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嵐を呼ぶお姫 第二章 プロローグ

嵐を呼ぶお姫の第二部が始まりました。

地政学的な問題もあり、現在タエトの運命は各国の思惑に翻弄されています。

プロローグではそんな部分に触れています。

本編は現在校正中ですので本編でのアナの活躍をご期待ください。

 第二章 (1)兄と妹


 ーーエルオンド帝国領 シコラスク家 書斎

「ねえお兄様?」

 少女は傍らにいる兄に尋ねた。

 振り向いた妹に兄は愛おしそうに目を向けると「なんだい?」と優しく答えた。

 長いまつ毛の少女は難しい顔をしながら本を指さす。

 豪華な装飾を施された歴史書にはびっしりと文字が並んでいる。

 帝国立初等科学校の宿題としてはいささか難しいのではと兄は自分が読みかけだった本を閉じ、その細い可憐な指の先を見た。

「エルオンド帝国とお母さまが生まれたパロはどうして戦争をしていたの?」

 少女の薄い唇が尖る。

「初等科はそんな難しい所を勉強するのかい?」

 兄の手が少女の指に重なる。

「そうですわ、お兄様。 でも学校で習った歴史と、この御本、内容が違っていますの」と困惑の表情を見せる。

 少女の流れるような光沢のある金の髪。母親譲りの美しい髪を撫でながら兄は、ふむと考えた。

「まだ難しい問題かもしれないが…」と言いかけると少女は「私はもう立派なレディーですのよ?」と笑う。

「ごめんごめん、レディーに子ども扱いは失礼でしたお姫様」

「お姫様も無しですわ、お兄様」と頬を膨らませつつも兄が自分を好いてくれている事にまんざらでもないようすでクスりと笑う。

 兄は書斎の奥へと向かうと自分が使っていた初等科の教科書を持ってきた。

「ここを読んでご覧、カタリーナ」

「これはお兄様の使っていらした御本?」

「そうだ、そしてここがその部分」

 少女(カタリーナ)の綺麗な爪の先が同じ部分をなぞる。

「お母さまのお生まれになった国の事が少し悪く書かれていますわ」

「そうだね、それが歴史なんだよカタリーナ」

 少女は不思議そうに兄に振り返る。

「御本って本当の事が書いてあるから本だと思ってましたわ、どちらかが間違いなんですの?」

 兄は「どちらも間違っていないし、どちらも本当の歴史なんだよ」とカタリーナを覗き込む。

 少女は良く解らないと言って兄を見た。

「カタリーナが読んでいた歴史書はパロの歴史家が書いたもの、そして私の教科書は竜人戦争の前、パロとエルオンドが仲違いしていたころのもの、そしてカタリーナの教科書は戦争の後、パロとエルオンドが仲直りした時のものなんだ」

「歴史って変るものなのかしら?」

 当然の疑問として、まだ初等科のカタリナには理解できなかった。

「例えば、お友達と喧嘩している時、自分が正しいって思うだろ?」

「確かにそうですわね、素直になれなくて、自分の事ばかり話してしいますわ」

 少女は少し考えこんだ。白く美しい額に皺が寄る。

「でも仲直りした時、同じように相手が悪いと思うかい?」

「わたくしも悪い所があったと反省したり、相手がどうして怒っていたのかが解って、誤解が解ける事もありますわね」と何か解ったように顔を明るくする。

「やっぱりお兄様は博識ですわ」と兄の胸に頭を寄せた。

「エルオンドとパロやモスク、滅びてしまったタエトも、元はみんな聖騎士王の仲間が作った国だ、いろんな理由で喧嘩をすることもある」

「でもお兄様、喧嘩と違って多くの民や、お兄様たち騎士の血が流れます」

 カタリナは心配そうに兄を見上げた。

「戦争が無くても邪悪な亜人や怪物の討伐にお兄様は出かけるでしょう? 怪物とも仲良くなれればお兄様が危ない目に会わなくて済みますのに」

 少女は7年前、まだ幼かったころに兄が『人の形をした竜』との戦争に出征したことを思い出した。

 大好きなお兄様は必ず生きて帰ると幼心に信じていたものの、戦に駆り出された者が死体となって帰ってくるたび不安で胸を締め付けられた記憶が去来する。

「心配しなくても兄様は無事に戻ってくるよカタリーナ」

「今度のお仕事は安全ですの?」

 とカタリナはその白い手で兄の頬に触れる。

 少女の指先から不安が伝わる。

「ちょっとした調べものをする任務だよカタリーナ、心配はいらない」

「なら良いのですが」

「そういえばさっきの質問、まだ答えていなかったね」

 と兄は頬に触れた少女の手に自分の手を重ね、ぽんぽんと安心させるように叩いた。

 カタリーナは優しい兄の手のひらに自分の手を重ねて言った。

「そうでした、宿題の答えですわね?」

 初等科の教科書を広げて再び指を刺す。

「そうだ、ここでは教科書通りに答えるのがいいね。学校ではそう教えているから、今の歴史ではこれが正解なんだよ」

「そういうものですの?」

「そういうものだ、学校では先生の望んだ答えを答えると優等生」

「では、そう答えるように致しますわ」と兄の頬に口づけした。

「それではもう遅い、寝室までお運びしましょうかお姫様?」

 と妹を抱きかかえると兄は愛しい妹の()()に力が入らない様に優しく抱きかかえた。

 カタリーナは傍らにある杖を引き寄せると嬉しそうに微笑んで兄の胸に顔をうずめた。

「いつもありがとうございますお兄様」

初登場キャラクターの兄と妹。

本編でも登場いたします。

しばしお待ちください。


また面白いと思ってくださった方は

ブックマークや評価などを入れてくれると創作活動のエネルギーになります。

是非とも応援の程、よろしくお願いいたします。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 始めはアナ姫の幼少期かな?と思いきや新キャラ。どうなるのかなぁ~。楽しみ。 [一言] 歴史は見る側によって異なる…ってのを入れると、グッとリアリティが増しますね。
[良い点] 歴史を学ぶことの難しさが登場人物たちから掘り下げられていて、とても良い場面だったと思います。あえて嘘を書くこともあれば、書籍として刊行する場合には売上のため、情報を盛ることすら歴史書なんか…
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