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ぼくまだななちゃいでちゅ、って言えたらなあ……

 わたしのすがり付かんばかりの祈りが届いたのか、殿下は妹姫の相手をしばらくしたあと部屋に戻るように言いつけた。


 正直マジ助かった。


 それからしばらく歩いて応接室へと入るよう促される。


 皇族にはそれぞれ専用の応接室があるらしく、ここは皇子殿下専用の部屋なんだとか。

 さっきから皇子皇子言ってるなあ、とお思いのあなた! 鋭い!


 そう、わたしは皇族の名前をほぼ知らない。

 いやね、陛下と皇后陛下の名前くらいは知ってるよ?

 あと皇太子殿下ね。


 でもそれ以外は全く知らん。


 他にする事いっぱいあったからね。


 13才っていうと、多分皇太子の長男ぐらいかなー。

 妹がいたんだ、へー、という感じ。

 習ったような記憶はあるがメモリに記録がない。


 さっき鑑定したろうもん、と自分につっこむが、興味がなかったので目が滑ってよく読んでない。

 多分皇子たちだろうな、と思ったのでそこだけ確認したわたしの過ちだ。


 ゲームでもよくやったなあ、こういうミス。

 気にせず飛ばすと、後で困るんだよね。

 乗り物の操作とかコントーラーのボタンとか。


 もう一回見てもいいが、よく考えたら紹介もないのに自分が誰か知ってるって色々疑われてもおかしくない。

 


 どうすべ、と思っていたら向こうから名乗ってきた。



「さて、座ってくれて構わない。自己紹介がまだだったね。僕はこの国の皇子の1人で、ウィクトルだ。君はアスターク公爵が引き取って育てていると噂の子だね」


「公爵様がお引き取りになられた子供は、今のところわたし1人です」


「そうか。公爵は夫人と仲睦まじいと聞いている。昨年子供も産まれたそうだな。一体なぜ、と思っていたのだが、なるほど、ずいぶんと賢いようだ」


「とんでもございません。公爵様と先生方のご教育の賜物です」


 すっげえスパルタだからね。

 いい子悪い子ふつうの子、全然関係なくエリートになりそうなヤバさがあるよ。いっぺん体験してみる?


「そうか。まあいい。実は今、従者を探していてね。考えていたよりも年が下だが、君が引き受けてくれないかな」


 それ命令ですよね、そうですよね。

 確かにさっき『どこにでもついていく』とは思ったが、この部屋についてきた事でナシにしてはいただけないだろうが。

 大体、皇族の従者と言えば聞こえはいいが、それってつまり雑用係が欲しいって話だよね。

 公爵令嬢を雑用係に、とかアタマおかしいんじゃなかろうか。


 まあ確かに今のわたしは対外的にどこの馬の骨とも知れない公爵家の養い子なわけだけれども。(しかも♂)


「公爵様にご相談申し上げた上でお返事いたしたいと思います」


「公爵には僕から話しておこう」


 わたしは穏やかな微笑みを顔に貼り付けた。

 できねえよ、ボケ。


 現皇帝陛下には確か5人くらい男子がある。

 ウィクトル殿下の継承順位は確か8番目か9番目くらいのはずだ。

 皇太子はなかなか男子に恵まれず、後に結婚した弟たちのほうに先に男子が生まれたと聞いた事がある。

 皇帝が代替わりしたらウィクトル殿下は皇太子となるだろうが、今はそうではない。


 陛下か皇太子殿下に依頼され、うちのパパンが了解して初めて進む話である。


 決定権のない君と僕の間で意気投合して話が決まった、なんてことにしたいんだろうが、そうは問屋が卸さんのだよ。



 部屋のドアがノックされ、女性の落ち着いた声が響く。


「クレメンス様とアスターク前公爵様がおいででございます」


 殿下の表情がわずかに歪む。

 わたしは笑みが大きくならないよう気を引き締めた。


「ウィクトル、ここにアスターク家の者がいると聞いたが」


「はい、父上。庭で会って話をしたくて招待しました」


「そうか。グラート殿が探していたので連れて参った。もう十分か?」


「はい。できればまた会いたいと思いますが。とても楽しい時間だったので」


 嘘つけ。

 室内に入って何分もたってないだろ。


「そうか、ならまた今度呼べばいい。今日は陛下が彼に会いたくて連れてきてもらったのだからな」


「そうですか。それは探させてしまって申し訳ありませんでした、グラート殿」


「いいえ、とんでもございません。我が家の養い子が何か失礼な真似をしませんでしたでしょうか」


 パパン、それ結構本気で訊いてるよね?

 父の目の動きでそれを感じ取ったわたしはちょっと不満だった。

 失礼だったのは彼らだよー。

 わたしの事、雑用係にしようとしたのよー。


「いいや。噂に違わない素晴らしい子供だった。できればこのままわたしの従者になってくれないかと話していたところだ」


 父の目がわずかに細まる。

 あれはなんだろう、怒っているというよりは計算している?


「どうだろう、グラート殿。彼をわたしの従者にくれないか」


 猫の子でもやり取りするような言い方だな。

 これだから貴族とか王族とか皇族とかってやーねぇ。


「ははは、ありがたいお話ですが、この子はもうクレメンス様にお預けする事になっておりましてな」


 突然、ご機嫌な様子で笑い出した父がとんでもない事を言い出した。

 ちょっと聞いてないけど、マジ!?


「父上に?」


 殿下が大きく目を見開く。


「ああ。さあ、陛下をお待たせしてしまっている。行くぞ、君ーー」


「リュートです」


「リュート、来なさい。陛下がお待ちだ」


「かしこまりました」


 一礼後、わたしが父のほうへ目をやると、父は目が合わなかったフリをした。

 マ〜ジ〜か〜〜〜。


 売りやがったな、ちくしょう!!













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