嵐を呼ぶお姫 第二部 (15)海賊対騎士
ついに決着か?
パンチョスの一撃がヴォーティーを襲う。
傷ついたアナ、多勢に無勢の一家。
第14幕の始まり始まり!
(15)海賊対騎士
ヴォーティーは突きを弾かれ、苦笑いしながら体勢を泳がせた。
「海の戦友よ、さらばだ」
パンチョスもまた今までに無い速度で踏み込むと鋭い突きを繰り出した。
ヴォーティーはよろけながら背を見せる。
腎臓の位置に刃が迫る。
いくら呪いでタフであろうとその位置は急所だ。
パンチョスの右足が大地を踏みしめ母指球から伝達する力が刃先に宿る。
必殺の踏み込みである。
しかしパンチョスが勝利を確信した瞬間、脇腹に強い衝撃を受けた。
不可解。
石弓兵は装填中。
伏兵の気配なし。
何をした大尉。
パンチョスの剣はヴォーティーの脇腹をわずかに霞め空を薙いだ。
ヴォーティーの背中から硝煙が立ち昇る。
「曲撃ちかい? 大尉」
「海賊家業が長かったモノでね」
ヴォーティーはそのまま銃を構え直すと残りの弾丸を三発発射した。
胸、腰、盾にそれぞれ当たり、パンチョスは後退した。
胸は胸甲が弾いてくれたようだが、腰の一撃は鎖帷子を貫通し、弾丸が腰骨の位置で止まった。至近距離からの実弾三連射だ、盾で防ぐ余裕もない。
「失礼」
とサーベルを振り上げ、上段からの一撃をパンチョスに見舞った。
パンチョスはその一撃を何とか受けたが、脚に力が入らない。
片膝をついてサーベルを受け止めるパンチョスにヴォーティーは油断なく蹴りを見舞った。
パンチョスは盾で受けたが足に力が入らずよろけて尻もちをつき、ヴォーティーを睨んだままロングソードと盾で防御姿勢をとった。
「ロブス、そっちは片付いたか?」
ヴォーティーは戦況を確かめるが目はパンチョスから離さない。
長い戦歴からパンチョスの反撃が無いとは言えない。
「船長、こっちは多勢です、副長は騎士に絡まれてますんで入れ替わりたいですね」
「援護には行くな、そのまま前面を防御しろロブス、伏兵の可能性がある」
ヴォーティーはパンチョスから目を離さずに命じた。
「さてパンチョス卿、兵を引いて下さらぬか?」
「殺さぬのは姫様の指示か?」
「救国の英雄サンチョパンサは殺してはならぬとアナ様が仰せになられる、仕方あるまい」
「なるほど姫様らしい」
パンチョスは笑うと素早く後ろに転がって剣を構え直した。
「少し浅かったか」
「ものすごく痛いがね、この鎖帷子は特別製なのさ。あーあー、穴が開いちまった。高いんだぜこの鎖帷子」
パンチョスの鎖帷子は妖精銀を織り込んだ特別製である。
銃というのが量産されれば騎士の時代も終わるかもなとパンチョスは心の中で毒づいた。
盾で顔を隠し、ヴォーティーを睨んだまま、じりじりと後退する。
曲者であるパンチョスの行動には無駄がない。
何か策を弄しているなと勘づいたヴォーティーはサーベルを短く振り上げてパンチョスのロングソードを弾く。
力の入らないパンチョスはヴォーティーの剣激に圧され防戦一方になった。
「傷口が開くじゃねえか、ゴボ」とむせると力なく防御する。
「吐血?」
内臓に傷がついたのかと一瞬、ヴォーティーは考えたが弾丸は胃の周辺に当たっていない。
全身の毛がざわつく。
振り上げたサーベルを引いてバックステップすると、ヴォーティーのいた場所に稲妻のようなロングソードの一撃が空を切る。
「いい勘してるぜ大尉」
パンチョスは唇を拭うと陶器の空き瓶をヴォーティーに投げつけた。
ヴォーティーはその瓶を割らずにそっと弾いた。
