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プロローグ

初めまして、どうぞよろしくお願いします

婚約解消は次話からです


 ここはガレシア王国の王都にある冒険者ギルドの本部。ガレシア王国の各都市に点在している支部をまとめている場所だ。

 現在、ギルド内ではギルド職員が慌ただしく動いていた。


「被害状況は!?」

「現地の冒険者はどうなっている!?」

「魔物の進行状況は!」


 漏れ聞こえる声に、近くで見ていた冒険者も何事かと目を向けた。

 そんな中、己の気配を極限まで消してのんびりお茶を飲んでいる者がいた。

 まるでギルド内の騒ぎなど聞こえてませんと言わんばかりの態度だが、気配をほぼ完全に遮断している者のことなど誰も気にかけやしない。


 その者は真っ白のフードコートに、淡い紫の細いリボンをした少々小柄な人物だった。フードコートは頭の先から足元まですっぽり覆い、その人物像を正しく認識することはできない。

 ただ、フードから覗く指の細さから女性的なものだと分かる。


氷華(ひょうか)


 そんな、誰もが認識の外にある彼女に話しかける人物がいた。


黒銀(くろがね)さん」


 彼女、氷華に黒銀と呼ばれた人物は、冒険者ギルドの中でもずいぶんと軽装な装いをしていた。

 汚れにくいだろうと思われる銀の縁取りが入った黒い服装に、焦げ茶の膝下ロングブーツ。手にはコートが握られ、腰には長剣を()いている。

 背は高く、顔立ちは端正で美しく整っているが、切れ長の目は鋭い。暗めの紺色の髪から覗くアイスブルーの瞳は若干呆れたように氷華に向けられていた。


「呑気だな」

「焦ってもどうしようもないですよ」

「隠れるように隠密魔法を使ってる奴に言われてもな」


 そう言いながら黒銀は軽く指を鳴らした。パチンという音の後に、パリンというガラスが割れるような音が聞こえた。


「あー……」


 それは隠密魔法が解かれた音だった。いきなり現れた人の姿にギルド内はにわかにざわついた。


「解けちゃった」

「ほら、行くぞ」

「了解です」


 氷華はのんびりと立ち上がり、背を向けた黒銀のあとを追った。


「なにがあったんでしょう?」

「スタンピードだそうだ」

「スタンピード? ギルドはちゃんとダンジョンの場所を把握してますよね?」


 あれ? と氷華は首をひねる。スタンピードは本来、魔物が溢れたダンジョンのこと指す。


 ダンジョンは各地にあり、冒険者ギルドはそれをしっかり管理することで生計を立て、民の安全を守っている。

 もちろん、ダンジョンは冒険者だけでなく、国に所属する騎士もよく入る。

 効率よく金策ができて、魔石などの素材まで手に入り、実戦経験まで手に入れることができるのだ。ダンジョンに入らないほうが損というものである。


 だが、ダンジョンには明確なランク分けがされており、ランクが高いほど冒険者も騎士も純粋な実力が求められる。

 最初は国がダンジョンを管理しようとしたのだが、騎士だけでは魔物討伐に間に合わず、また一攫千金を狙う不届き者が増えたため、冒険者ギルドをつくり管理させたのが始まりだ。

