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嵐を呼ぶお姫 第二部 (21)屍メイド

お久しぶりです。

「嵐を呼ぶお姫」更新いたしました。

体調を崩してたこともあり、スランプでもあり苦しい2か月でございましたが発表で来て何よりです。


前回はパンチョスの行動原理が少し見えた回でしたね。

今回はラマンチャ回です。



(21)屍メイド走る。


 追いつかれたら死。

 ラマンチャは逃げた。

 走りながら作戦を考える。

「くそ。どうすれば」

 屍は疲労を感じないのか脚力に衰えは無い。

 最初は逃げ切れると思ったが、疲労が溜まっていくに従い追いつかれてきている。今はもう屍メイドの攻撃範囲だ。

 この羊皮紙はすごく大事なものなのだろう、これを持っている限りどこまでも追いかけて来る。しかし折角手に入れた貴重な情報だ、手放すわけにはいかなかった。

「殺殺殺殺シャアアアアアアア!」

 メイドの振るう短剣が背中を霞める。

「うわああ」

 先日も生きた心地はしなかったが屍メイドが発する恐怖は段違いだった。

 パンチョスは何処か手加減していた、ラマンチャが人質になると踏んでいたからだ。しかしこの屍メイドは殺意が違う。

 ラマンチャの太腿とふくらはぎが悲鳴を上げ大量の乳酸生成される。筋肉が酸性に傾き、疲労が筋肉を硬直させる。

 走れなくなった時点で死。

 喰いしばった歯の隙間から息が漏れ、肺が爆発しそうだった。

アドレナリンが肝臓からグリコーゲンを供給する、脚の筋グリコーゲンが燃焼し続け、猛烈に筋肉を躍動させる。脳内麻薬が苦痛を取り去り興奮が痛みを消す。

「くっそおおおおおお!」

「殺殺殺殺シャアアアアアアア!」

 肺が燃える、呼吸のし過ぎで痛いくらいだ。

 しかし屍メイドの脚色は衰えない。

 ゴールが見えない中で限界が近い。

 一気に引き剝がして逃げ切りたいが相手は疲れを知らない。

 一定の距離を保ち、一定の速度で走るんだとラマンチャは自分に言い聞かせた。

「くっそ!」

 ラマンチャは仕方なく一番埃を被っていた羊皮紙を投げ捨てた。直近で使用していない物は今回の作戦に関係が薄いと考えたからだ。

 案の定、屍メイドはそれを拾いに走り戻る。羊皮紙は地面に落ちて広がると水を拭き上げて屍メイドを襲う。しかし、屍メイドはそれを抱きかかえ抑えると再びラマンチャを追った。

「殺殺殺殺!」

 口から呪詛を吐きながらラマンチャに肉薄する。

ラマンチャはもう一つの羊皮紙を今度は横に向かって投げた。

 案の定、屍メイドはそれを拾いに走り戻る。羊皮紙は地面に落ちて広がると、今度は炎を上げて屍メイドを襲った。

 屍メイドはそれを物ともせず抱きかかえて丸めると、それも抱えて再びラマンチャを追った。なんかアナに聞いた東の国の山姥話のようだとラマンチャは背筋が寒くなる。

「はあはあ、あの話、最後どうなるんだっけ?」

 ラマンチャはなんとか思い出そうとするが、続きはアナが途中で寝てしまい結末を聞いていない事を思い出した。助かるのか、助からないのか知りたいところだが、今はそんな呑気な事は言ってられない。あの話の少年はどうやって助かったんだ?

 何かヒントはないか、助かる方法と言えば全ての羊皮紙を捨てる事だが、最後に残った羊皮紙はたぶん当たりだ。

 ラマンチャは助かる方法を考えてそこに行きつくがその考えを捨てる。

今、助かる方法を考える時じゃない! 考えるのは切り抜ける方法だ!

 この屍をどうにかして情報を持ち帰るのは自分だけだ。

 羊皮紙を拾った屍メイドが再びこちらを睨む。

「オマエ、ゴ主人様デハナイナ?」

 ラマンチャの心臓は痛いぐらいに脈打つ。


――アナはあんな小さな身体で大きな使命と戦っている。

 オレたちが希望を捨てて地面を見ながら生活している間、アナは空を見ていた。

 最初は身なりの良いお嬢様に恩を売ろうと近づいた。

 スリ師を追って酒場を見張っていただけだった。

 でも会ったとたんにアナは偉そうな貴族と違うと思った。

 自分に関係ない庶民を助けながら戦っていた。

 貴族にとって庶民は虫けらだ。

 父さんも母さんもあの戦争で死んだ。

 この街に竜人達が攻め入った時も普段威張っていた貴族や騎士は僕らを見捨てて逃げた。

 でもアナはケチなスリ師ですら命を助けた。船長も、あの学者も、知り合ったばかりのオレの為に身体を張ってパンチョスから守ろうとした。

出来るかラマンチャ。

「うん」

死ぬかもしれないぞ。

「うん」

「好きな女を命がけで守るのが男なんだよね父さん」

ラマンチャは心の中で頷くと、屍メイドに向かって振り向いた。

「うおおおっ! 来い」

 片手に最後の羊皮紙を盾のように広げ突き出す。

 どうやら最優先は羊皮紙の確保らしい。屍メイドの短剣が羊皮紙の前でぴたりと止まった。ラマンチャはその隙に屍メイドが持つ羊皮紙を蹴り上げた。

 宙に舞う羊皮紙を手に取ろうと無防備に手を伸ばした瞬間、羊皮紙からは炎が噴き出して屍メイドを焼いた。しかし衣服に炎が上がっても怯むことなく羊皮紙を抱きかかえ、再び突進してくる。

 手から短剣を取り落とし、大事なものを抱きかかえるように羊皮紙を守る。

「殺シャアア!」

 ラマンチャに突進すると綺麗な歯並びを見せて噛みついてきた。

 ラマンチャは咄嗟に羊皮紙を後ろに落とすと屍メイドはラマンチャを押し退けてそれを追った。

「ごめん、君の使命を利用した」

 ラマンチャはすかさず後ろ足でそれを蹴り上げてからキャッチすると身体を捻って屍メイドの脇をすり抜けた。

 体勢を崩した屍メイドの身体に炎が燃え広がる。不気味な悲鳴を上げながらもラマンチャに迫るが、ついに力尽きたのか右手を虚空に伸ばして動かなくなった。

 断末魔のような殺意が空に吸い込まれていった。


 ラマンチャは後ろを振り向かずに闇を駆け抜けた。


ついに屍メイドを振り切ったラマンチャ。

一方、市街のアナは無事に大天使の卵を奪取できるのでしょうか?

パンチョスの布陣と包囲網が完成するが速いか、セバスチャン・キャリバンコンビが奇襲するが速いか。

闇討ちするには夜明け前が勝負という事でみんな走ります。

あ、大天使の卵を持ったエドアールも走っています。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 屍メイド怖い……(( ラマンチャと一緒に逃げている感覚がたまりませんでした。 頑張れラマンチャ! アナ姫のために!!
[良い点] ラマンチャ・・・! 下を向いていたキャラが憧れの存在に引っ張られて上を向いて歯を食いしばる展開って、どうしてこうもグッとくるんでしょうね・・・! [一言] 羊皮紙を使った見事な攻防。 やは…
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