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アルター・ワールド  ~三画TRAVEL~  作者: 一夜一海
龍編・第三章
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第十幕・飛空艦アルバトラ

『計器、全て異常なし!飛空艦アルバトラ、発進!』


 一際な号令と共に、大地が鳴動する。

 それは統制機関カレンデュラの正門から右手、ウンデュラタの地下施設より発せられた。

 間も無く地面が無造作に開かれると、巨大な乗り物が上空へと舞い上がった。

 その名は飛空艦アルバトラ。

 現代の飛行船と艦船が上下で連結した様な姿で、青藍色を基調とし、更にこの世界特有の意匠が施されている。

 最大飛行速度は時速150km、定員は100人。

 今回は乗務員と戦闘員が、50人ずつ乗り込んでいる形だ。

 他にも攻撃手段として大砲が搭載されており、前頭部と両翼の合計三か所に砲門が存在する。

 当然ながら繰り出される砲弾に関しては、現代科学では説明できない()()を秘めている。

 そしてそんな威容を誇るアルバトラが目指すのは、大陸の最南端。

 三大名族(トライ・ドミナント)が分割支配している、カリギュア共和国である。


『魔力エンジン、出力良好!当艦は約40時間後、カリギュア共和国領内へと進出する見込みです!』


「ご苦労様です。暫くは自動操作を維持しつつ、索敵を怠らないようにお願いします」


『了解!』


 アルバトラの全乗務員達が、一斉に声を張り上げて応じる。

 その相手は今回の任務における艦長であり、第ゼロ部隊長補佐ことミュウ・ハウゼンである。

 操舵室(ブリッジ)にて純白を基調とした艦長服に身を包む彼女は、普段よりも凛々しく見受けられる。

 一方で相変わらず漆黒の部隊長服に身を包んだ飛来龍は、発進から間もなくして全戦闘員を引き連れて行った。

 目的地は居住区(キャビン)の一つとして設けられている娯楽室。

 ただし娯楽と言っても、実際はある程度の運動空間(スペース)が存在していると言うだけである。

 しかし龍にとっては、空間(スペース)さえあれば何処でも良かった。


「おらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


『うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』


 悲痛な絶叫が共鳴する。

 この時の娯楽室では、調整と称した模擬戦が繰り広げられていた。

 この模擬戦は、第ゼロ部隊長VS戦闘員チームという様相。

 前者は三か所、後者は一か所、自身の好きな場所へ標的(マーク)を事前に付けている。

 この標的(マーク)と言うのが、即ち互いの残機。

 標的(マーク)に何かしら攻撃をヒットさせ、最終的に相手陣営の残機をゼロに持ち込んだ方が勝利という形式(ルール)

 因みに魔術の使用がOKと言う、ほぼ実戦想定だ。

 自ずと圧倒的に頭数が劣っていて、一切の魔術を習得していない龍にとっては、凄まじいハンデ戦となる。

 尚、このハンデにより両陣営に存在する格差が埋まるとは限らない。


「…残念ながらこれは、半刻と()ちそうにありませんね」


 模擬戦が開始してから間もなく、思わず呟いたのは第ゼロ部隊のメンバーであるカスパーゼ・ワン・シエータ。

 彼は娯楽室全体を結界魔術で包み、模擬戦の余波が外に漏れないように取り計らっていた。

 因みに万が一の損害に備え、メカニック担当としてルービック・サーキュラ。

 また怪我人が出た際のメディック担当として、イルミー・カラットも共に待機している。


「ムフフ、安心したわ。てっきり、女王陛下に骨抜きにされてるんじゃないかって、心配してたのよ」


「ンンン、実に興味深いですぞぉぉぉ!前データよりぃぃぃ肉体的な変化はぁぁぁ殆ど見受けられていないぃぃぃ………でぇぇぇもぉぉぉ、性能は劇的に向上しているぅぅぅ!」


「きっと、加護が馴染んだのよ。いよいよもって動きに関しては、人の領域を超えてるわねぇ」


「ンンン?人族の領域を超えていると言うのは納得ぅぅぅ………しかし加護が馴染むとは一体ぃぃぃ?」


「恐らく、イルミー様はこう仰りたいのでしょう。ヒライリュウ様は加護を受け入れ、また加護の理解を深め、その利点を余すことなく活かせるよう努めていらした………そして今、大輪の華が咲こうとしている」


