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アルター・ワールド  ~三画TRAVEL~  作者: 一夜一海
龍編・第二章
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第五幕・タイマン

「…やってくれるやないか。流石はカレンデュラの正規員って訳かい」


 先程まで咥えていた葉巻を握りつぶしながら、ロンゾは言葉を投げる。

 その先には幾重もの銃撃に晒された筈の二人が、無傷な姿で立っていた。

 決してロンゾを取り巻く女性達の腕前に問題があった訳ではない。

 普通なら誰もが蜂の巣になる運命(ところ)を、寸前でゴーレスが覆したのだ。

 ソレは地属性魔術の、第一段階・発生(ファーストステージ)に至っているからこその芸当。

 一時的に分厚い石の壁を出現させる事で、弾丸の雨を物理的に防いだのである。


「だ、団長!いっ、一体何………がっ!?」

 

 少し華奢な優男が、慌しい様子で屋敷へと駆け付ける。

 戦闘とは無縁そうな彼だが、紛う事ないロンゾ山賊団の一員である。

 そんな彼は先程まで外で農作業をしていた。

 そして休憩に入ろうかという所で、偶然にも屋敷の異変を聞きつけた。

 しかしこうしていち早く駆け付けた結果、突如として頭に強い衝撃が走る。

 殴られた、と気付いた時には遅かった。

 そのまま力なく床に倒れてしまい、徐々に意識が薄れ始める。

 やがて全てが真っ暗へと陥る最中、鉄棒を携えながら不敵に笑っている青年の姿を垣間見るのだった。


「くははっ、上出来だ。伊達に最強種族は名乗ってねぇな」


「…何か複雑な気分だべ。言うて俺っち、魔術はこんくれぇしか出来ねぇんだべよ?」


「ソレすら出来ねぇ俺からしてみりゃあ、上出来なんだよ。連れてきて正解だっだぜ」


「そいつぁ良かったべー。そいじゃあこっからは、おまんに任せて良いんだべな?」


「ああ、美味しい所はきっちり戴いておくからよぉ。他の連中は最強種族の名に懸けて、何とかしてこい」


「んがっがっがっ、任しとけだべ!」


 ゴーレスは意気揚々と屋敷から外へ出る。

 そして程なくして、外の戦闘員と交戦状態に突入した。

 一方の龍は鉄棒を担いだまま、ロンゾの許へと近寄る。

 これに対して取り巻きの女性達が割って入ろうとするが、他でもないロンゾ自身がこれを制した。


「兄ちゃん、()る前に一つ聞かせてくれるか。様子からして自分、魔術師とはちゃうんよな?」


「…だったらどうした?」


「ふーん………それで、ようカレンデュラの正規員にまで上り詰めたもんやなぁ」


「…何が言いてぇんだ?」


「素直に感心してるんやで。今の世の中で魔術が使えんってなると、えらい肩身が狭い思いするやろ?」


「…だから山賊になりましたーって言い訳なら、俺にとっ捕まってからにしろよ」


「たはは………しゃあないな。似た境遇(もの)同士、仲良く出来そうって思ったんやけどなぁ」


 ロンゾは何処か諦観したように笑い、ゆっくりと立ち上がる。

 そして取り巻きの女たちを退かせながら、背後の棚に置かれている武器を手に取った。

 ソレは二振りの両刃の斧。

 同じ装飾が施された、対となる逸品。

 その上で柄の部分は短く、誰もが片手で扱える様な小振り具合。

 ただし戦闘における威力を求めるなら、自ずと使い手の練度が必要になる仕様である。


「ほな、行くで」


 ロンゾは宣言と同時に、対の斧を構えて大きく跳躍した。

 其処からの滞空は、標的との間合いを一瞬で詰める程の芸当だった。

 しかし対する龍も、至って冷静に鉄棒で迎え討った。

 自ずと互いの得物が衝突し、豪快な火花を散らす。