「そういう用心深い所…いいね」
壁で砕けた瓶を見て空き瓶だと認知する。
が、警戒の揺らぎを見逃すパンチョスではなかった。
盾を大きく振るい、ヴォーティーのサーベルを制圧した後、ロングソードを煌めかせヴォーティーの脇腹を抉る。
生身のヴォーティーには致命的だ。
すかさず海水を被り、蛸の化け物に変身する。
「男前が台無しだぜ大尉」
「私もそう思うがね」
蛸に変身したは良いが、形勢は圧倒的に不利だ。
脇腹の傷が思ったより深い。
様子を見ていた頃と違い、パンチョスの剣激は鋭く、激しく、重かった。
蛸に変身したおかげで力負けはしないものの、触手の数本も切り刻まれてアナの乗る担架まであっという間に押し込まれる。
石弓兵に合図をするも、屋根の上で屍兵と格闘が始まっている。
「好機を逃したな大尉」
「好機というよりあの体制は罠でしたでしょうパンチョス卿」
「バレたか?」
「わかりますよ、こっちは海賊相手が長いんでね」
単筒を突き出して牽制する。
弾は無いが、パンチョス卿はアナの魔導銃を見ているので牽制にはなると踏んでの事だ。
「弾無し銃で牽制か? 大尉」
「さてね、試してみます?」
パンチョスは一応、警戒のため下がるが、弾が無い事は確認できた。
僅かに作った隙に打ち込んでこない。
ここで一発でも自分に当てれば形勢逆転の糸口になる筈だ。
危険な賭けだったが、ヴォーティーの手を丸裸にする。
「船長、伏兵です!」
後方のロブスが叫ぶ。
一方、副長ケンブルは騎士に張り付かれ声も出せない。
増援は部下の魚介水兵が食い止めて数の不利は押し付けられていない様子だった。
「おうおう、案山子のが頑張ってるな?」
パンチョスはヴォーティーの手からサーベルを絡め獲ると右肩口に剣を突き立てて蹴り飛ばす。
腱が切れてはサーベルも振るえない。
パンチョスは防御を失ったヴォーティーの喉に向けてロングソードを構えた。
「ああもう、大人しくしてるなんて無理ですわ!」
突然、担架の上から飛び降りる少女一人。
着地の瞬間、痛みで「ぎゅ」っと声がでるがへこたれていられない。
「パンチョス卿! 勝負ですわ!」
腰のサーベルに手をかけてアナが叫ぶ。
「アナ様、無茶です!」
蛸になったヴォーティーが触手をうねらせて喉を防御する。
「蛸はしぶといな」
容赦なく触手と喉の皮を引き裂くとパンチョスは間合いを取った。
「お久しぶりですドルシアーナ姫殿下、お怪我の具合はいかがですか?」
具合も何も痛いなんてもんじゃない尋常ならざる痛みにアナは眉をひそめた。
「平気ですわパンチョス卿」
「脂汗が出ていますよ姫」
「気のせいですわ」
そう言いながらパンチョスの重心を読む。
「あまり無理をなさるとお体に障りますよ? あなたはタエトの希望なのだから」
「先日は殺そうとしましたのに、二枚舌ですのね」
そう言いながら殺気を飛ばして牽制する。
「おお、怖い。最後の力を振り絞って一撃に賭けますか? 下手に攻撃したら手首を飛ばされそうだ」
盾がある身体は無理でも末端を斬り飛ばす。
アナの狙いを読んで盾を前面に間合いを詰めた。
盾で剣劇を制圧するつもりだ。
「これだけはやりたく無かったのですが…背に腹ですわね」
アナはすうっと息を吸うと一気に吐き出した。
「プリンセス! ホーリーパワー―――ッ!」
胸のペンダントから無数の白い精霊が飛び出しアナの身体を包んだ。
ついに炸裂、プリンセスホーリーパワー!
今度の精霊は白い?
姫の聖なる力で逆転なるか?
待て次号!




