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エピローグ

第一部 港町デイビーデレでのピスケースの孵卵器事件が終わりました。

エピローグと言うか次のお話に進むための第一部のエンディングです。

 プロローグ


「ウメエ、とにかくウメエ! なんつうの? この飯うまああい!」

 デニの語彙力が仕事をしていない。

 いや元々、語彙力なんてない。

「ペスカトーレってこんなにウメエの?」

 一行はアナの希望で船乗りの胃袋亭に来ていた。

 ささやかな打ち上げだ。

 大男に精悍な顔つきのイケメン。ヴォーティー船長も同席だった。

 ラマンチャとデニは食べたことのないご馳走に目を輝かせている。

 店の奥にある大テーブルを占拠して宴会だ。

「ラマンチャが作るのもウメエけど、これ、ちゃんと、スゲエ魚介の味がするぅ!」

「うるせえな、俺のは余りモン突っ込んだだけだかんな一緒にすんな」

 もう作ってやんないぞと溢しながらフォークを口に運ぶ。

「おおお、確かにうまいなデニ」

「だろ?」

「アナ、いいのかこんなにご馳走になっちゃって?」

 ラマンチャはパスタを飲み込むとアナに礼を言った。

「いいのよ、たくさん食べて?今日はなんていうか打ち上げよ」

 セバスチャンをちらっと見て言い直す。

「遠慮せず、たくさん食べてくださって、よろしくてよ」

「今更、その口調に戻す?」

 とラマンチャが言うとヴォーティーが愉快そうに笑った。

「セバスチャンがうるさくて」とラマンチャに小声で耳打ちする。

「聞こえてますぞお嬢様。まあ今日は無礼講ですからな」

 と咳払いのセバスチャン。

「そう来なくてはね、ありがとうセバスチャン♪ どれ食べよっかなー」

「この面子で気を遣う事もないでしょう」

 やれやれという表情で料理を口に運んだ。

 白身魚のソテーにトマトソースをかけてある。

 あっさりとした白身魚にトマトの酸味が合う。かみしめると隠されていた魚の旨味が口に広がって頬が幸せになった。

「これは確かに旨いですな、お嬢様」

「でしょう?ふふーん♪」と上機嫌に鼻歌を歌う。

「結構暴れたからお腹ぺっこぺこだったのよ」

 とてもあの大立ち回りをしたお姫様と同一人物とは思えない。

 無邪気に笑うその笑顔は十四歳の少女のそれだった。

「暴れ過ぎでは?」とイケメン。元はサメ頭の副長だ。

「あら、副長さんの前で暴れたかしら?」

「オレの前では暴れたな」と笑う巨漢の元海老頭水兵長。

「危うくロブスターのカルパッチョにされるところだった」

「そんなに暴れてませんわ」と笑う。

「でもみんな人間に戻れてよかったね」とデニ。

「お前も男に戻れてよかったじゃねえか、女装したお前が船長引っ張ってたってコイツから聞いたぞ?」とイケメン副長が親指で水兵長を指す。

「うわあ、忘れて!」と手で顔を覆うデニに水兵長は大きな体をゆすって笑った。

「人間に戻ったら声でけえなーおっちゃん」

「海老の身体は硬くて丈夫だったんだが、声が小さいのが難点だった」

「けっこう、おっちゃんら順応性高いよな」とラマンチャ。

「じゅんおうせい?ってなんだラマンチャ」

「まあ成っちまったんはしょうがねえし、船長についてくと決めたからな、蟹とか海老とか細かいことは気にしてない」

 と大声で笑う元海老。

「大雑把すぎんだろオッサン」

「まあ俺はサメだったから虫歯全部治ったし、結果オーライだ」

 イケメン副長は白い歯をニッと出して笑った。

 ピカピカに光っている。

「ずいぶん白いなー」とデニが感心すると「全部生え変わったからな♪」と笑う。

「なんつうか海の男は逞しいぜ」とラマンチャも笑った。

「あ、そうだ船長、あの船、直すの?」

 デニにとって船長もロウイーナ号も英雄だ、デニは心底心配そうだった。

「ふむ、竜骨が無事なら直せるんだが、明日にでもモリーノから技師が来る、見てもらわんと何とも言えんな」

「モリーノってあの風車がある?」とラマンチャが尋ねる。

「海からの風を利用して地下から水をくみ上げてるんだ」と得意げにイケメン副長が説明する。彼の故郷らしい。

 二つに割れた山から染み出す地下水はとても美味いらしく、育てられた香味野菜がまた美味(うま)いと聞く。

「そうだ、モリーノの造船所ならセルバンデスの事がわかるかもしれん」と船長がアナに言った。

「ええ? どうしてですの? 大尉」

「いくら何でも船ぐらい直すだろ」と船長は説明した。

 帆船は定期的に陸にあげてフジツボを落としたりメンテナンスが必要なのだ。波の大人しい東側にはいくつか造船所があるが、軍艦クラスの大型船を修理できるところは少ない。

「セルバンデスは王の直属で、俺も数回しか会ったことはないし、会ったというか…すれ違った程度だな。正直よく覚えていない。なにせ最後に会ったのは十年近く前だからな」

 ヴォーティーはワインを口に含むと転がすように味わった。

「旨い」

 場末の酒場で出る安ワインだが船長は美味しそうに目を輝かせる。

「なにせ蛸の味覚はちょいと人間とは違っていたからな、久しぶりに味わう気がする」と笑う。


「ま、何をしていたのか、どんな船に乗っていたのかわからんが…学者のいう事にはまず魔導器の輸出を命じられていたのだろう? あれを陸路で運ぶとは考えにくい」

「そうだ、学者先生は何故魔導器を持って海に出たのかしら?」

