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アルター・ワールド  ~三画TRAVEL~  作者: 一夜一海
龍編・第二章
30/57

第十一幕・意外な決勝戦

「くっははははっ!こりゃあホームランだなっ!」


 選手入場口より、龍が空を見上げながら嗤う。

 他の者も視線が追う先は上空だった。

 正確には上空へと吹っ飛ばされて行った、アールシティの行方である。

 双(ふた)つの銃口から放たれる、対魔術師用の衝撃弾。

 しかも最大装填からの合計十二発が、連続して撃ち込まれた。

 結果アールシティは戦場(リング)どころか、闘技場の外にまで追いやられてしまった。

 一方のミュウは、戦場(リング)の上で制止している。

 銃撃を行い、片膝を付いた態勢のままで。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ………げほっ、げほっ!」


 大きな咳、そして吐血。

 多種多量の強化薬を飲んだ代償が、今になって表れた。

 既に全身は悲鳴を挙げており、頭は朦朧としている。

 それでも少女は倒れない。

 否、倒れられない。

 何故なら彼女の半身はアールシティの魔術により、戦場に根差すようにして凍っていた。


「…一つ…二つ…三つ…」


 審判を務めるレイラが、ふと小声で数字を刻む。

 それは場外に姿を消した、アールシティに対する10カウントの開始。

 現状を鑑みて、必要だと判断したのだ。

 即ちこの戦いの勝敗は、まだ決定していない。


「う、うわぁぁぁ!なんだなんだぁ!?」


 観客席から驚愕と悲鳴の声が上がる。

 何故なら突如として、闘技場の外から氷が走(・)っ(・)て(・)来(・)た(・)のだ。

 それは専用の線路(レール)。

 闘技場の外から戦場の上までを一本で繋いだ、滑走路である。


「ハウゼーーーン!」


 鬼気迫る勢いで闘技場の外からアールシティが戻って来る。

 衝撃弾によるダメージは大きかったが、気絶するまでには至っていなかった。

 そのまま自ら作り出した氷の滑走路を伝い、真っ直ぐにミュウを目掛ける。

 更には確かな決定打を浴びせようと、再び魔術で氷の爪を作り出した。

 対するミュウは未だに薬の副作用、及びアールシティの魔術の影響で身動きもままならない。

 そんな二人を比較すれば、誰もが予感する。

 この戦いの結末を、そして勝者が誰なのかを。

 しかしその刹那、一つの介入によって根底が覆る事になる。


「…レ、レイラ様…?」


 アールシティは思わず息を呑んだ。

 審判であるレイラが、何時の間にか自身の傍らにまで迫っていたのだ。

 しかも触れるモノ全てを凍て付かせんとする氷の爪を、平然と掴んで止めている。

 自ずとミュウに対する攻撃は、寸前で中断せざるをえなかった。

 

「駄目じゃないかアールシティ、今のは下手をするとミュウが死んでしまう出力だったよ。今回の取り決めを忘れたのかい?」


「…もっ、申し訳ありませんわっ。ワタクシとしたことがっ…!」


「んふふ、勇む気持ちは解るけれどね。正直に言ってミュウの健闘ぶりは、手前も予想外だった………おっと」


 レイラはアールシティから手を離すと、またも瞬間的な移動を駆使。

 そして今度はミュウの傍らに寄り添い、その小さな身体を支える。

 既にミュウの意識は、暗い淵へと沈んでいたのだ。

 これを受けてレイラは控え席のノエルへと合図を送り、医療班の出動を請う。

 斯くして準決勝第二試合は審判による決着の言葉もないまま、撤収へと向かい出した。


「…ま、待ってくださいませレイラ様!」


「ん?どうしたんだい、アールシティ?」


「その、決着は………よもやワタクシは、反則負けなどと言う事は…」


「バーカ。そんな心配しなくてもお前の負けだぜ、アールシティちゃんよぉ?」


「なっ…!?」


 背後からの声にアールシティが振り返ると、其処にはニヤニヤと嗤う龍の姿があった。

 その態度からはアールシティの敗北が、決して揺らがないと確信している。

 しかし当のアールシティは納得しない。

 これは周囲の観客達も同じである。

 もしレイラが止めなければと、誰もが感じていた。


「おいおい、もうルールを忘れたのかよ?この大会は殺しだけでなく、の(・)ろ(・)ま(・)も許されねぇんだぜ?」


「…っ!?」


 アールシティの顔色が、見る見る内に青ざめる。

 龍の言葉を受けて、彼女も大事な取り決めを思い出したのだ。

 この公式戦はどんな理由であれ、戦場(リング)から離れ10カウント内に戻らなかった場合は戦闘不能と見做される。

 即ちレイラが寸前でアールシティを止めたのは、対戦相手の殺害と言う禁止事項に抵触しそうだったからではない。

 それよりも以前に場外10カウントによる、判定負けを喫していたからである。

 

