今明かされるこの世界の聖獣(ポッと出)様情報
お昼、城にやってきた父と一緒に昼食を取りつつ状況を説明していると、リュゼ様が突然現れた。
話しておきたい事があるので、皇太子殿下を呼ぶように、との事。
わたしと父はもちろん一切逆らう事なく殿下を昼食のデザートにお誘いした。
『この世界には聖獣という概念があります』
リュゼ様はクレメンス殿下がやってくるとそう言って話し出した。
『神界や天界で神の手伝いをする生き物が、天より降ってこの世界と関わるとそう呼ばれます。ですが本来なら神の手伝いをするのがその役割。地上で人の願いを叶えるためには契約が必要となります。300年前、この世界には多くの聖獣がいました。知っていますね?』
リュゼ様の言葉に殿下と父は厳しい表情でうなずく。
わたしもうんざりする記憶が引き摺り出されて最悪な気分になった。
ゲームの中でミリアムはその聖獣の生贄になっている。
ああくそ思い出してきた。あの聖獣もぶっ殺そう、よしそうしよう。
『地上に縛られた聖獣は人と契約を交わします。地上にいる限り贄を捧げること。公爵家にいる犬たちは神を手伝う神犬です。特例として聖女ミリアムの守護のため地上に遣わされていますが、その性質は神界にあるまま。よって、ミリアムの元を離れず、ミリアムも第三者には譲らない約束がされています』
リュゼ様の言葉で、わたしは昔、神に他の人にあげるなと言われた事を思い出した。
あれそういう意味だったのか。全然気がついてなかったよ、危ない。
いやこんなかわい子ちゃん達を人にあげたりしないし、家族がバラバラになるのもかわいそうだからそんな事しないけど、でも大きくなって本人が行きたがったらどうしたかは自信がない。
きっと1度神に相談したとは思うけど。
つうかしっかり説明しといてくれ神。この適当さがらしいといえばらしいが。
『しかしサヴァの息子のエルがミュルレイシア皇女を気に入り、この国の聖獣となる事を望んでいます。そこで皇太子』
「はい」
『エルよりミュルレイシア皇女を守りなさい。聖獣など、人にとっては不幸のもと』
「かしこまりました」
相手皇太子やぞ、と思わんでもないが、まあリュゼ様にとって人間なんてどれもおんなじ、気に入らなければ始末すればいい、ぐらいの存在なんだろう。
この天使たち、一体なんで300年前この世界の人間を救ったんだろう。
絶対他の理由があったに違いない。
『2人を会わせないように努めなさい。公爵、ミリアム、良いですね』
「「はい」」
『結構です』
ひとつうなずくとリュゼ様はその場から消えていなくなった。
多分、公爵家の領地にある屋敷に戻ったのだろう。
最近リュゼ様は我が妹ラピスのそばにつきっきりである。
リュゼ様の気配がなくなった途端、わたしと父と殿下は大きく息をついた。
厄介な事になったものである。
午後、わたしが部屋で教会から届いた資料を読んでいると、ミュルレイシア皇女がしょんぼりした様子でやってきた。
なんとノックをしたうえ、少しだけ開けたドアの隙間から『入ってもかまわないか』訊いてきたのだ。
「ミューちゃん、どうしたの?」
「あの、あのね、さっきの子犬、エルのことなの」
「エルならしばらくおうちで反省中だと思いますよ」
遠い公爵家の領地で。
理屈は聞いてないのでよく分からんが、アスタークと帝都を一瞬で行ったり来たりできる方法があるらしい。
「ミューちゃん、エルをお城に連れてきてもらってはダメ?」
うんダメだね。
それやったらリュゼ様がキレちゃうからね。
だが事実をそのまま説明しても分かるまい。
わたしもあのゲームやってなきゃ聖獣のヤバさを知らなかった。
1度の契約が命取り、子々孫々祟られるヤツだからね。
300年前、聖獣と契約していた国のほとんどが、対価として孤児や奴隷を生贄に差し出していた。
中には高位貴族や王族しか認めないという契約もあったが、『自国の』ではなかったため、他の国を滅ぼしたりさらってきたりとやっぱり碌でもない。
殿下だけでなく父やわたし、サヴァとマリリンも新たな聖獣の誕生には反対なので、エルの望みが叶う可能性は無に等しい。
わたしはミューちゃんをエルと契約させるつもりは更々ない。
だが彼女を泣かせるつもりもないので、できるだけやんわりと答えた。
「難しいと思いますよ。あの子はまだ子供ですから、親元にいるのが1番ですし、躾もまだまだなので」
今の世界の方向性で聖獣契約希望とか、躾が足りないレベルの話じゃないけどね。
「そうなのですね……」
ミューちゃんがあんまりにも悲しそうなので、ついわたしはきいてしまった。
「子犬が欲しければ、良さそうな子を探してみましょうか?」
「いいえ、違うの。その、前に怖い思いをしたとき、そばにいてくれた子犬とエルが似ていて、安心するような気がして……」
は? なにその情報、初耳なんですけど。




