嵐を呼ぶお姫 第二部 (3)案山子の屍使い
天使の卵とアナを追って襲い掛かる屍使いのスケアクロウ。
11対1+非戦闘員のラマンチャという不利な状況で立ち回るアナ姫。
剣劇+銃+体術アクションの真骨頂。
乞うご期待!
(3)案山子の屍使い
欲望の種子は天使の卵。
天使の無垢なる魂は欲望を知り、無垢なる存在が汚されていく。
この魔道具は何者かが天使を閉じ込めたものだった。
ーー踊る羊亭 客室ーー
「セバスチャン殿…」
顎割れこと、ヴォーティー船長は額を両手で抑え、椅子代わりに腰かけたベッドに沈み込むようにうなだれた。
「アナ様とセバスチャン殿は何故、天使の卵を探しておられる?」
その問いにセバスチャンは少し考えて答えた。
「第一の目的は、ヴォーティー殿と一緒ですな。タエトの王都を解放する」
第一とすると第二、第三がありそうだ。
「第二に、アナ様は天使を解放している」
「解放…ですか?」
意外な言葉にヴォーティーは顔を上げた。
ヴォーティーは自分の顔を両手で覆いながら深く息を吸い、吐いた。
ヴォーティーは敬虔なる正教会の信徒である。
自分に埋まっていたものが元天使だった事に深い罪悪感を覚えた。
「黒く欲望に染まった天使を解放する、ヴォーティー殿も見たであろう?」
「聖なる光…」
青白い光はアナの手の平に握られた欲望の種子から出る黒い闇のような触手を抑え込んでいた。返り血を浴び、自身も闇に浸食されながらそれでも自分を救ってくれた。
血まみれのドルシアーナ姫はどんな聖女よりも神聖だった。
その時発せられた光はタエト滅亡時のあのどす黒い紫の光とは違った。
あの日聞いた天使たちの断末魔はヴォーティーの耳にねっとりとこびり付き、離れない。
タエトを助けるために幾千の天使が犠牲になったのか。
我々の業は深く罪は許されぬかもしれない。
「ヴォーティー殿…アナ様は天使たちを使うのではなく、協力して貰うために旅をしているのです」
救われる思いだった。
神は私に試練と罪を償う機会を与えて下さった。
ヴォーティーの目から知らずに涙があふれていた。
「私はアナ様に出会えたことを神に感謝せねばなりませんな」
セバスチャンは頷き、改めてヴォーティーに願った。
「ともにアナ様をお助けいたしましょう。たとえどんな運命が待っていようと…」
あれ程ヴォーティーを悩ませていた天使たちの悲鳴が薄れていく。
例え困難な航海になろうともヴォーティーは前に進む決意を固めた。
―ロウィーナ、君に天使の祝福があらんことを。
―― デイビーデレ市 中央市場 ――
「すっかり遅くなっちゃったねアナ…って頬にソースついてる!」
と買い物を両手に抱え、ラマンチャがアナの顔を見て噴き出す。
屋台のはしごをして食べに食べたのだ。
羊肉の串焼きのソースが頬についている。
「嫌ですわ、いつの間着いたのかしら」
荷物を降ろしてポーチからハンカチを取り出す。
「アナって結構食いしん坊だよね」
とまた笑う。
「そうかしら、だってこの街の屋台は面白いですわ! 山間の料理と海辺の料理が合わさってる、なかなか食べられない料理がたくさんありますのよ?」
食いしん坊と言われて少し顔を赤くしながら早口に言い訳をする。
冷やしたウルの実から始まり、串巻きパン、蜂蜜菓子、羊肉の串焼き、腸詰、魚介スープと黒パン、最後にピリ辛ソースの羊肉の串焼き。
ラマンチャと半分こね? と分けてくれるのはありがたいが後半から色々種類が食べたいだけでは? と思うようになった。
―間接キスとか…気にしないタイプなんだな。
と思春期に突入しかけのラマンチャは躊躇したが、アナはお構いなしだ。
後半になるとラマンチャも慣れてガブッっと行く。
アナにとってはなんだかもう家族認定なのだろう。
袖を引っ張り、ラマンチャを振り回して今こうなっている。
教会から時刻を知らせる鐘がなり響く。
「いけない、本当に怒られますわ、セバスチャンのお小言、結構長いんですのよ?」
「なんで俺まで怒られる前提なの? 引っ張り回したアナのせいだよね?」