「手前個人としては、あまりキミを止める気はなかったんだが………一応、審判なのでね。公平には務めさせてもらったよ」


「くははっ、確かにな!あれだけミュウが場外に出まくっても、アンタの計測は一度も誤ってなかったぜ!」


「…正直、アレには辟易としていたよ。とは言え取り決めの中で工夫を凝らし、最善を尽くしていたのは確かだった………たとえ確信犯であろうと、彼女の健闘は称えるとも」


「くははっ、それに引き換え………誰かさんはお間抜けだよなぁ。最後もよ、ご丁寧に近づいてんだぜ?そんな暇があるんならよぉ、お得意の氷塊を一つでも投げてりゃ………遠くからでも先にミュウちゃんをノックアウト出来ただろうになぁ?」


 可笑しくて、仕方がない。

 そんな露骨な態度を見せる龍に対して、アールシティは何も言い返さない。

 敗北の二文字を前にして、彼女は完全に茫然自失としていた。

 その間にレイラは周囲に向けて経緯を説明し、改めてミュウの勝利を宣言する。

 これに対し、当初は観客達の間で様々な意見が飛び交った。

 しかし最終的には審判であり、カレンデュラ第一部隊長の判定を尊重するに至った。

 斯くして準決勝第二試合は終了となり、その直後にミュウが担架で運ばれて行く。

 勝者となった彼女だが、尚も意識は戻らないままだったのだ。


 「…ったく、無茶しやがってよ…」


 医療班の手でミュウが運び出されるや、龍もこの動きに連動した。

 そうしてそのまま闘技場内に設けられている、医療室にまで帯同した。

 そんな様子に対し、決勝に備えなくていいのかと問う者も居た。

 しかしそんな者たちは総じて、鋭い三白眼の一睨みにより萎縮する羽目になる。

 一方で敗者となったアールシティだが、準決勝が終わった後も暫く戦場(リング)から動かなかった。

 まるで自らが魔術によって、氷漬けになったかの様に。


「…敗因はキミの先入観、と言ったところだろうね。ミュウは無理をしない性分だからと、何処かで高を括ってしまっていた」


「………」


「正直、手前としては漸く本懐を遂げた思いだよ。訓練生時代から君達二人を引き合わせ続けた甲斐があった」


「…レイラ様、ワタクシは………ワタクシはっ!」


「解っている。此処が命を奪い合うだけの場所なら、キミは負けていない。キミにはまだまだ余力がある訳だからね」


「…はい」


「また、仮に再試合となったらもうキミは負けないだろう。既にキミの実力は、多くのカレンデュラ正規員の中でも五指に入るのだから」


「…恐縮、ですわ」


「でもね、早熟(それ)も良いことばかりじゃない。ただの一度も挫折を知らず、気高い存在にまで辿り着いたことで………キミの中には慢心という枷が育まれていた」


「…その結果が、この無様な敗北なのですわね…」


「無様だなんて、恥じることはない。敗北があるからこそ、人は成長する。少なくとも手前は常に勝利する者よりも、勝利を目指し挑戦を忘れない者こそ………強者(つわもの)と呼んでいるよ」


