10.未知のダンジョン ~違和感~
ダンジョン内部はごく普通の……というのはおかしいが、通常のダンジョンの内部構造とさして変わりなかった。
上も下も石造りの少し古びた感じは古城を思わせ、明かりは乏しく薄暗い。見様によっては、地下通路のようにも見える。
実際、ダンジョンの造りは下へ下へと歩を進める下層構造型がほとんどなので、窓もなく暗く見えるダンジョンは数多くある。
「ずいぶんと暗いな」
「あんまり光源となる物がないみたいだね」
「光球、出しますね」
ルティーナは手のひらの上で小さな光球を作り出した。
作り出した光球を前方に飛ばして視覚を確保し、そのまま探索魔法を発動させる。ついでにギルド長から「内部の探索記録を撮ってきてくれ」と、言われて渡されたブローチ型の記録魔道具をフードコートの淡い紫のリボンの結び目の部分に付けて、録画を開始させる。
「……では、これから内部探索を始めます。私は、隠し部屋や通路が各階層にないかチェックしながら進みますので、申し訳ないのですが護衛のほうはよろしくお願いします」
「了解」
「ああ」
探索に集中すれば、当たり前だが戦闘に綻びが出る。
王太子殿下と公爵令息に護衛を頼むのは、ルティーナの心情に大変よろしくないが背に腹はかえられない。
こうして三人のダンジョン探索は始まった。
ギルド長の情報によれば、階層数は八。ダンジョンは下層型。
ダンジョンは階層が多いほど、難易度が高くなる傾向が多い。一部、例外的なダンジョンはあるが、このダンジョンはそれに当てはまるような感じはしなかった。
八階層ということは、Cランクのダンジョンとさして変わらないということだ。
スタンピードで出てきた魔物はA、ダンジョンはC、まるでチグハグだ。
「前方に魔物。……これはボアですね」
出てきたボア種の魔物。小さめの牙と焦げ茶色の体毛。大きさは大人の背丈より少し小さめ。特に強い魔物ということはなく、ランクはC。素材も大したものではない。
アルゼスの剣に一撃で倒されたボアは、牙と皮の素材と小さな魔石を残して消えた。
これがダンジョンの良いところでもある。必要素材以外はドロップしない。
「回収はどうします?」
そういえば決めてないな、と思いつつルティーナはグレイセスに聞いてみる。
このパーティーのリーダーは彼だからだ。
「そうだね、回収していこう。探索だし、なにがドロップするか確認も必要だろう。氷華、悪いが回収も頼む」
「分かりました」
ルティーナは、アルゼスが倒したボアの素材をウエストバックに入れた。
彼女の腰のベルトに付いてるウエストバックはマジックバックだ。これもダンジョンの宝具であり、時間停止と収容無限の機能付き。
ルティーナの大変便利な冒険者活動での愛用品だ。
ダンジョン内を進めど進めど出る魔物は低級か中級の魔物ばかり。
先に騎士団が探索した影響なのか、ろくな魔物は出ず、道中に隠し部屋や隠し通路なども発見できなかった。
ついに探索終了した八階層までたどり着き、行き止まった。
「特になにもなかったな」
「拍子抜けだね」
アルゼスとグレイセスはそう言うが、ルティーナの考えは違った。むしろ、ここからでは? と、実は考えていた。
ダンジョンの探索の終わりには強力な魔物が控えていることが多いがそれがなく、ダンジョンクリアの報酬もない。そして、帰還用の転移陣もない。
とても不自然で、終わりとは思えなかった。
だけど、探索魔法を駆使してもなにも見つけることはできず、ならばと探索魔法を消して魔眼で周りをよく視ることにした。
八階層の魔力の流れはどうなっているのかを――。
そして見つけた。ここだと。
そこはなんの変哲もないダンジョンの内壁。だけど、この壁だけ明らかに他の壁とは違っていたからだ。
触れてみるが変化はなく、また満遍なく魔力も流してみたが、こちらも変化はなく。他になにか別の仕掛けがあるのでは? と彼女は考えた。
「氷華、なにかを見つけたのかい?」
壁に手を置いて、悶々と考え込んでいるルティーナにグレイセスが声をかける。
「……確証はありませんが、この先にダンジョンの続きがあるかもしれません」
壁から目を逸らさずルティーナは答えた。
「……なにもないが?」
アルゼスも近くにきて、ルティーナが見つめる壁を見る。
彼の言葉にルティーナは苦笑した。
「……そうなんですけどね。実はここだけ、ダンジョン全体に張り巡らされている魔力が通ってないんです」
「魔力が通ってない? その場所だけかい?」
「はい」
「それはおかしいね」
どのダンジョンも、まるで生きているみたいに魔力が張り巡らされているが、ルティーナが視ている触れている壁にはその部分だけポッカリ魔力が抜けているのだ。
この先になにかがある、と言わんばかりに。
「壊してみるか?」
「……お願いします」
アルゼスの提案に物は試しとお願いした。魔力を満遍なく流しても変化はなかったからだ。
――ギンッ
と、壁が剣に斬りつけられる鈍い音がした。
「……変化はないな」
壁は剣の痕一つなく、そこに佇んでいた。
「……アルゼス、ちょっとそこの壁も同じように斬りつけてくれないか?」
グレイセスが指したのは痕がつかなかった壁のすぐ隣の壁だ。もう一度、壁が剣に斬りつけられる音がした。斬りつけられた壁には、しっかりと剣撃の痕が残っていた。
「おお、間違いなくなにかありますね」
「あるね」
ルティーナはもう一度しっかりと壁を視ることにした。
だからといって、なにかが変わるわけでもなく。先ほどと同じように触れてまた魔力を流す。今度は細くゆっくりと。
すると、魔力が石壁の隙間を縫って流れていくのが見えた。
それを視線で追っていくと、そこには小さな小さな宝石が埋め込まれており、ルティーナはもしかしてこれかな? と、魔力を流すと石壁はあっさり開いた。
「あ」
こんな簡単な方法だったんだ――と、彼女は思わず間抜けな声を出してしまった。
「開いたな」
「開いたね……どうやったんだい?」
グレイセスに問われ、魔力を流した先に小さな宝石があり、そこに魔力を流したら壁が消えたことを説明した。
「なるほどね……、そんな仕掛けだったんだ」
ふむふむと、楽しそうにグレイセスは呟いた。
「ここから先がダンジョンの続きになるな」
開けた壁の先は一寸先も見えぬほど暗く、常に明かりを灯さなければ先が見えないほどだ。
「では、ダンジョン探索の続きといこうか。アルゼス、先頭を頼むよ」
「ああ」
一行はアルゼスを先頭に、さらにダンジョンの奥へと進んでいった。
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