と両手いっぱいの買い物の隙間から顔を出してラマンチャが抗議する。
「一蓮托生、連帯責任ですわ?」
「また難しい言葉使ってはぐらかす気だね?」
ふふっと悪戯っぽく笑うと「宿屋まで競走!」と走り出した。
「アナ、ずるいぞ! 俺の方が荷物多いっての!」
と笑いながらラマンチャも走り出した。
笑い合いながら踊るように路地を縫う。
「アナ、待ってって! 持久力すご過ぎだって!」
スカートを翻して路地を駆け抜ける。
ラマンチャも足は速い方だが、荷物が多すぎてうまく走れない。
トマト、ウルの実、ライ麦と小麦、燻製肉に干した貝、それにランプの燃料油にと数え切れない。
これから街を出るために買いだした物が買い物籠いっぱいに積み重なっている。
「アナってば!」と声をかけようとするとアナは不意に立ち止まった。
「アナ?」
「ラマンチャ、黙って」と小声でアナはラマンチャを制する。
声の緊迫感で何かを察する。
ラマンチャは周囲を見回した。
人が居ない。
いつもなら買い物帰りの人々がいる時間帯だ。
アナは物陰から現れた男を見やる。
「スケアクロウ…」
「アナ、知り合い?」と聞いたものの、到底知り合いとは思えない。
「ええ、まあに有り体に言えば熱狂的な私のファンですわ。仲良くはありませんわね」
そう言って身構える。
スケアクロウと呼ばれた男はエンジ色のフード付きの法衣で顔を隠しているが人の気配とは程遠い何か邪悪なものを感じる。
それもそのはず、スケアクロウは天使の卵の秘密を探る狂信者集団、黒の教団と呼ばれる過激派の刺客であった。
「ドルシアーナ姫、探しましたぞ? 出来れば手荒な真似はしたくないのです。大人しくご同行願えませぬか?」
とフードから見えている口角だけが不気味に上がる。
「以前お会いした時も同じセリフでしたわね、もう少し会話のセンスを磨きませんと女性をダンスに誘えませんわ?」
そう言いながら周りの気配を確認する。
人の気配は無く、かえって不気味に思える。
スケアクロウが勝算もなく一人でアナと対峙とは考えられなかった。
「あの方から出来るだけ生かして連れてこいとのご命令ですので、手加減しようと思いましたが、仕方ありませんね」
マストではなく努力義務なのか、スケアクロウ言葉から殺意から伝わる。
アナはすぐにでもラマンチャを逃がしたかったが、敵の戦力が未知数であり、このまま二手に分かれるのは危険だと判断した。
そして対峙してからの違和感。
この男から発せられる何かにアナは周囲も含めてスケアクロウを観察した。
違和感に一番反応したのはラマンチャだった。
スケアクロウの言葉に急激な恐怖に襲われたからだ。
明らかに不自然な恐怖。
アナの手も微かに震えている。
怖くもないコイツに身体が恐怖を感じていると。
「アナ、何かおかしい! 額に何か…くっ」
ラマンチャが何か言い終わる前にアナはスケアクロウに切りかかり、フードを撥ねる。
フードの下から現れたスケアクロウの額には魔法陣が絵描かれていた。
「これですわね?」
直感的にあの魔法陣がこの不自然な恐怖をふり撒いていると判断する。
―ぐずぐずしていると戦況が悪くなる一方ですわ。
金色の目と灰色の肌、明らかに人ではない佇まい。
声には力がある。圧というのか、男の声を聴くたびに言い様のない恐怖に支配される。
「ラマンチャ、物陰へ! この男の声をなるべく聞かないようにしてください、あれは恐怖の呪いです」
男の額に書かれた魔法陣は以前は無かったものだ。
恐らくアナの戦闘力を削ぐために用意した物であろう。
地味だが厭らしい効果があった。
不意に男が手をかざす。
「ラマンチャ危ない!」と叫びアナはラマンチャに足払いをかける。
「うわっ」っと尻もちをついたラマンチャの頭上で何かが炸裂した。
スケアクロウの手から放たれた衝撃波だ。手の平にも魔法陣が描かれている。
「危な!」
ラマンチャが頭を押さえて伏せる。
アナが周囲を見回すと、地面や壁に無数の魔法陣が描かれているのに気づいた。
「してやられた…と言う訳ですわね?」
