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アルター・ワールド  ~三画TRAVEL~  作者: 一夜一海
龍編・第一章
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第一幕・統制機関カレンデュラ

 其処は昼夜を、そして老若男女を問われることがない。


 功労者は必ず報われる

 犯罪者は必ず裁かれる。


 故に誰もが己の培った技能を駆使して、思い思いに活躍しようとする。

 そして何れの道であろうとも、最後の時は等しく潔い。

 彼の国の名はフィーリア王国。

 パンゲアにも劣らない超大陸の七割を領地とする、誰もが輝きで照らされる巨大国家である。


 ただし本日に限っては例外が存在していた。

 鋭い三白眼が特徴的な青年だけは、昼間が訪れても未だ深い暗闇の世界に囚われたままだった。

 今も特に当てはなく、ひたすら出口を求め彷徨い続けている。

 既に体感としては、地球を徒歩で一周したも同然だ。

 その上で前進は止めない。

 どんなに足が悲鳴を上げようと、その193cmの図体は決して立ち止まらない。

 

 やがて深い暗闇の奥に一筋の光が垣間見える。

 此処までの一切を耐え抜いた身ならば、その手に掴み取るのは造作もなかった。

 斯くして193cmの長身は、打って変わって清潔なベッドの上で目覚める。

 また鋭い三白眼の視界には真っ白な天井と、他にも清潔なベッドと薬品棚が幾つか並んでいる様子が見て取れる。

 規模を鑑みれば小さな診療所、或いは大概の学校に存在する保健室と捉えるのが相応しい。


「…完全に死んだ、と思ったってのに。結局アレも、全部が夢だったってのかぁ?」


 最後の記憶は現代の日常から余りにかけ離れている。

 実際に並み居る武装者や、弓矢によって繰り出されるデッドラインは影も形もない。

 全てを夢だと判断しても、納得が行く現状だ。


 一方で起き抜けから身体の節々が悲鳴を上げている。

 決して筋肉痛や寝違えた程度ではない。

 体のあちこちに巻かれた包帯が、自身の只ならない負傷を物語っている。

 現在の場所に関しても心当たりはなく、窓から見える景色も見覚えはなかった。


『…どうするよ。あまり良い状況じゃねぇのは確かだぜ?』


 思い付く選択肢は二つある。

 このまま待機か、一刻も早く行動を起こすか。

 安全か、無茶か。

 何方を選んでも未来が大きく変わると確信がある。


 しかしこの静かな葛藤の折に、突如として部屋の外から物音が聞こえる。

 程なくして出入り口と思われる箇所が開かれ、左手側へと垂れている栗色のサイドポニーが特徴的な少女が姿を現す。

 彼女の150cmに届かない身長、そして華奢な見た目から危険な要素は見当たらない。

 寧ろクリーム色のブレザー姿にチェック柄のスカートと、装いは現代における女子学生その物だった。


「…そりゃそうだ、あんなのがリアルな訳はねぇんだよなぁ」


「あれれっ、もう起きてた。数日は起きないかもって言われてたのに、凄い回復力でびっくり!」


「そりゃどうも。アンタも随分と元気そうで良かったよ」


「あははっ、それがワタシの取り柄ですからー………って、違う違うそうじゃない。とりあえずは起きれてるみたいですけど、身体の具合とかどうですか?」


「…まぁ、ボチボチってところだな」


「じゃあ何か食べます?それとも飲み物とか持ってきましょうか?」


「要らねぇよ。それよりも何者だアンタは?此処は何処だ?まさかとは思うがあの世じゃねぇよなぁ?」


「んもー、そんなに次々に聞かれても困りますって。とりあえずワタシの名はミュウ・ハウゼンと言います。そして此処はアノヨとかではなく、統制機関カレンデュラの医療室ですよ」


