さす神
そうして神が提案してきた内容はこうだ。
匣の世界設定を地球にする。
ミリアムになる前の前世のわたしをアバターにする。
わたしは匣の世界で都心に住み、マンションの一室でひたすらに色んなゲームをプレイする。
プレイしたゲームでの経験値がそのままわたしの経験値になり、レベルアップする。
ゲームは飽きたら他のものに変更できる。
ゲーム内の魔法やスキルは希望があればゲットできる(ただし神が満足すれば)。
ゲームをするのにも飽きたら外出できる。
外出先は国内ならどこでも可、サービスも日本国内のものをインストール済み(ただしスタッフは全員NPC)。
これを100年繰り返す。
……。
クソゲーか。
いや待て、社畜やってた人間にはご褒美かもしれない。ゲーム好きなら尚更だ。
「いろんなゲームって、例えば?」
「君が死ぬまでに出てたやつはひと通り揃えてあげるよ」
神か! いや神だったそういえば!!
これであの手放したゲームや積んでたゲームができる!
まさに天国!!
「あ、でも食事とかは?」
「食べなくても平気だけどお金は一定金額用意するから、食べたいなら買えばいいよ。料理してもいいし、デリバリーを取ってもいい。なんなら外食も可能だし、デートのお誘いなら当然付き合うよ?」
外食?
という事はあれだ、お店があるって事よね?
そういえばさっき、サービスは日本国内のものをインストール済みって……。
「ち、ちなみに神様、外食はどのようなところでできるのでしょうか?」
声が震えた。
だってここめちゃくちゃ大事なとこ。
「ん? 全部」
「ぜぜぜ、ぜんぶ?」
「そう、全部。日本にある全てのサービスを含めた土地建物をデータとして入力済みだからね。なんだったらネズミーランドにも行けちゃうよ? 君以外みんなNPCだから独り占め状態だね!」
いらんわそんな独り占め!!
思ったがわたしは口には出さなかった。
かわりに我が神の前にひざまずく。
「我が神よ、なんなりとお命じください」
「わが愛し子、おまえに苦難を与えよう。この匣の内部に入り、100年の孤独を乗り越え、そして最強の伝説となって帰ってくるのだ!!」
「お任せを!!」
やっぱりノリがいいな、我が神。
ヤバい、我が神って違和感がないよ。ほんとにわたしの守護神だったりしないよね? いや付き合いやすいし分かりやすくていいけどさ。
そしてわたしは次の瞬間、ものすごく大事な事に気がついた。
はっと顔を上げ、演技も忘れて問いかける。
「これ、もしかして外出先での経験も経験値になる?」
すると神は眉を吊り上げ、口をへの字にする。
「さすがにそれは欲張り過ぎだよね。今さ、美味しいもの食べてホテルのバーでうまい酒飲んで、居酒屋でしたたかに酔っ払っても経験値になるなら最高って思った? 思ったよね?」
わたしはふい、と視線をそらす。
そしてボソボソと呟いた。
「やだなぁ、いくらなんでもそこまでは」
近い事は考えてたけど。
「頑張ってレベル上げてくれるなら、アバターは太らないようにしてやってもいい」
「必ず、必ず最強の伝説となってみせます!!」
「さすがわが子。恥ってものが無いよね。僕そっくりだ」
いやーー、否定はできないけどほんとあんたそっくりとかは勘弁だわ。
乾いた愛想笑いをするわたしに、神はにっこりと笑みを向ける。
それは多分はたから見れば、とても美しい光景だったかもしれない。
ともかくこうして、わたしの100年のハードモードは始まったのだった。