 アサリの入ったリゾットを口に運びながらアナが聞いた。

 大ぶりのアサリがぷりっと良い火加減。思わず「んんーっ」と声を上げる。

「実験とかなんとか言ってたぞ?」とイケメン副長。 

「問いただす前に逃げるように消えたから真相はわからんが、どうもキナ臭いな」船長が無い髭のあたりを撫でる。

「まあ天使の卵というか欲望の種子持ってた俺たちが箱開けちゃったので、ついでに学者先生もイルカ頭になっちゃったから気の毒ではあるな」

 そう言って元海老が海老にかぶりついた。バジルソースがまた旨い。

「そうそう、そういえば大尉はどうして魔導器を追っていたの? やっぱりロウィーナさん?」

 アナが興味ありげに訊いた。

「想像通りだ。故郷に…タエト王都に恋人(ロウィーナ)を残してきたのでな、せめて弔ってやりたい」

「やっぱり」

「まあそうだ」とちょっと照れながらワインを流し込む。

「恋人を弔うために海賊か、ロマンチックですわ大尉」

「ちゃかすなアナ嬢」と三角帽を目深にかぶる。

「船長照れてる!」デニが笑う。

「おう、そうだデニ、お前には世話になったな、俺は自暴自棄になって危うく死ぬところだった」

「いいって事よ、気にすんな、俺も髭抜いちゃったし」

 とデニが白い歯を見せる。

「抜けた髭は痛いな」と笑う。ない顎鬚の代わりに割れた顎を撫でた。

「船長、顎割れってそういう意味だったんだな」

「デニ、お前なーっ、年長者には敬語だろうが」

 とラマンチャが窘める。

「良い良い、今日は無礼講らしいし、なによりデニは私の恩人だ、それに顎は私のチャームポイントだしな」

 と杯を掲げた。

「この盃に誓おう、デニ殿が困ったときは俺を頼れ、必ず助けよう」

 憧れの船長に恩人だと言われ照れるデニ。

 少し考えるとデニは目をキラキラさせて船長に頼んだ。

「じゃあ早速だけど、おれを船長さんの船に乗せておくれよ」

「なんだ船乗りになりたいのか?」と水兵長。

「うん」

「そうか、仕事はキツイぞ?」

「平気だよ、俺の親方より水兵長さんやさしいし」

「仕事になったら別だ、厳しくしないと海の上で命を落とすからな」

 と大きな声で笑いながらデニの背中をバンバン叩いた。

「それが優しいって言うんだよ」とデニはニコニコと水兵長を見た。

 船長を一緒に引っ張った後、なんだか意気投合したようだ。

 水兵長は自分の弟みたいだとデニの頭をくしゃくしゃと撫でた。


「しかしあの魔神(ゼリー)、お茶が弱点だとよくわかりましたな」とセバスチャン。

「いや、投げるもんがお茶しかなかったから、すんげぇまぐれ」

 ラマンチャは輪切りのイカを口に放り込むと白い歯を見せてニッとわらった。

「それはそうと、魔導器壊しちゃっていいのかよ? 話の流れからなんというか、みんなタエトの王都に入ろうとしてるだろ?」

「まあ、いくつも同じのありますし」とサラッとアナが言う。

「いくつもあんのかよ!?」

ピスケース(うお座)の魔導器は貴重ですが珍しくありません、それに暴走したモノは使い物にならないので」

「うお座? まあいいか、なんか訊くの怖そう」

 ラマンチャは海老のフリッターを甘辛のソースにつけて頬張る。

「アナたちも王都に戻りたいの? でも、七年も経ってるんだからみんな死んでるよね?」とデニが首をかしげる。

「多分…いえ必ず国王様は生きてらっしゃるわ」

 アナの口調は確信が込められていた。

 しかし船長たちには信じがたい。

「む? 食料の備蓄など、七年も持つまい?」

 あれだけの軍が駐留していたのだいくら王都とはいえ兵站が崩壊する。

「スコルピウスの魔導器があれば…」

「スコルピウス…さそり座か?」と船長が尋ねた。

「スコルピウスの魔導器は人を石に変える」

「石に? なんで?」とデニが疑問を投げかける。

「石になれば食べ物も水も必要ないからですわ」

 船長はアナの話を聞いて立ち上がった。

「それでは…ロウィーナは…」

「きっと生きていますわ大尉」

「信じていいのかドルシアーナ姫」

 アナは立ち上がって船長に向き直るとサーベルを右脇に立ててこう言った。

「大尉、私は貴方が私に協力してくださると言うのなら、私は私の力の及ぶ限り、あなたの恋人をタエトから救い出すと誓いましょう」

 ヴォーティー船長も右脇に剣を立てて誓った。

「貴女が私の恋人を救うというのなら、私は貴方に忠誠を誓いましょう」

「命の恩義に加え、わが愛しのロウィーナまで。ドルシアーナ姫、船が治り次第、必ず駆け付けます」

 海の精霊に誓って。


 


二人旅だったアナ姫に仲間が増えました。

第二部は元国王直轄の海賊セルバンデスの行方を追っていく旅になります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 第一部、読ませていただきました。 非常にキャラが立っており、描写も映像が頭に浮かんでくるようでありました。 読んでいて楽しかったです! [一言] これからも継続して読ませていただきますぞ …
[良い点] キーアイテムの魔導具シリーズが出てきて、アナ姫の旅の目的も徐々に分かって来て、ラマンチャがイイ感じのムードメーカーになり、ヴォーティー船長の想いと騎士の誓いのような気品に溢れた姫の立ち振る…
[良い点] キャラが生き生きしていて良いですね
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