 今回のスタンピードはギルドの監督不足か? と思ったが、


「未発見のダンジョンのスタンピードだ。前に出たダンジョンと同時期に出て発見が遅れたのだろう」

「ああ、そういうことですか」


 ダンジョンは不定期に現れ、消える。

 まるでこの世界が膿を出すようにダンジョンが現れ、膿がすべて消えればダンジョンは消える。

 それがこの世界のダンジョンだ。


 膿は魔物。

 倒さなければ溢れるのは当然のこと。

 今回は二つ同時期にダンジョンが現れ、片方は発見できたが、もう片方は発見が遅れ魔物が溢れてしまったのだ。討伐せねば被害は甚大になる。


「私達は必要になると思います?」

「必要だろうな」


 軽く雑談を交わしながら氷華と黒銀はギルドの受付に向かった。


「ギルド長」


 黒銀にギルド長と呼ばれた壮年の男はひときわ背が高く、体格もいい。

 くすんだ焦げ茶の髪は戦闘に邪魔にならないよう短く切られ、目は若干たれ気味の榛色だ。

 日に焼けた鍛え上げられた筋肉質な肉体と、周囲に畏怖すら感じさせる威圧は、上位の冒険者の貫禄を醸し出していた。

 実際、ギルド長は現役の冒険者でもある。


「おう、黒銀に氷華。来てたんだな」

「俺は今な……。氷華は俺より前に来ていたみたいだけどな」


 黒銀にジト目で見られ、氷華は思わず視線を逸らした。

 ギルドの騒ぎをスルーしていたのを責められている気がして、氷華は話題を変えることに。


「それより、なにがあったんですか?」


 その氷華の質問に対しギルド長は疲れた顔して、なんとも形容しがたい表情をした。


「……簡単に言えばスタンピードだ。しかも、溢れた魔物のランクが通常より高いようでな」


 苦虫を噛みしめたような顔をするギルド長に黒銀と氷華は確信した。現地の冒険者では実力不足なのだと。


「ギルドの過失だな。新規ダンジョンを見つけられなかった。すまんが二人とも、行ってもらえるか? 俺も行ければいいんだけどなぁ……」


 ギルド長という立場上、そうそうギルド本部から動けない身の上。

 未だに現役として名を馳せているギルド長だが、今回は後始末もあるのか動けないらしい。

 そんなギルド長に黒銀と氷華は(こころよ)く頷いた。


「はい、大丈夫です」

「ああ」


 二人の返事にギルド長は表情を緩めた。


「助かる。場所は都市ダルガーノ。行ったらスタンピードが起きている場所は分かるはずだ。討伐が終わったら素材は回収していい。報告は……すまんがしてくれ。あとは頼んだ」

「ダルガーノか……ギルドの転移陣を使用しても構わないか?」

「おう、いいぞ」

「じゃあ、いってきます」


 黒銀と氷華は、転移陣が設置されている部屋に向かうため、その場を離れた。

 ギルド長はほっと息を吐いた。あの二人に任せれば大丈夫だろうと。

 あの二人が今日ギルドに来ていて本当によかったと、安堵の表情を滲ませた。自分より遙かに強いのだから問題はないだずだ。

 二人を送り出した後、密かに過剰戦力だったか? と思い、ギルド長はちょっと遠い目をしてしまった。


「あの……、ギルド長」

「ん、なんだ?」


 ギルド長が目を向ければ、それはまだ年若いギルド職員だった。


「あの二人は大丈夫なんでしょうか?」


 不安なのだろう。

 増援に向かったのが、見た目的にも声質的にも年若く感じたから。

 だが、それがどうしたというのだろう。

 ランクに年齢は関係ない。


「問題ない」

「ですが……」

「問題ないんだよ、本当に」


 ギルド長である彼が多大な信頼を寄せている二人は、冒険者ギルドの中でもごく少数の人間しか与えられていないランク持ちだ。そして、そのランクには別格という意味で【二つ名】が与えられている。

 このギルド職員はギルドに勤めて日が浅いのだろう、あの二人のことをよく知らないようだ。

 現に、あの二人が向かうとあって、あの二人をよく知るギルド内の冒険者や職員は、目に見えるほど落ち着いていた。

 ならば、自分の仕事はこの若きギルド職員に答えを教えてやることだろうと、ギルド長は笑った。


「あの二人はな、Sランクなんだよ」

「……えっ、あの!?」

「そ、紺の髪の男が【黒銀の騎士】で、白いフードコートのほうが【氷華の魔女】だ」

「え、えー!?」


 その若きギルド職員の叫びは混乱か驚きか、いずれにせよこの職員は一つ勉強したわけだ。

 Sランクに年齢は関係ない。

 関係あるのは実力だけだと。


お読みいただき、ありがとうございました

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