用意周到に魔法陣を使い、周囲から切り離されたのだろう。
道行く人々は何故かこの道を通りたくないという感覚に支配される。
大通りとの境は揺らぎ、何かに隔絶されている。
スケアクロウは屍使い専門である。
魔法陣の知識はいつ身に着けたのかとアナは考えを巡らせた。おそらく別に協力者が居るに違いない。
「退路を塞いで包囲戦ですかか弱い女子供に取る戦術にしては大げさですわね」
「前回で貴女の脚力には懲りていますよドルシアーナ姫」
そう言って何かを念じ、得意の屍兵を召喚した。
屋根に2、後ろに3、前に3、路地に2。
急に現れる気配にアナは困惑した。
ー先ほどまで気配すらしていませんでしたのに…。
おそらくは結界の外に待機させておいたのであろう。
これも気配を悟るアナ対策だった。
「何故かあなたは伏兵を察知してしまう能力がおありだ、念には念をですよ」
わらわらと現れる屍兵によって瞬く間に退路を断たれてしまう。
「アナ、屋根にも何かいる! 何なんだこいつら?」
「この人は死体と仲良くされている方ですわ、反吐が出ますわね」
スケアクロウには死者への冒涜という概念自体無いらしい。
残念だが貴族階級の人間には平民など家畜と大差ないと思っている人間もいる。教会では神の前に人はみな平等とされているが、彼らにとって平民は家畜で、家畜に神など必要ないしいないも同然なのだろう。
アナは操られている屍に安らかな眠りをと祝福を意味する言葉を呟いた。
一方、ラマンチャは太腿に活を入れなんとか動けるように自分を奮い立たせた。アナの足手まといにはなりたくない。
しかし男の言葉を聞くと、自分は怖くないのに勝手に体が震え、手足が麻痺していく。
「チックショウ!」ラマンチャは何とか膝立ちになると膝を握りしめた。
「ラマンチャ、何とか動けます?」
「大丈夫だよアナ」と強がりを言うが足に力が入らない。
「スケアクロウさんでしたかしら? 多勢に無勢のこの狼藉、少しお仕置きが必要の様ですわね」
動けないラマンチャを庇う様にアナは立ちふさがった。
そうは言っても勝算は薄い。
屍は元イシュタル兵の様で支給品とはいえ皮鎧とシミターと呼ばれる曲刀で武装をしていた。
シミターとは刀身の真ん中からクの字に曲がったイシュタルの曲刀で、斬る事に特化している。
熟練の者が振るう、その斬撃は先の大戦で竜人の硬い鱗も切り裂いた。
アナのサーベルよりも一回り大きく、斬り結べば体格に劣るアナは不利を押し付けられてしまう。
アナは、取り囲まれる前に先手を打ち前衛の屍兵に切りかかった。
屍兵の持つシミターは性質上、振りかぶる動作がある。
極端に曲がった形状の為、突きに向かないのだ。
アナはその性質を利用し、動きに呼吸を合わせて瞬時に懐に飛び込むと腰を切って抜刀した。
振りかぶった敵の死角となる懐に飛び込み腕ではなく腰を使って抜刀する。零距離抜刀術と呼ばれるアナが得意とする型だ。
襲い掛かった前衛屍兵は刃を振り上げたまま崩れ落ち、鎧の隙間から腐った臓物をまき散らして倒れた。
残った前衛屍兵を盾にスケアクロウからの射線を塞ぐ。
引き足をスライドさせ綺麗な弧を描いて振り向くと後ろから迫った屍兵に魔導銃を放つ。
魔導銃の弾丸は後衛屍兵の皮鎧を貫通し、肺や心臓の辺りからどす黒い体液があふれ出る。
でも屍兵は倒れない。
臓腑も、肺も、心の臓も急所ではない。
屍兵は死んだあと操られているのだ。
動きは意外と素早く、太刀筋も生前の訓練された動きであった。
しかし、手練れではない。
一瞬だけ後衛屍兵を足止めすると、すぐに向き直って摺り足で死角に移動する。
アナは前衛屍兵の身体を利用して射線から身をかわしつつ、隙間からスケアクロウに魔導銃を連射した。
右手、膝、肩と正確に魔道弾を撃ち込んだ。
しかし金属を叩くような音を響かせて魔導の弾丸はスケアクロウの目の前で霧散してしまう。
「魔導結界?」 アナはスケアクロウの足元にある魔法陣を見て悟った。
「それも前回、苦労させられましたからね…無駄ですドルシアーナ姫」
