に入った順番から先頭をアルゼス、真ん中をルティーナ、殿はグレイセスで下りていった。
螺旋状の階段を下りていくと、ふと八階層の壁を見つけたときと同じ違和感を感じたルティーナは立ち止まった。
「どうしたんだい?」
立ち止まったルティーナに、殿を務めていたグレイセスも同時に立ち止まる。
二人が立ち止まれば、当然、先頭のアルゼスも立ち止まった。
階段もまだ半ば、下へたどり着くのはまだ先だが、ルティーナはこの違和感を無視できなかった。
「なにがあった?」
「すみません……。ここ、さっきの壁と同じ感じがして……」
「さっきと同じというと、魔力の通ってない壁のことだね」
「はい」
「よく気付いたな」
八階層の壁とは違い、そんなに大きい幅ではないが確かにその場所は魔力が通ってなかった。
ルティーナはその壁に手を置き、魔力を細く流す。
魔力は壁の隙間を縫うように伝っていき、途中、上下に分かれた。一つはグレイセスの方へ流れていき、もう一つはアルゼスの方へと流れた。
「あの、魔力の流れが二手に分かれたようでして……。一つは、白鎧さんのいる方……壁の上の方に流れていきまして。もう一つは黒銀さんの方でして……下へ魔力が流れていきました。八階層と同じ仕掛けなら、小さな宝石があると思います」
「なるほど。それは私達が探したほうがよさそうだね」
「そうだな」
ルティーナの言葉に疑うことなく二人はあっちこっち触れるが宝石は小さく、彼らの指に宝石が触れる感触はしなかった。
ルティーナも近くに行って確認したいが、階段の通れる幅は人が一人通れる程度。とてもではないが移動はできない。
本当は王太子殿下と公爵令息にこのようなことを頼むのは気が引けるが、このままでは時間だけが過ぎていくことを危惧したルティーナは、二人に魔力が流れていった先を告げる。
「白鎧さん、その左手をもう少し上です」
「…………」
グレイセスはゆっくりと左手を動かしながら、指先で感触を確かめる様子をルティーナはじっと見守った。
グレイセスの指が魔力が流れていった宝石に触れた瞬間、ルティーナはすぐさま声を出す。
「そこです。今、中指が触れている場所です」
「! これかっ!」
「はい。では、そのままでお願いします」
「え?」
嘘でしょ? とグレイセスの副音声が聞こえたが、我慢していただくしかない。ルティーナは思わず苦笑いをする。
「おそらく同時に流さなければ開かない仕掛けかと……。黒銀さん、見つかりました?」
「いや、まだだ」
ずいぶんと下の位置に宝石あるのか、ルティーナの位置からは見えない。
ルティーナはもう一度魔力を流し位置を確かめる。
「黒銀さん、もう少し下のようです」
「もう少し下……」
アルゼスの右手が動いているのは見えるが、これがなかなか見つからない。
「まだかい?」
体勢がキツいのか、グレイセスの言葉には険が感じられた。
「……氷華、悪いが俺にもたれかかっていいから同じ視線で見てくれ」
宝石が見つけることができず、いい加減焦れたのかアルゼスが最終手段に出たきた。
「えっ、でも……」
ルティーナは戸惑った。婚約者や恋人でもないのに、ピッタリとくっついて大丈夫なのだろうか? と淑女としての良識が働く。
加えて、彼は女嫌いだ。
本人が良いと言っているが、それでも躊躇う。
思わずルティーナはグレイセスのほうを仰ぎ見た。
フルフェイスで表情は見えなかったが、言外に早くやれと圧をかけられている感じがして、彼女は覚悟してアルゼスの肩に手を置いて顔を近付ける。
できるだけ体をくっつけないように、慎重に彼の手元を覗き込んだ。
「すみません。肩、借ります」
「ああ」
予想外の近さに緊張もひとしお、だがここはダンジョン。そんな場合ではないと活を入れて宝石を探す。