「何だその統制機関カレンデュラってのは。そんなの聞いた事すらねぇぞ」


「ええーっ、聞いた事も無い?統制機関カレンデュラはこの国の法や秩序を守る為に設けられている重要組織ですよ?」


「馬鹿言えよ、日本国内にそんな洒落た名前の重要機関がある訳ねぇだろうが」


「…んーと、御免なさい。ワタシもニホンって国は聞いたことないんですけど」


「…今のがもし冗談で言ったのなら、最高に笑えねぇぞアンタ。そもそも俺達が今話してるのが日本語だろうがよ!」


「えっ、えぇー?」


 ミュウと名乗った少女は小首を傾げて困惑する。

 同じく龍も余りの怪訝さから疑惑の目を向ける。

 最早お互いに目前の相手が、不可解なモノとしか映っていない。

 自ずと次の言葉にも窮する二人だが、そんな折に外からドアをノックする音が割って入った。


 慌ててミュウと名乗った少女が応答すると、程なくして艶やかな紅髪をウルフカットで整えた女性が姿を現す。

 その格好は首元から全身を紺色のボディスーツで覆い、身体の要所を革鎧で固めている。

 また女性でありながら180cmを超える長身を誇り、ボディスーツ越しからも鍛錬を重ねた腹筋が見て取れる。

 ただし彼女から厳つい雰囲気は殆どなく、左目の泣き黒子が女性として程好いアクセントとなっている。


 しかしその姿を見た途端、凄まじいまでの敵意を剥き出しにする者が一人だけ居た。

 当然ながらその様子は紅いウルフカットの女性の目にも留まるが、彼女の方は特に変化はない。

 寧ろ穏やかな面持ちを浮かべ、先ずはミュウと名乗った少女と軽く挨拶を交えた。

 続いて少女の困った様子を察すると、優しく休憩を促した。

 やがて少女を見送る際も小さく手を振り、笑顔を絶やさなかった。


 とても彼女が男性陣を差し置いて戦いの指揮を取る様には見えない。

 ましてや平然と大の男を吹き飛ばす姿は想像すら出来ない。

 しかし少女の休憩移動を見送るや、彼女は別人の様な厳しい面持ちとなる。

 そして空いているベッドに腰かけると、尚も自身へと向けられている敵意に真っ直ぐ向き合った。


「昨晩ぶりだな猛獣くん。手前としては少なくとも数日は寝込んでもらう予定だったが、咄嗟に戦棍を前に出した判断が良かったみたいだ」


「…やっぱり夢じゃ、なかったんだな。俺はあの夜、アンタに吹っ飛ばされたんだ」


「ああそうだとも。手前も忠告したが、君が頑なだったのでね。即死させなかっただけ感謝して欲しい」


「涼しい顔してとんでもねぇことを言う女だな………ってか、大の男を弓矢で吹っ飛ばすとかどんな化け物だよ!」


「失礼な、手前は化け物ではない。手前は統制機関カレンデュラ本部所属、第一部隊長及び訓練生担当教官を務めているレイラ・ロードス。27歳で、独身だ」


「随分と長ったらしい肩書きだなおい。ってか、最後のは別に要らねぇよなぁ!?」


「大事な事だとも。さて、此方は先んじて自己紹介をした訳だが………よもや最低限の礼も知らない畜生ではないだろうな君は?」


「…飛来龍だ。これで満足か女隊長さんよぉ?」


「大変に結構。ではヒライリュウ、改めて手前と共に来てもらおうか」


「何でだよ、俺は誰かさんのお陰で怪我人だぞ。先ずは安静にしてろって言うのが筋じゃねぇか?」


「そうはいかない。先達て王宮敷地内への侵入及び護衛兵に対する暴行を犯した君は、これから然るべき処罰を受ける必要があるのでね」


「俺を思いっ切り吹っ飛ばしといて、今度は犯罪者扱いかよっ。そもそも俺は侵入なんてしてねぇし、こっちが暴行罪か何かで訴える側だろうが!」


「あくまで無実と言い張るその開き直りっぷりは褒めておこう。しかし覚悟はしておくことだ。君が如何に宣おうとも、最高司令官の判決は絶対なのだから」


「けっ、要するに裁判で決めようってのか。下らねぇ、そいつは本当に下らねぇが………取り合えずアンタがとんでもねぇ横暴な女だって事は存分にアピールしておくかなぁ?」


「残念ながら横暴っぷりで君に勝てるとは思えないのだが………まぁ良い、手前も役割を果たしたいのでね」