 その後も立て続けに数合、互いの攻防が激しく交差した。

 そして何方からともなく、得物を構えたまま一呼吸を置いた。


「…やるやんか」


「アンタもな」


 改めて向かい合った二人は、互いに不敵な笑みを浮かべて見せた。

 しかし以降は無言と無表情で没頭する。

 そうして戦況は暫く膠着した。

 単純な腕力と武器の攻撃範囲(リーチ)という点では、龍に分がある。

 対するロンゾは脚力と技巧で不利を補い、何度も懐へと差し迫る。

 実際に冷や汗を流す様な場面は、明らかに龍の方が多かった。

 ただしロンゾの方も時間の経過に連れ、消耗による大粒の汗が滴る様になっていた。


「うおっ」


「っとぉ!」


 ソレは既に何回も二人で熟していた、得物同士の衝突時に起きた出来事だ。

 まるで悲鳴の様な音色と共に、龍の扱う鉄棒が真っ二つに折れたのである。

 理由に関してはこの場に居る誰にも答えは出せない。

 ただこれまで龍の保っていた攻撃範囲(リーチ)の長さによる優位性が、突如として失われた事だけは確かだった。

 そしてこの機をロンゾは見逃さない。

 持ち味の脚力を最大限(フル)に活用し、決着へと向けて迫る。

 しかしこれに対する龍は、突如として踵を返した。

 そして背中を晒したまま、広い屋敷の中を文字通り逃げ回る。

 時には屋敷内にある物を投げ付け、ロンゾの動きを牽制する。

 場合によっては取り巻きである女性達の方へと接近する事で、ロンゾ自身に攻撃を躊躇わせる。

 其処には先程までロンゾと真っ向から打ち合い、互角を演じていた人物の面影は微塵も感じられない。


「くっ………ええ加減にせぇよ自分!」


 思わず吐露した苛立ちと共に、ロンゾは大きく跳躍した。

 ソレは最初の立ち合いと同じく、龍との間合いを一挙に詰める芸当である。

 しかしこの攻撃偏重(まぎわ)を鋭い三白眼は見逃さなかった。

 次の瞬間、ロンゾの顔面に激痛が走る。

 原因は先程に半減した龍の鉄棒が直撃したのだ。

 しかもこの鉄棒は単に振るわれたのではなく、跳躍する瞬間を狙い澄ました投擲に因る物である。

 そのダメージは反動で殊の外に大きく、ロンゾは思わず仰向けに倒れてしまった。


「ちょっと、大丈夫なの団長!?」


「こ、この卑怯者!ちょこまかと逃げ回って、何のつもりなのよ貴方!?」


「何のつもりって、そりゃあ喧嘩だが?」


「け、喧嘩…?」


「ああ、久しぶりの真っ当な喧嘩だ。同じ領域(フィールド)の、同じ段階(ステージ)で、同じ意識(バカ)が出会ったなら、やっぱ喧嘩(こう)じゃなきゃなぁ」


「…ふざけんな、何が同じだ!私達の団長を、アンタみたいな連中と一緒にするんじゃない!」


「…ええんやで。魔術師でもないワイ等は皆、何処まで行こうとそこいらの子供が騒いでんのと変わらへん………このクソったれな世界やと、なっ!」


 ロンゾは倒れた状態から腕と首に体重を乗せると、足からの勢い(ネッグスプリング)で器用に跳ね起きて見せる。

 しかしその鼻っ柱は見事に折れており、特徴であるサングラスにも亀裂が走っていた。

 それでも対の斧は両手から離しておらず、今一度の決戦に向けて構える。

 一方の龍は鉄棒の投擲により、現在は素手である。

 その上で特に構えるでもなく、その場で足を止めていた。


「…ええんか、そのままで。それとも逃げ疲れて、観念したんか?」


「くははっ、そんな訳ねぇだろ。つーか、観念するなら()()()()そっちの方だろうが」


「…なんやと?」


 龍の発言にロンゾが訝しんだ、その直後だった。

 ロンゾと取り巻きの女性達の視線が、ある一点へと一斉に集中する。

 何故なら屋敷にある窓が一つ、突如として粉々に砕けたのだ。

 その原因は人物()にある。