「…心に、刻みますわ…」


 アールシティはレイラに一礼すると、戦場(リング)から降りる。

 その後は自身を推挙したクローケアの許に向かい、自らの不手際を詫びた。

 対するクローケアは、特に言葉は掛けない。

 ただ一度アールシティの肩に手を置くと、控え席から退去して行くのだった。

 斯くしてカレンデュラ公式戦は、いよいよ決勝を残すのみとなる。

 しかしそんな折で、観客達の興奮度(ボルテージ)はいま一つ上がらない。

 彼等の多くは、そもそも決勝の成立自体を懐疑的に見ていた。

 実際に決勝は暫し時を置くと、闘技場全体にアナウンスが流れている。

 仮に此処から成立するとしても、ほとんど万全な龍とほぼ瀕死なミュウの対決である。

 その勝敗の行く末は、誰の想像にも難くない。


「あ、おい!出てきたぞ、ヒライリュウだ!」


「ミュウ・ハウゼンも一緒だぞ、まさかもう回復したのか?」


「いやでも彼女、顔色悪くない?本当に戦えるのかしら?」


 俄(にわ)かに闘技場が騒然とする。

 龍とミュウが、二人揃って決勝の舞台に立ったのだ。

 しかし龍に比べると、ミュウは明らかに足元が覚束ない。

 実は先ほどまで、ミュウは命も危うい状態だった。

 限界を超えた肉体の稼働と多種多量の強化薬による副作用は、その小さな体を殊の外に蝕んでいたのだ。

 幸い医療班による魔術のお陰で危機は脱したものの、長期の入院は免れない所である。

 其処へ待ったを掛けたのが、第六部隊長ことノエル・ミアキスである。


「総帥の許可はもらったからねー、久しぶりに本気出しちゃうよー」


 そう言ってノエルは自ら両の指先に、煌々とした光を灯した。

 その後はまるで有数のピアニストの様な指捌きで、ミュウの身体の隅々まで接触(タッチ)する。

 これこそ彼の培った医術と、第三段階(サード)の雷属性魔術を結集した絶技。

 自らを特殊な伝導力と化す事で、あらゆる短縮化(ショートカット)を可能とする。

 彼がよく見せるワームホール現象もこの一環であり、彼の辞書に障壁という二文字は存在しない。

 そうして今回はミュウに必要な治療行為と、養生の期間を併せて五分にまで短縮した。

 即ち通常の医術ならば何か月、或いは何年と掛けるべき所を、魔術で反(・)則(・)したのである。


「はいお疲れー。これで一先ずは決勝も出られると思うから、頑張ってねー」


「…あ、ありがとうございます。流石ですね、ノエル隊長」


「いいのいいのー、医療(これ)がボクの役目だからねー。でも次からは用法用量を守るんだよー?いくらボクでも、削れたモノは戻せないんだからねー?」


 ノエルは最後に妖しく笑うと、医療室からフッと姿を消した。

 また他の医療班も引き上げにかかるが、その前に彼らから補足が入る。

 曰く、ミュウは決して以前の様に五体満足ではない。

 過剰な強化薬の摂取による副作用は、今後も何かしら症状として表れる。

 加えてノエルの絶技は自身だけでなく、対象にも短縮を強いている。

 端的に言えばミュウは今回の一件だけで持病を抱え、更には本来なら生きられたであろう何年かを犠牲にしたのである。


「ったく、何をマジになってんだか。お前としちゃあ薬物(そう)までして、勝たなきゃいけねぇ場面じゃなかったろうがよ」


「だってー………簡単に負けたら、同じ正規員として沽券に関わると思ったんですよ。どうせ勝てなくても、善戦くらいはしないと不味いなってー」


「ま、その根性(おかげ)でアールシティちゃんの鼻っ柱が折れるっていう、良い絵面が見えた訳だ。俺としちゃあ、大満足だがよ」


「止めてくださいよー、本当にそんなつもりはなかったんですってばー…」


 決勝の直前ながら、当の二人は言葉を交わす。

 何時も通りの雰囲気で、他愛のない話を続ける。

 まるで決勝と言う概念が、二人の間には存在していないかの様だ。

 それでも刻一刻と時間は過ぎて行くので、何れ話題も尽きていく。


「さてと、そろそろ行くか。あんまり観客(ギャラリー)を待たせても悪いだろ」


「えっ………リュウさんってば、まさか本気でワタシと戦う気なんです?」


「当たり前だろ。なんならもう一回、薬物使用(ドーピング)しても文句は言わねぇぜ?」


「…うわー、普通に引いちゃいます。まさかリュウさんに、既にボロボロな女の子を更に虐める性癖(しゅみ)があったなんて…」


「そんなんじゃねぇよ。ただ………今のお前となら思う存分に喧嘩が出来ると、そう思ってるんだ」


「…認めてもらえるのは凄く嬉しいんですけど、ワタシはリュウさんと喧嘩はしたくないんですよねー」


