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嵐を呼ぶお姫 第二部 (36)デイビーデレ郊外大決戦

悪魔と化し嵐のように荒れ狂うエドアール。

必殺の打撃であるヘンリエッタの石弓隊は間に合うのか?


西海岸東側丘陵ヘンリエッタ


「ヘンリエッタ様、あの少女とパンチョス様が!」

 遠目に見える悪魔(エドアール)は荒れ狂う嵐のように拳を振り回していた。自身の足元を走り回る二人にめがけて拳を振り下ろし、吠え、炎を吐き散らす。


「我々が到着する前に殺されてしまいます」

 石弓兵のリーダーが心配そうにヘンリエッタを見た。

 行軍の速度を速めたいと進言しているのだ。

「慌てるな。あの二人は貴重な時間を作っているのだ」

 危険を冒して悪魔の懐に飛び込んだのは行軍中の戦力に注意を向けさせないためだ。

 300フィルの距離など、あの悪魔の大きさからすると一瞬である。

 二人が悪魔を釘付けにしているからこそ我々は安全に行軍できるのだ。

 あの年端も行かないお嬢ちゃんが命を懸けてチャンスを作っている。

 無駄にするわけにいかない。

 ヘンリエッタにできる最善手は目立たぬよう、配置につくまでに息を切らさぬよう、配置について最速で射撃姿勢に入れるよう行軍する事なのだ。


 石弓の矢が減速せずに着弾できる最良の距離まであの「お嬢ちゃん」と「パンチョス」を信じて任せるしかない。

「死ぬなよ」 

 逸る気持ちを抑え、奥歯を噛みしめながら進軍した。


「アナ様!」

 キャリバンが吼えた。

「キャリバン! 来てくれたのですね」

 傍らにはタエトの重騎士。

 アナは面識がなかったが鎧の意匠はタエト騎士のものだ。

「それに騎士の方、助力感謝いたします」

「タッソ、待ちわびたぞ! お前はあの黒いのを何とかせい、あの黒いのが悪魔の力の源だ」

 ここに来て援軍は値千金だ。

 パンチョスは嬉しそうに腰のロングソードを放り投げた。

「パンチョス様は?」

「手首が逝っとる、それに曲がった剣では役不足だろ?」

 曲がった剣、凹んだ板金鎧、無くした盾を見てキャリバンとの戦闘が如何に激しかったかを物語っている。

「恐れ入ります」

「出来るだけ切り捨てろ、悪魔をこれ以上巨大化させては勝機を失う」

「承り」

 タッソは剣を受け取ると黒い触手に向かって駆けた。


「アナ様、後は私が」

 キャリバンは言うが速いか悪魔の懐に一呼吸で入り込み、両手で剣を振るった。

 ゴズっと骨が響く音がして悪魔はキャリバンの方を振り向いた。

 脛の部分を強打したのだ、大きく咆哮すると一瞬、身をかがめる。

「痛覚はあるようですね、しかし硬い」

 悪魔の毛が刃を通さない。

 もともと騎士剣はアナのサーベルと違い斬るための刀ではない、この硬い体毛がクッションになりダメージが通らないのであろう。


「ヘンリエッタが配置に着くまで気を引くのだ、矢の貫通力なら通る筈!」

 パンチョスは秒数を数えて退避する。

「キャリバン、悪魔さんは連続で炎を吐けないようです。が、間もなく回復します」

 アナは戦いの中で悪魔の攻撃を分析していた。

 悪魔の炎は連続で吐けない。

 吐く前に大きく息を吸う。

 ドラゴンと違い体内の燃料で炎を生成しているのではなく魔法属性である。

 恐らく魔法で生成した炎を、息を使って押し出しているのだろう。

 拳を振るう際には素人特有の予備動作がある。

 体力は無尽蔵の様だ、証拠に息が切れない。

 全身に生えた毛は硬く、巨人族が鎧を着ている様だ。

 魔力は感じられるが魔法は使わない。

 恐らくエドアールが魔法を使えないからだろう。

 関節は人間と同じ、体毛の下の筋肉の躍動から筋肉を動かして行動していることがわかる。

 これはとても重要でアナがこの暴力の嵐の中、的確に回避できているのはこれらの情報から、予備動作を察知出来ているからなのである。


「大楯隊、石弓兵のカバーに入りました!」

 タッソの部下が戦況を知らせる。

「石弓隊も間もなく配置につきますね」

 特に打ち合わせなくともわかる。

 射撃に最適な位置はあの小さな丘である。

 流石はパンチョスである。最良の射撃ポイントから最も有効な距離に誘導しつつ戦っている。

 戦の導線は完成しつつあった。

 大楯隊が進路を妨害し、アナとパンチョス、そして新たにキャリバンが悪魔を挑発し、意識を石弓隊に向けさせない。


 タッソと大楯兵の一部が闇の触手を薙ぎ払い力の供給を断つ。 

 この作戦のもう一つの要だが次々と現れる闇の触手にタッソ達大楯隊は苦戦していた。

「タッソ様、キリがありません!」

 

 大楯兵の武装が槍であるためタッソ以外の大楯兵は触手の処理に向かないのである。突き刺すだけでは怯ませることは出来ても沈黙させるには時間がかかる。武器の相性が悪いのだ。

 大楯を捨てて短剣を使うも、短剣程度では歯が立たない。


「泣き言は後だ、コイツを何とかしないと手遅れになる」

 しかし、確かに人手は足りない。

 自身の折れた剣を部下に貸すが2馬力では追いつかない。

 切った傍から触手が生える。

「くそう、ヘンリエッタ、頼む」

 タッソは丘を睨んだ。

 

ここまでお読みくださいまして誠にありがとうございます。

アナ達の戦いもいよいよ大詰め。

最後までお付き合いくだされば幸いです。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 改めてキャリバンがおっかないのと、タッソの根性を痛感しましたね タッソ、タエトの伊達男って感じです
[良い点] 息をするのを忘れて読んでいて、動悸がスゴいです……。 連携! 敵であった者との連携!! いい!! ヘンリエッタ……頼む……!! 次話までに呼吸を整えておきます。
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