幸い、まだ魔力を流した痕跡は残っており、青白い線がぼんやり残っていたので見つけるのは容易かった。
「黒銀さん、もっと下です。階段の一つ下の段の内側の角にあります」
「段の内側……ここか? ああ、あったこれか……っ!」
「わ、っあ、ご、ごめんなさい!」
アルゼスが宝石を発見した時、大きく体が傾いだ。
肩に手を置いていたルティーナはもたれかからないように気をつけていたのだが、彼が体を傾けた瞬間、肩に手を置いていた彼女の体もそれに釣られて大きく傾いたのだ。
結果、ルティーナは思いっきり抱きつくかたちでアルゼスにのしかかってしまった。
ルティーナは急いで彼の背中から離れた。
「いや……、大丈夫だ」
「……っ……っ」
やってしまった……やってしまったと、ルティーナは己の体を抱きしめる。
言葉が出ないとは、まさにこのことだ。
顔の半分はフードに隠れて見えないが、その顔は熟れたリンゴのように真っ赤に染まっていた。
「……君達、イチャついてないで早くしてくれないかい?」
「い、いちゃついておりません!」
グレイセスの冷たい声が届き、ルティーナは必死に首を横に振った。
「不可抗力だ」「そんなつもりはなかった」そう言いたかったが、あまりのことに彼女は言葉が出てこなかった。
気を取り直し、アルゼスもグレイセスも宝石に指が触れているのだ。あとは魔力を流すだけ。
「では、魔力を流すタイミングを合わせます。……三、二、一、どうぞ」
二人から同時に宝石に魔力が流され、ルティーナの目の前にある壁が開かれる。
ただ、開いた壁は狭く、かろうじて腕一本分で、隙間と言っても過言ではなかった。その中には、なにも仕掛けも施されていないレバーがあるだけ。
「もういいかい?」
「はい、大丈夫です」
「なにがある?」
「……レバーです」
「レバー?」
グレイセスは上げていた腕がだるいのか、軽く肩を回しながら開かれた壁の隙間を見る。と、同時に下からアルゼスが覗き込んできて、ルティーナは身を縮こまらせた。
「これは狭いね……」
「俺達では入らないだろ」
「入っても腕が抜けなくなるかもね。仕掛けはないんだよね? 氷華、レバーを引いてくれ」
思ったより狭い壁の隙間に、男二人はあっさりとレバーを引く役目をルティーナに譲る。
「はい……」
ルティーナは少々緊張しながら壁の隙間に手を入れ、レバーを掴む。
隙間はルティーナが手を入れても服が擦れるぐらいだ。男の腕では確実に抜けなくなるだろう。
彼女は慎重にレバーを引いた。
レバーは軽く、簡単に引いたほうへ傾く。最後にガチッって音がすると、ズズッ……と何かが動く音が聞こえ、その音は次第に聞こえなくなった。
「これは……なにかが動いたかな?」
「下の方で聞こえたので、このまま下りて行けば理由が分かるかと……」
「とりあえず、下まで行くぞ」
「進行方向にも後方にも魔物の気配はありません。大丈夫です」
「よし、行こう」
探索魔法で周囲に危険がないか確認をした後、一行は再び階段を下りていく。
「開いてる……」
螺旋階段を下りきると、そこは余剰スペースなどほぼなく、壁があっただろう場所にはポッカリと縦長の穴ができていた。
「先ほどの仕掛けはこれかな?」
「そうとしか考えられんな。なんでこんなに手の込んだ仕掛けがしてあるんだ?」
疑問しか出てこないが、謎が解けるわけでもない。
結局、ダンジョンの最奥まで行くしかないのだ。
「氷華が気付かなかったら、間違いなく引き返す羽目になってただろうね」
「手間が省けてなによりだろ? それより進むぞ」
そして一行はダンジョンの奥にさらに進んでいった。
これアリかなぁって思って書きましたw
お読みいただき、ありがとうございます