「流石ねカスパーゼ、貴方が居ると話が早いわ。ただ………あの子は決して華なんかじゃない。もっと魅力的で(おぞ)ましい、怪物(なに)かよ」


「…流石に賛同しかねますが………おや?」


 カスパーゼが視線を横へと向けると、其処には新たに娯楽室を訪れた数名の姿が在った。

 彼等もまた、カスパーゼ達と同じように模擬戦の模様を見届けている。

 しかしいよいよ戦闘員チーム最後の一人が撃破され、場が解散になると揃って移動を開始。

 その行き着く先は模擬戦が始まってから、依然として魔封剣(アカツキ)を背負ったままである龍の許だった。


「調子良さそうじゃない、部隊長。おっと、極星の守護者って呼んだ方が良かった?」


「あぁ?何だよ三馬鹿………いや、今回は四馬鹿(カルテット)か」


「いや~、自分まで馬鹿(その)括りにされるのは心外なんすけどね~」


「変わらねぇよ。揃いも揃って、俺にボコボコにされた負け犬組だろうがぁ?」


「んがっがっがっ!相変わらず口さ悪いだべな………だけんども、あんましオレっち達を舐めんじゃないだべよ、ヒライリュウ」


「そうよ。キミがぬくぬくと宮仕えしてる間に、あたい達はずっと特訓してたんだからさ」


「左様。是非とも我等の挑戦、受けて立っていただこう。部隊長殿とて、並の正規員が相手では退屈していた筈」


「…そうだな、お前等なら少しはマシだ………良いぜ、纏めてかかってこいよ」


「そうこなくちゃ、ね!」


 龍が承諾するや否やキャリープレイグ、通称キャリーが先制の一打を浴びせる。

 それは【打撃娘】と言う異名に恥じることなく、鋭くて痺れる様な威力だ。

 実際に彼女は雷属性を得意とする第二段階(セカンド)の魔術師であり、戦闘時は雷属性(これ)により自身の身体能力を強化している。

 しかし龍は魔封剣(アカツキ)を抜くことはなく、キャリーの一打を真っ向から片手で受け止めて見せた。

 対するキャリーも承知の上だったのか、寧ろ喜んで先制打(そこ)から更なる追撃を浴びせていく。

 そしてこの間、残る者達が黙っている筈もない。

 クリス・ハイルディンは矮人族の身体には不相応に思える、燃え盛る炎の剣を生み出した。

 またルードラット、通称ルードも虚空から水流を束ね、三叉槍(トライデント)を創り出した。

 二人もまた自身が得意とする第二段階の属性魔術を駆使し、キャリーと連携して龍へと挑みかかる。


「くははっ!確かにお前等、少しはマシな動きになってるじゃねぇか!」


「んががっ!なんてったって三人とも、オレっちが相手ぇしてやってたんだべよ?強くなって当ったり前だべ」


「そういう自分(テメェ)はどうしたよぉ!暢気に観戦かぁおい!?」


「んな訳ねぇだべ!オレっちも三人に学んだべよ………おまんに勝つ為にぃぃぃ!」


 ゴーレスは気合いと共に地属性魔術を行使、自らの肉体をうごめく物体で覆う。

 このうごめく物体と言うのは、現代で言う粘土である。

 やがて粘土は硬質化し、ゴーレスの巨体に完璧に見合(フィット)する鎧と化す。

 (それ)はゴーレスが、第二段階(セカンド)の魔術師へと至った証左。

 しかもこの鎧は守備だけでなく、攻撃にも活かされる。


「んんんがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 その様相は、まるで人間大砲。

 鬼人族特有の能力(ポテンシャル)と、成長した魔術を活かした超突撃(チャージアタック)である。

 しかもこの間際、他の三人が示し合わせたかのように龍から離れた。

 そして中距離(ミッドレンジ)から、龍を包囲するかの如く属性魔術を展開した。

 全ては四人が予め取り決めていた、四方からの()()()()()()

 今までならゴーレスへと被弾する懸念が残る所だが、既にゴーレスは次の段階へと達した。

 しかも今は周囲を、カスパーゼが結界魔術を展開している。

 お陰で四人共が、誤爆攻撃(フレンドリーファイア)を恐れず、第二段階の魔術が行使できる。


 『業火…裂刃!』


 『激流槍ぉ!』


 『雷鳴!破拳っ!』

 

 それは三人の、正しく代名詞。

 数ある正規員の中でも、異名を冠するにまで抜きん出た魔術師に、相応しい魔力(パワー)