 和解と呼ぶには程遠いものの、此処に一度は攻防を繰り広げた二人が目的地を同じくする。

 ただし先を行く彼女は背後への警戒心を、後を追う彼は目前への敵愾心を決して緩めない。

 偶然にも途上で出くわした者達は、余りの剣呑な雰囲気に思わず壁と同化を図る有り様だ。

 お陰で二人の歩調は乱される事が無く、早々に目的地のある階層へと辿り着いた。


 其処は人の気配がまるでない代わりに、ステレオカメラが彼方此方で稼働している。

 仮にカメラが許可の下りていない者を発見したなら、直ぐに警報が発動する形式だ。

 今回の場合はレイラの存在を確認後、残る一名を同伴者として見送る形となる。


 続く先は一本道の細い廊下で、四方の壁に触れないまま通れるのは人一人という設計だ。

 また途中に電灯は一つも無く、窓もないので昼間でも視界が悪い。

 特に図体のある龍にとっては非常に不便な道中と言える。

 一方で名家出身の視点から、全てが重要人物を侵入者から守る為の対策であるとも理解が及んだ。


 斯くして綺麗に整列した状態で進む二人に対し、今度は銀色に煌めく壁が待ち受ける。

 ソレは他の壁と比べて明らかに異質ではあるのだが、少なくとも龍には単なる行き止まり以外の答えが出せない。

 しかしレイラが軽く手で触れれば、壁にしか視えない銀色のソレは意思を持つかの如く分散した。

 同時に四方の壁が駆動を開始し、二人の目前に厳かな雰囲気の両扉が出現する。

 これはこの階層全体が、侵入者に対する警戒から来客を迎える態勢へと移行した証だった。


「くっははっ、とんでもねぇ仕掛けだな。こりゃあこの扉の奥に居る奴は、よっぽど臆病で引きこもりなんだろうよ」


「んふふっ、流石の見識だ猛獣くん。手前とて此処の警備システムは如何かと思うし、何より彼の最高司令官殿には全く相応しくない」


「…なんだよ、つまんねぇ反応だな。俺はアンタの上司を馬鹿にしてるんだぜ、もうちょっと怒るべきところじゃねぇのか?」


「対面すれば嫌でも納得できるとも。世の中に堂々と罷り通ってはならない者、ソレは何も罪人ばかりではないとね」


 何処か物憂げに笑ったレイラはそのままゆっくりと両扉の前に立つ。

 同時に両扉は反応し、誰にも触れられぬまま自ら左右へと別れた。

 其処から先は手始めに床一面へ敷き詰められた紫色の絨毯が出迎える。

 続いて部屋の中央にて、見るからに年代物の両袖デスクが明らかとなる。

 他にも見上げれば宝石と見紛うシャンデリアが、辺りを見渡せば狼を模る黄金のエンブレムが異彩を放っている。

 仕上げには水晶の様に透き通る天窓の下、この豪華絢爛な部屋の主である男の姿が照らし出されていた。


 その出で立ちは色黒の肌と、前頭部から頭頂部を剃らずに残した白髪混じりの総髪。

 上半身は白いワイシャツの上から、膝丈まである黒い外套を羽織っている。

 ボトムスに関しては一般的なスラックスを選んでいるが、ベルトを巻いていないので腰回りが安定していない。

 加えてボタンの類いを一切止めていない為、へその下まで無防備になっている。

 一歩間違えれば、ファスナー部分から男性特有の部位が自己主張をしかねない様な状態だ。


 ただし彼の特徴として目を見張るべきモノは他にある。

 一つは常識離れしている酒豪っぷりである。

 現在も一升瓶を空にした後、颯爽と近くの棚から次の分を取り出している。

 もう一つは老境の年恰好でありながら異様なまでに鍛え上げられた筋肉と、200cmを優に越える巨躯である。

 例え本人が楽しく酒を飲んでいるだけだとしても、見る者にとってソレは酒盛りする赤鬼が眼前に迫っているに等しい。

 しかしレイラはそんな彼の元へ平然と赴くと、やはり鬼の様な手元から素早く酒瓶を奪って見せるのだった。



此処まで読んでいただき感謝<(_ _)>


拙いですが、もし少しでも楽しんでいただけなら幸いです。


良ければ次回以降も拝読して頂ければ幸い。

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