 要するに人が窓の外から突っ込んで、文字通り割って入ってきたのである。

 これが先達て龍とゴーレスに先輩風を利かせていた、ザルという名の男だった。

 しかしその顔面は既に無数の打撲痕で染まり、誰とも解らぬほどに腫れ上がっている。


「…だ、団長…」


 ロンゾの取り巻きである女性の一人が、殆ど消え入りそうな声を上げる。

 そんな彼女の視線の先は、割れた窓の向こうの景色。

 即ちロンゾ山賊団の、中枢の状況である。


「んんんがががーーー!」


 独特の気合いと共に、剛腕が打ち鳴らされる。

 そして一人、また一人と山賊団から犠牲が続出した。

 早くもその合計は、中枢に身を置くメンバーの三割にまで達しつつある。

 決して彼等が弱いのではない。

 彼等とて一般的な範疇なら、間違いなく勇猛な部類だ。

 しかし今回の相手は、自称最強を謳う鬼人族の男である。

 その顕在能力(ポテンシャル)は、正しく鬼という言葉(ワード)に相応しい。

 特に単純な格闘戦を挑んだならば、直ぐに大半の者がその格差を痛感するだろう。

 実はザルもその内の一人であり、先程ゴーレスの一撃で見事に吹っ飛ばされたのだ。

 そして偶然にもその方向が、ロンゾの屋敷の窓だった訳である。


「ちょ、ちょっと待って………なんなのよアレ、やばくない?」


 また別の取り巻きの女性が、声を震え上がらせる。

 その視線の先には、無数に散見される氷像。

 しかもこの氷像、一つ一つに人間の姿が映し出されているのだ。

 実はゴーレスから少し後れてもう一人、中枢の戦いへと参戦していた。

 ソレは金髪をクラウンブレイドに整えた、冷たい視線の少女。

 更に爪を氷の様に尖らせ、小さな雪の結晶が散りばめられた専用衣装(ドレス)を纏う。

 そんな彼女が通過するする際には、凄まじい冷気が氷の軌道(レール)を敷く。

 後はそのまま優雅なアイススケートへと興じれば、近付いた敵は忽ち凍り付いて行くのだ。


「うぉーい、ちっと待つだべよアールシティーっ。おまんがそげん好きこいて暴れっと、俺っちの出番がなくなるだべよー!」


「…好きに暴れているのは貴方でしてよ、このろくでなし!」


 不意にアールシティが、無数の氷柱をゴーレスへと向けて放った。

 ソレは一つ一つが刃よりも鋭く、弾丸よりも速い。

 しかしゴーレスは鬼人族の持つ顕在能力(ポテンシャル)を発揮し、大きく空へと跳躍する事で難を逃れる。

 代わりにゴーレスを遠距離から攻略しようとしていた山賊団のメンバーが、不意を突かれて氷柱の被害に遭うのだった。


「んががっ………なしてそげん怒ってるんだべかー………んがっ、さては女子(おなご)特有の()()()って奴だべかー!?」


「なっ………こっ、このっ、痴れ者ぉ!」


 顔を真っ赤にしたアールシティは、再びゴーレスに対して氷柱を展開した。

 その数は先刻よりも遥かに増し、一種の弾幕と化している。

 だだし今回は感情の昂ぶりにより、照準は出鱈目(でたらめ)になっていた。

 自ずとゴーレスとは無関係な位置だった、ロンゾ山賊団のメンバーが次々と被弾する。

 一方でゴーレスはと言うと、頭に疑問符を抱えながらも土属性魔術を行使。

 自身の図体を隠せるだけの大きな岩を発生させ、弾幕による危機から何事もなく逃れていた。


「ど、どうしろってんだよこんな化け物共を!」


「そんなの知るかぁっ、団長に聞けぇっ!」


「その団長が居ねぇだろうがぁっ、まさかもう逃げたんじゃねぇだろうなぁ!?」


「かもしれねぇな………あの人、割と狡賢(ずるがしこ)いからよぉ!」


「くそぉっ、こうなりゃ俺達もとっとと逃げた方が良いんじゃねぇのか!?」


 最早、大勢は決していた。

 現時点で中枢に残るロンゾ山賊団メンバーは、殆ど戦意を喪失している。