 もし真面に被弾すれば、加護により魔術耐性を得ている龍とて無事(タダ)では済まない。

 しかし脅威(それ)を、鋭い三白眼の瞳が見間違う筈はなかった。


「…そうこなくちゃあなぁ!」


 模擬戦の間は、決して見せなかった歓喜の色。

 それだけ龍の中で喧嘩が成立したのは、久しぶりだった。

 故に何の躊躇いもなく、魔封剣(アカツキ)が抜かれる。

 そしてそのまま魔封剣(アカツキ)を前面に押し出すと、前方に向かって突進。

 その行く先には、超突撃(チャージアタック)を繰り出したゴーレスの姿が在る。


「ンンン!?なんと部隊長殿ぉぉぉ、鬼人族と真っ向からぶつかるとぉぉぉ!?」


 観戦していたルービックは、今までの最大音量で驚いた。

 彼の予測(データ)では、幾ら天性の肉体と加護があろうとも、鬼人族のゴーレスに龍が力で勝てる道理がない。

 看破の魔眼を持つとされている人物が、そんな当然の帰結を選んだのだ。

 同じく観戦組のカスパーゼも予想外で、思わず眉を(ひそ)めた。

 しかしイルミーだけは違う。

 不気味に笑うその姿は、部隊長への深い信頼が見て取れる。


「だべっ!?」


 思わずゴーレスが、素っ頓狂な声を上げる。

 ルービックの予測(データ)通り、両者の激突はゴーレスに軍配が上がった。

 龍の身体は盛大に宙を舞い、凄まじい勢いで天井へと向かい吹っ飛んで行く。

 しかし、それは誰の目にも不自然だった。

 もし龍が全力でゴーレスを迎え撃ったのなら、力で敵わないまでもゴーレスに対して十分な衝撃(ダメージ)を与えられた筈である。

 それが全くないということは、龍の方が意図的に力を抜いていた証左である。


「くっはははっ!」


 そのまま天井へと突き刺さるのではないかという勢いな龍だが、実際は余裕の表情で空中を転身。

 ダダンと、タイミングよく天井を両足で蹴り入れ、自ら飛んでいくベクトルを変更。

 そして当初の位置から大きく離れた地点へ、豪快に着地した。

 幸いカスパーゼの風属性による結界魔術のお陰で船内は勿論、龍にも大した被害は発生していない。

 そんな様子を見て、娯楽室に居る全員に合点が行った。

 そもそも龍は、最初からゴーレスに力で勝とうとしたのではない。

 四手にまで及んだ完璧な包囲攻撃を、最小限の被害(ダメージ)で抜け出す為に、あえて自ら一手を食らいに行ったのだ。

 その内からゴーレスを選んだのは、最も物理的な被害(ダメージ)で済むと判断したからである。

 実際に魔封剣を押し出したことで、土属性の鎧による被害は皆無だった。


「…まったく、呆れた逃走経路ですこと。未だに魔術を習得しないから、そんな野蛮な手段を取る羽目になるんですわよ」


「くははっ、何だよお前も居たのかアールシティ。もし一緒に喧嘩()るってんなら、俺は構わないぜ?」


「戯けたことを、ワタクシは監視に来ただけですわ。愚かな部隊長が本来の任務を忘れて、娯楽ばかりに感けていないかと」


「目的地にまでは40時間もあるんだろうが。一日くらいは大目に見ろよ、副長?」


「………ふん」


 【冷嬢】ことアールシティは決して答えはしなかったが、そのまま観戦組の三人と合流。

 そしてカスパーゼの魔術に合わせる形で、自らも結界魔術を展開。

 結界(それは)は紙よりも薄く、氷の様に透き通るような代物。

 それでもカスパーゼ単体の時よりも、娯楽室内は数段に強固な状態となった。


「…どうしたお前等、これでもっと遠慮はいらなくなった筈だろ。それとも、先刻(さっき)のだけで終わりか?」


「…冗談!」


「オレっち達は、まんだまだ元気一杯だべよ!」


「そうそう。今日一日は、自分等に付き合ってもらいますよ部隊長!」


「…いざ、参る!」


斯くして第ゼロ部隊長VS第ゼロ部隊員四名の戦い、もとい喧嘩は続行。

自ずとあらゆる属性が飛び交い、正に花火が咲き乱れる様な有り様となる。

しかしその中でも漆黒の一閃は、一際に異彩を放っていた。

此処まで読んでいただき感謝<(_ _)>




拙いですが、もし少しでも楽しんでいただけなら幸いです。




良ければ次回以降も拝読して頂ければ幸い。

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