アナは腹を切った屍兵に体当たりを食らわせ、別の屍兵に押し付けるとふわりと回転し、後ろから迫る屍兵を斬る。
回転体術を用いて戦場を把握するのは戦場の剣、タエト式の剣術技法だ。乱戦に強いと言われるタエト式の剣はセバスチャンにみっちりと仕込まれたものだ。師のミフネ同様、セバスチャンもまたアナにとっては師であった。
前に3、頭上に2、路地に2、後ろにまだ3。
前の2体はもつれ合って機能していない。今切り上げた後衛屍兵はがぜん元気だ。アナは流れる景色の中で正確に敵の位置、体勢、攻撃態勢を把握した。頭の中で瞬時に戦闘プランを組んでいく。
切り上げられ体制を崩した後衛屍兵に横蹴りを入れ、やはり後ろから来る屍兵に押し付ける。
戦場に空間が出来たその時、スケアクロウから衝撃波が放たれた。
アナは蹴った反動を利用しスケアクロウの方に再び向き直ると、体制を極めて低くし、それをすり抜ける。
低い体勢から素早く間合いを詰め、スケアクロウを守るように立つ屍兵に切りかかった。
「くそ、ちょこまかと!」
スケアクロウの苛立ちを他所に、アナは冷静に戦況を判断する。
無力化した前衛二体が立ち直る前にこの前衛屍兵を排除する。
振りかぶったシミターがアナを襲うが低い姿勢のまま搔い潜るとそのまま屍兵の腕を跳ね上げるように切り上げる。
防具のない腕の内側を断ち斬る、羽落としという技だ。
体格の無いアナは剣を切り結ぶことはせず、また刃を防具に直接当てる事は極力避ける。
大人の体格から放たれる剣激をまともに受ければ体制を崩され一気に不利になるためだ。
前衛の腕を斬り無力化させるとそのままフェイントをかけて脇を抜け、スケアクロウの背後に回った。
武術を専門としないスケアクロウからすればまるで消えたように見える。
フェイントの先に衝撃波を撃たされ、その一瞬の意識の隙間に背後に回られる。
屍兵をブラインドに使い、認知の外にアナはいるのだ。
消えるように思えて不思議はない。
背後に回ったアナはスケアクロウの膝の裏に蹴りを入れて体制を崩す。
スケアクロウにしてみれば何が起こっているのか解らない。
斬らずに蹴りを入れたのは防壁に剣激が弾かれて体勢を崩しかねないからだ。防壁の正体がわからないため下手に攻撃できない。
瞬時の判断が死を招く。
戦闘で圧倒しているが依然として数の不利がある。
何よりスケアクロウが冷静になりラマンチャを人質にとることを思いつく前に決着を付けたかった。
ーー蹴りは届く。
思った通り、結界は魔法属性のみのようだ。アナは勝利を確信したその刹那、不意に頭上から殺意を感じる。
石弓だった。
屋根の屍兵からの石弓が足元に突き刺さる。
咄嗟に蹴りを出していなければアナの足に突き刺さっていたであろう。
生かして捕らえるという命令がアナを助けたのだ。
胴を狙われていれば間違いなく死んでいた。
冷やりとした汗が背筋を伝う。
アナの動きは上から見れば丸わかりなのだ。
「石弓まで準備していたのですわね…」
もう一体の屋根屍兵が石弓を構える。
先程まで屋根の屍兵はシミターを構えていた。
恐らく、アナを油断させるために隠していたのだろう。
咄嗟にスケアクロウを盾にする形で射線から退避する。
「間に合って!」
屍兵は魔法で操られている。体を囲むスケアクロウの魔力が乗っかっていれば魔法防壁に弾かれるだろうとアナは予測し、賭けた。
案の定、アナの予測は的中。
発射された石弓の矢はスケアクロウの手前で防壁に阻まれた。
間一髪で命を拾う。
この距離で発射された石弓を払うのは不可能に近い。
しかし命は助かったものの、折角稼いだコンマ数秒の反撃の時間を無効化されてしまった。
体勢を崩したアナは路地から現れる屍兵を睨んだ。
「かなり糞ったれな状況ですわね」
アナはラマンチャの無事を確認する。
ラマンチャはどうにか動けそうだがスケアクロウの恐怖の呪いによって動きが悪い。
下手に動くと存在を悟られてしまいかねなかった。
一方、ラマンチャの方は戦闘の様子を物陰で伺っていた。
自分に何ができるのか、ラマンチャは考える。