 実際に僅か二人を相手に、百人を超える戦闘員が全滅の危機に瀕しているのだ。

 その上で団長が不在なのだから、選択の余地は二つに一つ。

 このまま立ち向かって玉砕するか、或いは背中を見せての逃走である。

 しかしそんな危急の折、更なる参戦者がこの場に現れる。

 その数はおよそ百人程度で、その先頭には栗色のサイドポニーが特徴的な少女の姿が在った。


「なっ………何で、こんな所にまで敵の部隊が………前線の奴らは何やってんだよぉ!」


 ロンゾ山賊団の一人が、思わず彼方に向けて吠える。

 当然ながらその声色は前線には届かない。

 仮に届いたとしても、今は無駄である。

 既にロンゾ山賊団の前線は壊滅していた。

 カレンデュラ北方支部長、マック・ド・フェルナンデスが率いる精鋭達の奇襲によって。


「支部長。前線に張っていた山賊共の身柄は、全員確保しました。何時でも護送できます」


「ご苦労。では身共達はこれで引き上げる」


「…宜しいので?まだ中枢には敵も幾らか残っている筈ですが…」


「無用。これ以上は若き風が吹くのを妨げる」


「…御意に。年寄りの我等は、後始末に勤めるとしましょう」


「しかし支部長、何とも拍子抜けですな。連中も少しは骨があるのかと思いきや………半数に満たぬ我らの前に、殆ど何も出来んとは…」


「何もさせなかった、が正解である。身共とて殊の外だった。半ば死に体だった筈の討伐部隊が、身共達の奇襲に合わせて挟撃とは…」


「確かに………我々だけなら、もう少し時を費やしたやも…」


「…偶然ですかね?それともあの四人の中に、予めここまでの絵図を描いた者が?」


「不明。不明だが………仮に後者ならば、頼もしい事だ」


 仏頂面に微かな笑みを浮かべながら、マックは前線の山賊達を護送する為に退却した。

 一方の中枢では、到着した討伐部隊が瞬く間にその場を掌握して行く。

 単純に数で勝ったのもあるが、これまで煮え湯を飲まされた彼等は勢いからして違った。

 また指揮を預かるミュウも的確で、一人たりとも逃さないよう包囲を徹底している。

 残るはロンゾの屋敷のみだが、此処には龍が居る。

 この事実がある限り、カレンデュラ側の者に敗北はない。

 例え此処から龍が倒れたとしても、今日この日にロンゾ山賊団が崩壊する結末は確定したのだから。


「…陽動、だったんか。この期に及んですっ呆けた事しよるとは思うたけど………自分、始めからワイを前線に立たせん為の捨て駒やったっちゅう訳か」


「勘違いすんな、俺は別に捨ててねぇ。ただ乗っかったんだよ、この慌しい状況にな」


「…ええんか、それで。そうやって知恵を絞り、体を張ったって報われへんぞ。古来より魔術が蔓延る、このクソったれな世界やとな」


「だからどうした。この世界で魔術が蔓延ってるってんなら、俺も同じ段階(ステージ)に立ってやる。誰が何と言おうと、必ずなぁ」


「…そうかい。ならこれ以上、ワイがどうこう言うてもしゃーない………覚悟してもらうで」


 ロンゾは勢い良く対の斧を振り上げると、全開の踏み込み(フルスロットル)で突撃する。

 其処には一切の余裕はなく、剥き出しの殺意が漲っていた。

 対する龍は素手のまま、今度は真っ向から受けて立つ。

 其処には一片の曇りもない、確かな気迫が宿っていた。

 そして自ずと二人の勝負は別れる。

 しかし二人に相違などない。

 ただより熱く、より激しく、この喧嘩(せつな)に輝きを放っていた。

此処まで読んでいただき感謝<(_ _)>




拙いですが、もし少しでも楽しんでいただけなら幸いです。




良ければ次回以降も拝読して頂ければ幸い。

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