「…だろうな、お前はそう言うと思ったぜ。だけどよ、これだけ無茶して決勝まで来といて、最後は降参なんてのはつまんねぇだろ?」


「それはまぁ………興行的にも不味いんで、それっぽく演出はしようかなーとは思ってましたけど」


「そんな下らねぇ八百長を考えるくらいだったらよぉ………俺に良い考えがあるんだが、乗らねぇか?」


「…危ないことじゃ、ないですよね?」


「安心しろよ。俺の知る限りじゃ、最高に平和で公平な勝負だぜぇ?」


 龍は不敵に笑うと、最高に平和で公平と謳った勝負の内容を説明する。

 それを聞いたミュウは、少し戸惑いながらも承諾した。

 斯くして二人は決勝の舞台で向かい合い、開始の合図を待つに至る。

 因みに最後の審判は第九部隊長ミストレイが務める事になった。


「んじゃま~、決勝戦開始~」


 何処か気の抜けた声色で、ミストレイは合図する。

 同時にカレンデュラ公式戦の最後の戦いが始まった。

 しかしやはり周囲の熱気は乏しい。

 観客達は勿論、部隊長達の殆どが龍の勝利が揺るがないと確信している。

 ましてや審判のミストレイにおいては、推しの為に有利な判定を下す気満々だった。

 この場で真っ当な気持ちで見物しているのは、僅か四人。

 カレンデュラ第一部隊長レイラと総帥ドルガー、フィーリア王国の国王サンタと王女ルナだけである。


「…って、お~い?二人とも~、もう始まってんだけど~?」


 二人を見回しながらミストレイが催促する。

 開始してから暫くしても、二人に全く動きがなかったのだ。

 次第に観客達も焦れ始めたのか、少しずつ野次(ブーイング)が飛び交いだした。

 そうしてから、漸くと言わんばかりに二人が動き出す。

 しかし何方も攻撃の素振りはない。

 ただゆっくりと歩きだし、距離を詰め、視線を交わした。


「…最初はグー!」


「じゃ、じゃんけん…!」


「「ぽん!」」


 二人の声が同時に木霊する。

 そして二人は互いの利き手を差し出した。

 その上で片や握り拳から人差し指と中指を突き出している。

 片や五本全ての指先を伸ばし、手の平を晒し出している。


「よぉしっ、俺の勝ちだ。って事でミスト姐、宣言頼むぜ」


「は?え~?ど、どういうこと~?何なの今の~?」


「何って、じゃんけんだよ。この世で最も平和で、公平な勝負方法だぜ」


「いや、知らねぇ~………じゃんけん?とか、あ~しの知るどんな文献にもないわ~………ってか、ミュウっちは知ってたの~?」


「え、えぇとですねー………リュウさんが言うには、ニホンって国では当たり前の勝負方法なんだとかー…」


 日本人である龍にとっては、じゃんけんは身近な遊戯(ゲーム)である。

 一方でフィーリア王国の住人にとっては、じゃんけんという言葉(ワード)すら知る由もない。

 しかし単純な三すくみによる強弱関係を競うこのゲーム性は、異世界においても理解までに然程の時間を要さなかった。


「じゃんけん、ね~………ま~、良いんじゃな~い?二人がそれで納得するんならさ~」


 審判であるミストレイは苦笑しながらも、じゃんけんによる勝負を認めた。

 そしてミュウのパーに対して、チョキを出した龍が勝利したことを告げた。

 更にその結果をそのまま、この決勝戦に反映した。

 これにより優勝者は飛来龍に決定したのである。


「むっほっほっほー!じゃんけんとはっ、何とも興味深いぞいな!貨幣の表裏を当てたり、くじを引き合うよりも単純で手っ取り早いぞい!」


「ええ父上、その上で不正行為も難しく思えます。庶民の小さな諍いを解決するなら、打って付けの遊戯かもしれません」


 特等席で一部始終を見ていた国王サンタと王女ルナは、じゃんけんの存在を高く評価した。

 これはカレンデュラ総帥ドルガーも同じ意見であり、後にフィーリア王国では広く浸透する事となる。

 斯くしてカレンデュラ公式戦は、最後はじゃんけんにより幕を閉じた。

 その呆気ない結末に、観客達の間で不満の声は殆ど起こらない。

 寧ろ新しい勝負方法が確立された、記念日だと盛り上がった。

 そして優勝を果たした飛来龍はその栄誉を讃えられ、更にカレンデュラより賞品の贈呈が決定したのである。




此処まで読んでいただき感謝<(_ _)>




拙いですが、もし少しでも楽しんでいただけなら幸いです。




良ければ次回以降も拝読して頂ければ幸い。

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