アナの邪魔にならぬよう、そして何かアナを援護できるものはないかと。
スケアクロウと呼ばれる男はどうやらあの奇妙な円の中に書き込まれた魔術によって力を得ているようだ。そして屍兵には魔法陣を使っていない。
今、自分にあるものは護身用の小さなナイフ、衣服、靴、そして小銭に買ったばかりの食料品。
まともに動けないなら動ける範囲で何かしないと。
そしてそのタイミングは今ではない。
アナは起き上がるスケアクロウの尻に後ろ蹴りを食らわせ、その反発力を推進力に路地屍兵の足元を薙ぐ。
本当は刃が痛むのでやりたくはないが脛の骨を断ち切って転倒させる。後ろから迫ってくる路地屍兵を巻き込んで二体の屍兵は派手に転倒した。
ついでにスケアクロウの顔に向かって低威力の魔導弾を数発。
金属音を伴って派手に炸裂させると白煙がスケアクロウの視界を奪った。
縺れていた前衛屍兵を飛び越え、後衛の屍兵に迫る。
「5,4,3」と口の中でカウントしながら駆ける、カウントがゼロになる瞬間、フェイントをかけて飛び退く。
ほぼ同時にアナが居た場所に石弓の矢が付き立った。
石弓をセットする時間を測っていたのだ。
屋根屍兵は再び石弓をレバーを使って引き絞る。滑車型と違い威力は低いが装填速度を増したタイプであろう。レバーを数回引いて徐々に引き絞る。それでも装填速度は熟練した石弓兵でも10秒程度かかった。
これで10秒、屋根は無視できる。衝撃波と石弓の十字砲火ではさすがに勝ち目はない。
煙幕が晴れる前に、後衛を何とかしておく必要があった。
前衛は立ち直りつつありスケアクロウの前に防御姿勢で展開した。
攻撃力を失った屍兵も集めて肉の防御壁とするつもりだろう。
スケアクロウは前衛、そして路地配置の屍兵を集めて砲撃陣地を張るつもりなのだ。
中々厄介だが、その命令をしている内はラマンチャに攻撃はいかない。
今のうちにガンガン攻撃をする。
前衛の屍兵に魔導銃を撃ち込みながら振り向いて突進してきた後衛屍兵に魔導弾を撃ち込む。
流石の屍兵も頭を失っては活動できないらしい。
瞬時に三体の後衛屍兵を無力化するとラマンチャの退路を確保する。
「ラマンチャ、セバスチャンを!」
「わかった!」
ラマンチャは崩れ落ちる後衛屍兵の横をすり抜けると踊る羊亭に向かって走った。
アナは石弓のレバーを引く屋根屍兵に向けて膝立ちで魔導銃を撃ち込んだ。
次弾装填の前に飛び道具を何とかしたい。
太腿に肘を乗せる事で狙いを正確にする。
弾丸は吸い込まれるように石弓を破壊し、とりあえず屋根からの火力を無力化に成功した。
しかし、アナはまだ勝利を確信していない。
屍使いのの手の内をすべて見ていないからだ。そして恐怖をもたらす魔法陣の問題も解決していない。次第に蝕まれていく四肢。そして肉の壁に守られた衝撃波の陣地。
屍兵、魔法陣防御、恐怖の呪い、そして衝撃波以外に奥の手を隠しているに違いない。
まだまだ不利な要素がいっぱいだ。
不意にラマンチャの悲鳴が上がる。
「アナ! 駄目だこの先に行けない!」
そして前後から屍兵の増援だ。
石弓を壊された屋根屍兵もシミターを抜いて機会をうかがう。
ラマンチャは転がるように剣激をすり抜けて増援の群れから抜け出しアナと合流した。
心許ないが右手には護身用のナイフを持っている。
退路を封じられ、次々と現れる屍兵。
「アナ、心配するな、後ろは任せてくれ」とラマンチャが背中越しにアナを勇気づけた。
それが虚勢であろうとアナには心強く響いた。
敵の増援に囲まれたアナとラマンチャ。
魔法陣により退路を断たれ、恐怖の呪いによって次第に動きを封じられる。
屍使いはアナに倒された屍を使い肉の壁にて衝撃波を放つ砲台陣地と化しアナとラマンチャを襲う。
どうなるアナ姫! 考えろラマンチャ!
次回の「嵐を呼ぶお姫」も乞うご期待!
2022.12.11 切由路様にアナ姫の美麗イラスト頂きました!
ラマンチャの前で素を見せるちょっと食いしん坊アナが生き生きと表わされています。
素敵すぎるw




