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嵐を呼ぶお姫 第二部 (2)運命の奴隷

次第に解き明かされる世界の謎。

天使の卵は何故生まれたのか。

今後何に使われるのか。

今回は学者エドアールの回です。

(2)運命の奴隷


 -- 港町デイビーデレ郊外 正教会 --


「ひとは運命の奴隷である、定命の者は抗う前に命が尽きる」と長命種のエルフが言った。

「エルフは運命に気が付かない、それは木の実を喰い森を管理するのがそれだというのに」とドワーフが言った。

「酒を飲むのも運命だと言いかねないモグラ共の戯言」とエルフが嗤う。

「我々がどこから来たのか知りもせず、長命の者は本当の答えを探求しない」と人間が言った。

 聖者メビウスの書にある一節だ。


 パロの学者エドアールはこの一節を書いた宗教画の前に居た。

「運命の奴隷…」

 ---私は探求の神の奴隷なのかもしれないな。


 カーラ・ロウィーナ号を命からがら逃げだしたあとエドアールは山間に近い正教会に保護を求めていた。

 正教会は広く信仰されている宗派で、聖騎士王の末裔たちは皆信仰していた。パロの王しかり、タエト王、もちろんエルオンド帝国の皇帝も信者だ。

 失望の戦いで罪を犯した我々は罪を償い隣人を愛し神の子として約束の楽園へと導かれる。

 簡単に言うと罪深い我々は神に尽くしなさいという事だ。

 『運命の奴隷』の一節は結婚式に、葬式、叙任式などに多用される人気の一節である。 


「この宗教画に興味がおありですか?」と若い司祭がエドアールに声をかける。熱心に宗教画を見つめていたエドアールは司祭にお辞儀をすると熱っぽく語った。

「ネロ=コルビーノ作の運命の奴隷ですよね? こんな場所でお目にかかれるとは思いませんでした、真筆でしょうか? 有名な作品ですので複製画は見たことがあるのですが…間違いない、聖歴149年作、確か連作があったはずですよね? この構図と迫力、私はこの作者がとても好きでして、ああすみません、私ばかり話してしまいまして司祭様」

「構いませんよ」

 と司祭は微笑した。

「この絵はまだエルオンドとタエトの交易が盛んだったころに寄贈されました。その後、我々は争ってしまった。失望の戦いでの罪を再び犯したのです。嘆かわしい事ですね」

 そう言って両手を重ねて額の高さまで上げた。

 エドアールも同じ作法で司祭に礼をした。


「私はこの一節、非常に気に入っています、特に『我々がどこから来たのか』の下りですね」

「その下りは楽園と言われております。神が我々を作り出し最初に住まわせた聖なる楽園…現在のエルオンド帝国が支配する地にあったと言われております。豊かな大地、黄金の穂の実る理想郷」

「そのエルオンドは今、老いさらばえ、ライ麦が育つ地すら狭まっていると伺います」

「すべては失望の戦いの報いなのでしょうね」

 若い司祭は額に組んだ両手を捧げると嘆かわしいという表情で語った。

「楽園は幾度も血に染まりました。亜人が追いやられ、人が支配した後も人同士争い合う。邪悪なるラファロックもまた人の子。平和を望んだ神の怒りに触れたのかもしれませんね」


 司祭が去った後もエドアールは宗教画を食い入るように見つめ続けた。

「我々は楽園に還る…還るべき楽園は不毛の大地などではなく…」

 教会の燭台に火が灯る頃、学者エドアールは宗教画の一部を熱心に書き写していた。

「楽園…天使の卵…十二宮の魔導器…聖者の手にある書物…」

 エドアールの中に何かが浮かんだ。


まだまだ全貌がつかめない世界の謎。

魔導器の使い道。

まだまだこれからです。

次回はアナとラマンチャの回を予定しています。

乞うご期待。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 新婚旅行でなけなしの金をはたいてイタリアに行ったのを思い出します。港町と言う事で、きっとピサやアマルフィの様な感じなのでしょう。教会のステンドグラスや宗教画の荘厳さを感じた事を思い出しまし…
[良い点] 聖者メビウスの書……好きな小説の中に、更に読みたくなる書物があるとは。 エドアールの外伝とかも拝読したいです。 宗教画も素晴らしいのでしょうね……挿絵とか……挿絵とか。 本編でなくとも楽し…
[良い点] こういう話が挿し込まれると世界が深まってより素晴らしいですね。楽園と魔導器との関係性などとても興味を引かれる回でした。また、エドアールが今後、どのように活かされていくのかもとても興味深いで…
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